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44話 アブドラハ襲撃

 ―――サターシャ視点―――



『南方より、む、“群れ”出現です。そ、その数推定300以上。もうすぐ警戒区域内に侵入します。副団長、直ちにだ、団員を派遣してください』


 来たか。


 音魔法使いのリーシェが魔物群れの接近を感知した。

 今日は祭りで人が集まる。

 念のために遠距離感知が得意なリーシェを見回り担当にさせて正解だった。


「聞きなさい! たった今、リーシェから伝達が来ました。南方から魔物の軍勢がアブドラハに押し寄せています。具体的な数は分かりませんがその数300以上。直ちに準備し、出撃します」

『はっ!』


 訓練を行っていた騎士団員たちはその動きを止め、各自で準備を始める。


「300以上だって!? はぐれじゃねえ、群れだ! そんなに来たらこの街が壊滅するぞ」

「クソッ。今日は祭りで人が集まる日だってのに……狙ってきやがったな」

「めんどくさーい」

「今日は魔物肉だぞ! どう料理してやるか」

「魔物肉。……じゅるり」

「そんなの前代未聞だニャッ!」


 これはおそらく計画された犯行だろう。

 どうやったのかは分からないが、砂漠の高魔素地帯から魔物をアブドラハに襲撃させるとは。


「無駄口をたたく暇があったら急ぎなさい」


 ここまでの大規模な襲撃は部下にとって初めてのことだろう。

 だが、今慌てても状況は変わらない。

 共振石を使い、もう一度リーシェとつなげる。

 共振石は音魔法を使いその振動が調整することで、双方の会話を可能にすることもできる。

 熟練の音魔法使いであるリーシェにしかできないのは欠点だが。


「リーシェ、聞こえますね。ミラジアと街に帰還し、諜報部隊には民間人の避難誘導をさせなさい。避難場所は現場の指示に任せますが、騎士団の所有地も開放します。民間人は南側と北側の貴族街には近寄らせないように」

『き、北ですか?』

「おそらく敵の狙いは北にあります。閣下の邪魔になるので近づかせないように」

『り、了解しました!』


 この襲撃はおそらく例の魔道具を狙う組織の仕業だろう。

 仕掛けてくるとは思っていたが、まさかここまで大胆に攻めてくるとは思わなかった。

 今までこそこそ動いていたというのに……いや、考えても仕方ないこと。

 向こうから攻めてきたのなら好都合。

 可能なら捉えて情報を引き出せばいい。


「団長、準備が整いました」

「いいか、お前たち! 今こそ我々フロスト騎士団の力を示すときだ! 恐れずこの俺についてこい。はっはっは!!」

『はっ!!』


 部下たちは団長の号令に応え、士気が一気に高まる。


 さて、相手が誰であれ、私たちに舐めた真似をしたツケを払ってもらいましょう。




 *****




「いらっしゃい」

「ああ、来たぞ」

「クラウ殿、失礼します」

「お邪魔しますわ」


 今日は祭りの日で出店がメインなので店舗区画は休業するところも多い。

 様々な理由から、うちの店も休みにした。

 俺も暇になったので、ラフィと今年は祭りに参加したことがないリオネルとレオノーラを誘って、平民街を案内しつつまわってみるかと話していた。

 とりあえず午前中はうちの店の料理を堪能してもらおうと思い、来てもらったわけだ。


「モリスも休みなのに、ありがとうな」

「とんでもないです。私にとって、料理を作って食べてもらうことが生きがいなんですから」

「モリスの作る飯はめちゃくちゃうめえからな」

「ラフィはいつも食いすぎだぞ」

「腹が減るんだから仕方ねえだろ」


 ラフィはサターシャとの修行から帰ってきてから驚くほど食べるようになった。

 修行で習得した『オーラ』は燃費が悪く、使うとすぐにお腹が空いてしまうらしい。

 まだ体の一部しか使えないようだが、使えるようになっただけでもすごいだろう。


 騎士団でも料理番はいるらしいが、その料理番は騎士との兼業なので、昼食しか出ないそうだ。

 最近では、閉店時間になると家から年下組を連れてきて、残った材料で作るモリスのまかないをみんなで食べに来るようになった。

 これに関してはシータたちにも負担がかかると思ったので、モリスにまかないをお願いして、その分給料を上げた。

 このままいけば、モリスも2年もたたずに奴隷から解放されるだろう。


 ズドンッ!


