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50話 ラフィ奪還

今回を含め、あと3話は19時ごろに連日投稿します。

「行くぞっ! 深海領域!」


 ハイネは海裂魔刀ウミワリを地面に突き刺す。

 その瞬間、刀の先から全身に伝わるような圧力が広がり、フリード邸の庭全域が水中のような圧迫感に包まれる。

 まるで深海の底にいるかのような、息を呑むほどの重さが空間を支配する。


「……っ、今だ! 我ら海人族の力を見せつけろ!」

『はっ!』


 その力の反動でハイネは苦しそうにしながらも、海人たちを鼓舞する。

 海人たちはその言葉に奮い立ち、まるで自分たちの領域であるかのように、先ほどよりも軽快な動きを見せる。


「わっはっは! いいぞ。儂もようやく調子が上がってきたぞっ!!」

「なぜ人族のくせにここまで動けるッ!」


 人族ならまともに動けないほどの圧力がその身にかかる中、フリードの体からはさらに冷気が放たれ、海人たちに立ち向かう。

 フリードの冷気によって庭の空気は極寒の地のような寒さに変わり、海人たちの動きも鈍くなる。

 海人たちはそれぞれの水霊器の特性を活かし、近距離・遠距離の役割を分担して巧みに立ち回るが、フリードの氷の守りを崩すことはできない。

 次々と凍りつき、戦闘不能に陥っていく。

 そしてその数は徐々に減少し、戦況は次第にフリードの有利に傾いていく。


「もう一度だ! 裂海」

「“やめるんだ”」


 水を吸収させ終えたハイネが再び海裂魔刀ウミワリを振るおうとしたその瞬間、水を差すように男の声が空から響いた。

 本来ならば一声で戦闘が止まるようなことはないはずだが、その男の声には不思議な力が宿っており、聴いた者の脳を深く刺激する。

 戦っていた者たちは、その声に影響され、思わず手を止めてしまう。


「まさか勝手に襲撃をするとは思わなかったよ。待てと伝えていたはずだが?」

「うるさい」


 突然現れた男は空中から降りると、空間の圧力も寒さも気にせずにゆっくりとハイネの元へ近づく。

 その男の手には気絶したラフィが抱えられている。


「手を抜いたフリードでこの状況だ。今の君ではまだ彼を殺すことなんてできないよ。今日のところは引きなさい」

「ふざけるなっ! あたしはまだ……」

「無駄に同胞たちを殺す気かい? 別に私は目的が同じである君さえ生きていれば構わないが」

「……くそっ、分かった。だが、あいつはあたしの手で殺すからな」

「ああ。そのために君たちを仲間に入れたんだ」

「姫っ! まだ我々は戦えます」

「“安心したまえ”。まだその時じゃないだけだ。すぐに君たちの秘宝を取り返す機会は来る」

「しょ、承知した」


 男はハイネたちに引くように告げる。

 リューレンはハイネの決定に異議を申し立てるが、すぐに男の言葉に従ってしまった。


「貴様は……救済者デスター

「フリード、長らく合わないうちに老いたね。今はネフェリウスという名前でやっているんだ。君もそう呼んでくれ」


 ネフェリウスはフリードの方を向くと、久しぶりに友人に会うような気さくな笑みを浮かべる。


「やはり貴様が原因か。ハイネを誑かし、アブドラハを狙うよう仕向けたのは」

「何を言うんだ私はただ彼女に真実を伝えただけだよ」

「ふざけるな! その奇妙な力でハイネに余計なことを教えたんじゃろう!」


 フリードはそう言い、ネフェリウスに近づく。


「相変わらず、君は気が短いね」


 ネフェリウスはそう言うと、手に持っていたラフィの首を持ち、フリードの前に突き出す。


「うう……」

「ぬっ……!」


 ラフィの苦しむ顔を見て、フリードの動きが止まる。


「彼女がどうなっても良いのかい? 君の騎士団の子なんだろう? 今のうちに引きなさい」

「お前たち撤退するぞ」


 ハイネは能力を解き、海裂魔刀ウミワリを背中の鞘にしまうと海人たちに声をかけ、屋敷から立ち去る。


「行かせん!」

「君の相手は私だよ。それ以上動けばこの子の首を折る。せっかくの再会なのに寂しいじゃないか」


 フリードがハイネを止めようとするが、ネフェリウスがそれを塞ぐ。


「君たちは守る、繋ぐと大変だね。だが、それは愛されし者たちの傲慢だ」

「貴様には分からんだろうな。その子を離せ」

「いいや、分かるさ。だが、それは間違いだと悟った。今更分かり合おうなんて思わないが……」


 ネフェリウスは一瞬、口元に皮肉な笑みを浮かべた。


「私も傲慢で強欲なんだ。素直に見逃してくれるなら返すと言いたいところだが、君も先ほどの炎を見ただろう?  私もこの子の力には興味がある。だから安心してくれ。君が何もしなければ命は奪わないさ。このまま連れて帰るだけだよ」


