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45話 Vs.海人族の戦士カリュー

 ―――ルインス視点―――



「ネマ、ナジム、ここは任せるっす! なるべく生け捕りにするっすよ」


 目の前の海人と名乗る女を部下に任せ、クラウ様の方へ向かう。


 襲撃は突然だった。

 まさか、民間人が集まる祭りの日に、魔物と同時に襲撃者が現れるとは思いもしなかった。

 リーシャから魔物の大量出現と、副団長からの避難誘導指示が届いたとき、嫌な予感はしていた。


 無駄な混乱が起こらないよう迫りくる魔物の情報は伏せ、受け入れ態勢を整え、避難指示を出したばかりというところで襲撃者は現れた。

 衛兵や狩人組合にも協力を仰いでいるが、まだ指示が行き渡っておらず、多くの人が祭りを楽しんでいる。

 今のところ街で襲撃者が確認しているのは、諜報部隊が避難誘導をしている騎士団拠点周辺と、クラウ様がいる少し離れた商業区画だ。


 まだまだ人が押し寄せているが、自分の魔法なら関係なく進むことができる。

 影と一体化し、液体のように影と影の間を滑るように進む。

 影魔法を使えるようになってから自然と覚えていたが、魔法を扱うにつれ、今では両足で走るよりも早く移動できる。


 途中、クラウ様のところにいる影から様子を見ているが、うちの騎士見習い達が抑えているようだ。


『うわーん』

「おかあさーん」

「うるさいなぁ。そんなに泣きわめくと殺しちゃうよぉ?」


 その声で視点を自分のところへ集中させる。

 見れば、耳辺りに鱗のある青年が人族や獣人族の子供たちを集め、いたぶっている。

 中には怪我を負った子供たちもおり、それを助けようとしたであろう顔見知りの衛兵は生死不明だが、血を流し倒れている。


「大丈夫っすか?」

「……気を付けろ。強いぞ」

「ちょっと待ってるっすよ」


 良かった。息はあるみたいだ。


「失礼するっす」

「うおっ」


 影から飛び出し、子供たちと海人の間に入る。


「一応聞いておくっすけど、あんたのせいっすよね。どういうつもりっすか?」

「なんだぁ? このヴェーゼ様の遊びを邪魔すんなよぉ」

影幕シャドウ・カーテン。お前が他人の未来を平気で奪うクズである以上、俺がお前を殺し続ける」

「何言ってんだぁ? その雰囲気、お前も相当な人数殺してんだろぉ。人のこと言えんのかよぉ。水霊器ハイドラ

「だから俺がるんだ。囲め囲め」


 子供たちに見えないように後ろを影で仕切り、十体ほどの黒い剣を持った『影の従者シャドウ・サーバント』をつくりだす。

 十体の影はヴェーゼを囲み、ゆっくりと周回する。 

 水を集め短剣をつくっている間に、その影の中に紛れた。


「意味わかんねぇよっと」


 ヴェーゼが水の短剣を地面に刺すと影の下から細い水の剣が現れる。

 何体かの影はそれを避け、何体かはそのまま動かない。


「……これは影かぁ? こんな実体のないもの、いくら出しても無駄だろぉ」


 水の剣が突き刺さったところで、どの影も消えることはない。

 周回している影の二体をヴェーゼに向かわせる。


「よっ、これは偽物、ん? こっちが本物かぁ」


 一体目の影が持つ剣は霧散し、二体目の剣は霧散せず、音を立てて弾かれる。

 二体は囲いの中に戻り、剣を持たない一体の影の手元にも再び剣が宿る。


「なるほど、影に紛れて攻撃しようってことぉ? でも、これが本物だよなぁ?」


 ヴェーゼは戻った影の一体に近づき、水の短剣を突き刺すが、剣は霧散してしまう。


「おいおい、なんだ? さっきまで本物だっただろうが」

「その死で償え。十影暗襲とえいあんしゅう


 残り十体の影がヴェーゼを襲う。


「何なんだよ! 斬っても斬れねえし、本物かと思ったら偽物だし、卑怯だ……あっ、うっ、なん……」


 ヴェーゼは抵抗しようとするものの、消えたり現れたりする剣を捌ききれず、最後は十体の影が持つすべての剣が体に突き刺さり、その激痛から気絶する。

 剣によって刺されたはずの体からは血が出ることはなく、刺された跡もない。


「すみませんね。この幻影魔剣ファントムはあるようでない、ないようである、自分とは真逆の嘘つきな剣なんす」


 近場の衛兵に意識を失っているヴェーゼの捕縛と倒れている衛兵、そして子供たちの保護を頼み、クラウ様の元へと急いで向かう。


 クラウ様には命と向き合ってもらい、少しでもその抵抗をなくしてもらうために森で獣との戦闘経験を積んでもらったが、獣と人では戦い方も変わってくる。

 その先の指導はまだまだこれからだというのに……。

 内心焦りながらも送ってある影の視点をのぞいてみる。

 どうやら向こうはかなりまずい状況だ。




 幻影魔剣ファントム

 この世界に20本存在すると言われる本物の魔剣のうちの一つ。

 ルインスの実家である貴族家に先祖代々伝わっていた。

 ルインスが逃げ出したため、彼の手元から一度離れたが、「運命」への干渉を行い、再びルインスのもとに戻った。

 刺し殺すことも可能であるが、ルインスは刺した感触と痛みだけを残してヴェーゼを戦闘不能にした。


