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61話 戦闘タイプと武器の変遷

「それで、体力づくりばかりしていた理由っていうのは?」

「その話をするには、戦闘におけるタイプを知らないといけないっすね」

「タイプ?」

「さっき言っていたこれまで相手をしてきた人のことを思い浮かべてください。共通点はないっすか?」

「共通点……」 


 ルインスに言ったのは、カリム、虎の獣人、カリューだ。


 その3人の共通点なんてあるか?


 カリムはデブだが、他の二人はそうでもないし、どちらかと言えば筋肉質だ。

 いや、見た目はどうでもいい。 

 戦闘におけるタイプか……考えれば出てきそうな気がする。

 戦った時の様子を思い出してみる。


 カリムは論外だが、戦うとなったらあの体格を利用して突撃するとかか?

 虎の獣人は獣気を使って、生身で強力な攻撃を放ってきた。

 カリューは水を操り、波動を使う武人という感じだったな。


「全員魔法使いじゃないくらいかな」

「近いっすね。正解は、全員近接タイプって事っす」

「それを知ってどんな意味があるの?」

「結構大事なことっすよ。まず、獣人の話からしましょう。獣人は魔法が使えないのは知ってるっすよね?」

「うん。代わりにみんな獣気を使えるんだよね?」

「そうっす。ただ獣気は強力っすけど、獣人は生身での射程が短いっす。要は、獣人は近接タイプしかいないんす」

「近接タイプしかいない……それはなんで?」

「理由は簡単っす。獣気は肉体を強化して、相手をぶん殴るのに向いてるんすよ。ただ、遠くまで届くような攻撃は不得意っすね」


 獣人は遠距離攻撃が苦手というわけか。


「でも、魔法使いは違います。大抵の魔法使いは近接タイプと中距離タイプに分けられるっす」

「遠距離タイプは?」

「じゃあその話から。クラウ様は魔法で氷をどこまで飛ばせるっすか?」

「うーん、やったことはないけど目の届く範囲なら飛ばせると思う」

「その時、魔法の威力はどうなるっすか?」

「離れたら離れただけ弱くなるよ」

「そこなんすよ。魔法使いの魔法の射程は魔素量に依存するっす。強力な遠距離攻撃を放とうとすれば、大量の魔素が必要っす。でも、そんな魔素を持ってる魔法使いは限られるっす。それこそ上位貴族くらいじゃないと難しいっすね。それに距離が離れる分、攻撃の精度も威力も落ちるっす」

「なるほど。だから、遠距離攻撃が得意な魔法使いは少ないんだね」

「そうっす。なので、大抵の魔法使いは目視できる範囲くらいで魔法を使うっす」


 魔法使いに遠距離タイプが少ない理由は分かった。


「大事なのはここからなんすけど、魔法だけでは遠くに攻撃が届かないってなった時、どうすればいいっすか?」

「道具を使うんじゃない?」

「その通りっす。正確には武器っすね。うちの騎士にも弓を使う奴がいて、そいつは魔法を組み合わせることで遠距離にも攻撃を可能にしてるっす」


 魔法と武器で射程を伸ばすことができるってことね。

 俺は氷魔法だけで戦ってきたけど、そういう組み合わせも可能か。

 でも、剣も弓も持ちたくないし、見た目がかっこいいなと思うだけで十分だ。

 俺は氷魔法だけでいい。


「そして、ここに目を付けたのがうちの国っす。獣人でも魔法使いでも苦手な遠距離攻撃を、魔法が使えない人間でもできれば強いんじゃないかって考えたわけっす。今、この国では誰でも使える遠距離武器の開発を進めているっす。元々、武器ってのは、近接戦闘用の剣や槍みたいなものが主流だったんすよ」

「じゃあ、前に言っていた獣人の国に戦争で勝ったっていうのも、その遠距離武器のおかげなの?」

「いやー、おそらくそれは違うっすね。開発が本格化したのは最近で、一般的に使えるようになるには資源も技術も足りてないんすよ。獣人の国に勝てたのは、純粋に獣人と魔法使いの射程の違いと戦略の幅の違いが大きいんじゃないっすかね。獣人は獣気だけっすけど、魔法使いの魔法の種類は豊富っすから。自分もその時はまだ子供だったんで詳しいことは分からないっす」


 へぇー。この世界の武器の変遷を知ることになるとは思わなかった。

 軍の情報は民間には出回っていないが、どんな遠距離武器があるのだろうか?