 ネフェリウスがラフィを連れ去ると宣言した瞬間、


「ラフィを返せっ!!!」

「影縫い」


 遠くから、氷甲虫に乗ったクラウとルインスがものすごい速度で飛んで近づいて来る。

 振り落とされないよう、ルインスが影で体を固定している。


「クラウ! どうして来た!?」


 それにはフリードも驚いた様子を見せる。


「君の孫なんだろう? 本当は彼を人質にしようと思っていたんだが、自分から来るなんて子供とはよく分からないものだ……ん?」

魔糸束縛ましそくばく


 ネフェリウスは、いつの間にか自分の体が地面から伸びた糸によって縛られていることに気づく。

 数人の海人を倒して捕縛を完了させていたシルヴァは、ネフェリウスがクラウの方に意識を割いた隙をつき、ネフェリウスの体が動かないようその場に固定した。


「これはシルヴァか。くくくっ、フリード、優秀な部下を持ったね。でもこの程度じゃあ、」

吸血魔剣バンシーリーパー

「……ああ、魔人の娘も来たのか」


 空中から伸びた剣によって、ネフェリウスの伸ばしていた腕が切断され、ラフィは無防備に倒れ込む。


「ルインスっ!」

「任せるっす」


 クラウは氷甲虫の背後から氷を噴出して加速し、倒れ込むラフィをルインスが抱える。


「“消えろ”。神火は私のものだ」

「触るな!」


 ネフェリウスは体を束縛している魔糸を消し、斬られた反対の腕でラフィをつかもうとするが、クラウの手から火の腕が伸び、その腕を振り払う。


「“つながれ”。まったく、手癖が悪い。その子を返したまえ」

「行かせん!」

「行かせません」


 切断された腕を拾いつなげ、クラウたちを追おうとしたネフェリウスの前にフリードとシルヴァが立ちふさがる。


「閣下、どういうことですか? ハイネが生きているなんて」


 ネフェリウスの腕を切り落としたサターシャが飛竜から飛び降り、状況を確認する。


「サターシャ、話は後じゃ。今はハイネを止めてくれ。シルヴァも加勢せよ」

『はっ!』


 サターシャとシルヴァはフリードの指示に従い、サターシャが乗ってきた飛竜に乗ると、そのまま飛んで行った。


「やれやれ、どうせ完全には吸収できないだろうし、今は諦めるか。まったくフリード、君ほど運命に愛された者を見たことがないよ。私を討つ可能性のある者が何人もこの場に集まるなんて。やはり運命は引き寄せ合うようだ。そして、その中心には君がいる」

「貴様、ハイネを操り、あの雨を降らす魔道具まで狙って……一体何を企んでおる?」


 先ほどよりも静かな空間の中、ネフェリウスとフリードはにらみ合う。


「くくくっ、機会は平等でなければならない。私が与えられたように何も知らない君にも少しは教えてあげよう。まず、彼女は私でも操ることはできないよ。彼女も君ほどではないが運命に愛された子だ。彼女はね、心に闇を抱えていたんだ。君たち人族とは異なる容姿のせいで周囲に馴染めず、育ての親からは何も教えてもらえなかった。私はそこに少しだけ助言を与えて、彼女を悩みから救ってあげただけさ。そして、彼女は知ってしまった。君が盗んだ秘宝のせいで、同胞たちの住むの土地は枯れ、故郷を追われることになっているという現実を。それなのに、憎き人族たちは呑気に豊かな土地で暮らしている。全部君が悪いんだよ、フリード。君が彼らから奪った秘宝はね、土地を豊かにする豊穣の力も持っているんだ」

「なるほどのう……」


 ネフェリウスの言葉にフリードは考えを巡らせる。


「やはり貴様がその憎しみを利用してハイネに誤解を植え付けたんじゃな。確かに儂は海人族の秘宝を盗むことになったが、もともとその秘宝を盗もうとしていたのは貴様じゃろ。それをヴォルが命を懸けて貴様から守った。貴様には秘宝の力は必要ないはずじゃが?」

「ああ、君が私の腹を貫き、私が君の腕を奪った時の話をしているのか? 今でもあの時の衝撃は覚えているよ。幼子と秘宝を守りつつ、私と張り合える者が存在するなんて」


 ネフェリウスはそう言うと、静かに法衣を脱ぎ、腹部に刻まれた大きな傷跡を見せる。


「話を逸らすな」

「そう焦らないでくれ。長い期間、人と話していなかったんだ。確か、秘宝の話だったね。あれは我らが主の一部であり、今は意志亡き力の塊だ。先ほど君は雨を降らすと言っていたが、あれの力はその程度のものじゃない。上手く使えば、海を呼び寄せ、陸を沈めることだってできる。だからこそ、海人族は秘宝の封印を任される代わりに、豊かさを手に入れられたんだ。その秘宝を失った反動で土地が枯れてしまったのさ」

「貴様がその封印を解いたのか?」

「それと」


 フリードの質問へは無視し、ネフェリウスは続ける。


「ヴォルター君が秘宝を守ろうとしたのが“私から”というのは間違いだ。私一人で封印が解けると思うかい?」

「まさか!?」

「教えすぎてしまったかな。運命とは幸運ではない。本当に哀れな子だよ。後は君の想像している通りだ。だが、私の計画はあの時、君というイレギュラーによって変更せざるを得なくなった。君を殺すためだけに国を滅ぼし、新たな国を興すことになるとは思わなかったよ。私は君から学んだんだ。時には争いも必要だということを。そして、君を殺すための力も手に入れた」

「……どういう意味じゃ?」

「さて、話はおしまいだ。まだその力を取り込んでいる最中でね。少し実験に付き合ってもらうよ」

「待て!」

「また会おう。終焉の聖光ライト・オブ・アポカリプス

「くっ、沈界!」


 ネフェリウスは爆発的に発光し、周囲を吹き飛ばそうとする。

 フリードはそれを魔法で抑え込む。

 だが、光の衝撃波は想像以上の強さを持ち、フリードは足元が崩れるのを感じながらもその力に耐え続けた。

 アブドラハ全体が地鳴りのように揺れ、空気すらも震える。

 建物が悲鳴を上げる中、フリードは必死に立ち続ける。

 ようやく光が収束し、静寂が戻ったとき、ネフェリウスの姿はどこにもなく、そこに残っていたのは崩れかけたフリードの屋敷と深く抉られた庭の地面だけだった。




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