 魔剣

 魔剣から認められた者が所有者となる。

 認められた者以外が振るおうものなら、待っているのは……。

 所有者がいない間は眠りにつき、相応しい者が現れるのを待っている。



 ―――クラウ視点―――



「リオネル、レオノーラはいつも通り。氷屋は後ろでいざという時の守りを頼む」

「ああ。ルインスを呼んだから、それまで耐えてくれ」

「了解しました」

「了解ですわ」

「どうした? 来ないなら、こっちから行くぞ?」

「うるせえっ! 火炎斬フレイム・スラッシュ!!」


 ラフィは火力を上げ、カリューに向かって火炎の斬撃を飛ばした。


「今だ、レオノーラ!」

「はい、お兄様」

『合体魔法、旋回刃盾撃スピニング・シールド


 リオネルは刃の付いた盾をつくり、それをレオノーラが茨で振り回し、勢いがついたところで敵に投げつけた。


「波動掌! 三連波」


 カリューは火炎の斬撃と盾を不可視の衝撃波で吹き飛ばし、こちらに向けて攻撃を繰り出した。


「氷壁」


 炎と盾の弾かれ方からして危険だと思い、みんなの前に氷の壁を作る。


 パキパキ……


「あれ? 意外と割れてない」


 氷の壁は破られることはなく、多少割れる音がしただけだった。


「なぬっ! 何故割れん!」


 カリューも戸惑っている様子だった。


「今だっ! リオネル、来い」

「はい!」


 ラフィとリオネルが飛び出し、カリューに攻撃を仕掛ける。

 戸惑っていた様子のカリューも正気に戻り、二人を相手に近接戦闘を繰り返す。

 攻めをラフィ、守りをリオネルが担い、レオノーラが茨魔法で時折妨害することによって、何とか渡り合うことができている。だが……


「まだまだ連携も技も未熟だ。 波動掌!」 

「うっ……」

「火力は上がっているようだが、動きが単調になっているぞ?」


 カリュー三人の連携の甘さを突き、リオネルを壁代わりにしてレオノーラから視界を遮り、妨害の手を封じる。

 そして、近づいてきたラフィの攻撃を軽やかにいなすと、その勢いのまま鋭い反撃を繰り出した。


「危ないっ!」


 カリューが今まで以上の技をラフィに向けて放とうとしていることに気付いたリオネルが前に出た。

 カリューの手甲はぐるぐると回転しながら姿を変え、巨大な波紋へと変わる。


波濤崩はとうほう


 地面を抉るほどの強烈な衝撃波が広がり、リオネルは大きな波に巻き込まれるかのように、勢いよく建物へと吹き飛ばされてしまった。


「ぐうっっっうわぁぁぁ」


 リオネルの叫び声が、崩れ落ちる建物の音にかき消される。


「お兄様!!」

「次は貴様だ」

「させねえよ!」


 カリューの狙いがレオノーラへと向けられた。

 リオネルという盾役がいない今、ラフィが必死に阻もうとするも、攻撃を防ぎきれず、カリューの鋭い蹴りを受けて地面に叩き伏せられた。


「波動掌」

「氷壁」


 遠距離からレオノーラを狙い放った技をまた氷魔法で防ぐ。


「何だというのだ? こんな薄氷ごとき、どうして割れん!」

「氷甲虫」


 その隙をつき、氷甲虫に乗り、レオノーラを抱えて距離をとる。

 最近、鍛えててよかった上半身。


「助かりましたわ」

「リオネルの方に行ってやってくれ」

「クラウはどうするのですか?」

「いいから、早く!」


 みんなのおかげでかなり時間を稼げた。後は俺がルインスの到着する時間を稼ぐだけだ。

 もう一度カリューの元へ戻る。


「お前の技は大気中の水に波のような振動を与えてるだけだろ? 俺の魔法はお前が与えている水の運動を制止し、凍らせる。お前の攻撃なんて届かないんだよ」

「波動掌! 五連波!!」


 カリューが怒りのこもった声とともに次々と衝撃波を放ってくる。


「氷壁、氷壁、氷壁!」


 立て続けに氷の壁を生み出し、衝撃波を寸断していく。

 破壊されても次々に新たな壁を作り出し、攻撃を完全に防ぎきる。


「人族の小僧、なめるなよ。波濤崩はとうほう


 カリューはリオネルを吹き飛ばした大技を使おうとする。

 察知した危険に即座に対応し、俺はさらに広範囲を覆う魔法を放つ


「大氷壁」


 振動するすべての水を凍らせているわけではないので、完全には振動を止めることはできないようだが、今度も何とか防ぐことはできた。

 だが、ほっとする間もなく……


「甘いわっ!!」


 バキバキッ


「ぐっ」


 カリューは間髪入れずに突撃し、氷壁を砕くと同時に俺の首根っこを掴んだ。

 その手から感じるのは逃れられない圧倒的な力だ。


「貴様の言う通り、我ら海人は水を操り、波動を生み出して戦う。観察眼だけは褒めてやろう。だが、明らかに実戦の経験が足りん。こうして近づけば、貴様の凍らせる術も無力だろう?」

「うぅぅぅ」


 苦しい。息ができない。

 首をつかむカリューの手を凍らせたところで、すぐに手甲が弾いてしまう。


「その厄介な魔法。まずは、貴様から殺してやろう」


 カリューは手甲を回転させる。


 くそっ、ここまでだったか。


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