「さて、戦闘タイプがある程度わかったところで、なんで体力づくりをやっていたかって言うと……相手から逃げるためっす」

「へ? 逃げるため? 戦うためじゃなくて?」

「はい、逃げるためっす。実はこれまでに何度も言ってたんすけどね。さっきも説明したように遠距離攻撃を使う相手っていうのは、実際かなり少ないんす。大量の魔素量を持っていても、わざわざ精度も威力も落ちる遠距離攻撃をする人は少ないですし、たとえ遠距離武器を使っていても、クラウ様の魔法なら身を守れるはずっす。そうなると、課題は近接タイプや中距離タイプの射程に入らないように立ち回ることっすよね。相手の攻撃範囲を避けながら逃げ続けるにはかなり体力が必要なんすよ」


 相手の射程範囲に入らないためには、素早さや持久力、瞬時の判断力など、いくつもの技術が求められるだろう。

 その中でも、持久力はすべての基盤となるからこそ、これまで体力を重点的に鍛えてきたというわけか。


「でも、戦わなきゃ守れないんじゃ」

「それは最後の手段っす。逃げるっていうのは悪いことじゃないっすよ。相手の情報を持ち帰ることの重要性は説明したっすよね? 相手の情報が分かれば対策を立てられる。他にも、時間稼ぎっていう意味でも逃げるのは有効っす。自分より強い相手と対面した場合、逃げられれば成果としては十分なんす。これからは相手の射程に入らないように逃げ回る訓練もする予定なので、そのために体力をつけてもらったっすね」

「え!? 森に来たのってそのため?」

「そうっすよ。障害物を利用して、相手の視線を切る方法なんかも教える予定っす」


 どうやら、俺はこれから森の中で逃げ回らなければいけないらしい。

 いい加減魔法も使いたいのだが。


「もちろん、魔法の訓練も並行して行うっす。逃げることに関しては割とすぐに身に着くと思ってますよ。クラウ様からは時折っすけど、フリード様の戦闘センスを受け継いでると思わされるところがあるんで。危機察知能力とか、カリューの不可視の攻撃も感覚で防いでたっすよね」

「なんとなくだけどね」

「その感覚は大事っすよ。鈍い人はどれだけ鍛えても鈍いままっすから」


 戦いの場だけでなく、日常生活でも俺は自分の勘を信じることが多い。

 例えば、背中にぞわっとした感覚を覚えて後ろを見たら、リトが棚の上から皿を取ろうとして、皿が落ちそうになっていたなんてこともあったし、街で通りに出ようとした時に危険を感じて身を引いたら、人が走って通り過ぎたなんてこともあった。

 俺はフリード子爵のセンスを継いでいたのか。


「ま、自分が教えようと思ってたのはこんなところっすね」

「途中で気になったんだけど、カリューは近接だけじゃなくて、波動を飛ばす技とかも使ってきたよ」

「あれはおそらく中距離タイプを狩るための武術っすね。あくまで本人が得意なのは近接戦闘って話っす」

「そうなんだ。ちなみにルインスは何タイプなの?」

「あー、それ聞いちゃいます? 自分は中距離兼遠距離タイプっすね」

「どういうこと?」

「自分の魔器はちょっと特殊で、昼間は眠っていて夜になるとようやくまともに働くんすよ。だから昼は中距離で、夜は遠距離って感じっすね」

「へぇーそういうのもあるんだ」


 サターシャもルインスの魔素量は騎士団の中でも突出しているって言ってた気がする。


「色々例外は存在するっす。遠距離タイプの例でいうなら、魔物の死体を動かす奴もいるんすけど、距離や範囲は魔素量次第で動きの滑らかさとか正確さは技術次第って言ってたっすね。なので、技術次第では近距離でも精度が落ちることもあれば、遠距離でも精度は落ちないみたいっす」


 魔法によってはどれでも対応できるものや技術次第で射程が変わるものもあるんだろう。


「俺は中距離タイプになるの?」

「そうなるっすね」

「相性とかはあるの? 近接は中距離に弱いとか」

「それはないとは言い切れないっすね。中距離は近接の射程に入らなければ一方的に攻撃できるっすから。もちろん、その対策はみんなしていて、それがさっき言ったカリューの武術とかの話になります。他には副団長も普段は近接で伸びる剣とか」


 近接タイプの人は射程が短いことを自覚しているから、その対策もしているのを前提に立ち回るべきか。


「もっというと、感覚型と思考型にも分けられるんすけど、聞きます?」

「もうここまで来たら全部教えてよ」

「これについては、結構意見が分かれる部分ではあるんすけど……。戦う時に直感で動くのが感覚型、頭で考えながら戦うのが思考型っすね。たとえば、ラフィちゃんは感覚型。リオネル君は典型的な思考型っす。クラウ様も思考型でしょう。実際、この分類が元になって、指導者とかも選ばれてるんすよ」

「そんな風になってるんだ。でも、なんで最初に教えようとは思わなかったの?」

「正直、知ってもあんまり意味がないからっす。感覚型だと思われてた人が思考型に変わることもあるし、珍しいけど逆もあるんで。でも、指導者がそういう基準で選ばれてるって覚えておけば、それで十分っすよ」

「ルインスは分かるけど、サターシャも思考型だから俺の指導をしてくれてたの?」

「副団長は直感型っすね。脳みそが筋肉でできてるタイプっす」

「それ、後で言っておくからね」

「ちょっ、冗談言っただけっすから、裏切りはやめましょう!」


 一通りルインスの話は終わったみたいだ。

 それなら……。


「もう一回鬼ごっこやろうよ」

「いいっすよ。これまでの話を聞いたうえでどうするのか楽しみにしてるっす」


 よし、さっき負けた分は次で取り返してやる。今度こそ勝つ。


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