 さっそくモリスに色々作ってもらおうと思ったところで、遠くから何か大きな音が聞こえ、衝撃波が伝わってきた。


「きゃああああ!!」

「逃げろ! 襲撃だ」


 その衝撃波に続いて、悲鳴と混乱の叫び声が辺りに響き渡る。


「こりゃ、のんびり食ってる場合じゃねえな」


 そう言うと、ラフィはすぐに店を出て、音の出どころへと向かう。


「モリスは避難してくれ!」

「クラウ殿も避難してください」

「危険ですわよ」


 リオネルとレオノーラの制止を振り切り、俺もラフィの後を追う。

 俺にできることは限られてるが、それでもサターシャが前に言っていたラフィが暴走する危険性の話やアブドラハを守りたいという気持ちから体が動いていた。


 ひとまず、冷静にやれること……ルインスだ。

 走りながら、共振石を使い、ルインスに知らせることにした。


 ブルブル……ブルブル……


 すぐに反応が来るわけではないが、これでうねうねを送ってくるだろう。

 人の波に逆らい、少し走るとラフィを見つけた。

 どうやら、武器屋から武器を借りていたようだ。


「氷屋! なんで来た!?」

「危険なら俺も戦う。俺にも守らせてくれ」

「……分かった。だが、絶対にオレの後ろにいろ。急ぐぞ」

「ああ。かなり近いはずだぞ」


 しばらく人の波に抗って進んでいくと、ようやく視界が開け、壊れた屋台や建造物、倒れた数人の衛兵たち、そして、そこに立ち尽くす人影が見えた。


「人が虫のように逃げるのは爽快だな! はっはっは」


 やばい奴がいる。


 上半身は水と思われる液体で覆われており、素足で仁王立ちしながら笑っている。

 きれいな碧色の髪に、耳付近にはヒレがついていて、手には鱗もある。

 初めて見る種族だ。


「てめえだな? 何のつもりでこんなことやってんだ」

「なんだ、人族の子供か? もっと手ごたえのありそうな奴と戦いたかったんだがな」


 向こうは話すつもりもなさそうだ。


炎纏剣エンチャント・フレイム


 ラフィが剣を抜き、炎を燃やす。


 すごい。前見た時よりも魔法の扱いが上達している。


「ほお、子供とはいえ魔法使いか。面白い。遊んでやる」

「うっせえ! 瞬炎加速フレイム・ブースト


 ラフィは敵に向かって、足から炎を噴き上げ、一瞬で接敵して切りかかった。


「流水波!」


 敵は体にまとっていた液体を手に巻き付け、何もない宙に正拳突きを繰り出す。


「ぐっ」


 勢いよく飛び出したラフィは押し返され、逆に吹き飛ばされてしまった。


「つまらん、こんなものか。……ぬっ」

「氷蛇拘束」


 俺はすぐに奥の衛兵たちまで届かないように辺りを凍らせ、氷蛇を相手の体に絡みつかせる。


「この程度!」


 氷蛇は敵の操る水によって体から引き剥がされ、渦を巻きながら粉々に砕け散った。

 対面して分かるが、今までの敵よりも圧倒的に強い。

 だが、今の動きで相手の技の正体は分かった。


「ラフィ、あいつは水をまるで波のように操ってる」

「水を操る魔法か?」

「ふっはっはっは! 魔法だと? 馬鹿にするな。この力はそんな低俗なものではない。これこそ我ら海人が持つ力の一端よ」

「かいじん?」

「すぐ死ぬ貴様らに教える必要もないが、我の名前くらいは教えてやろう。我は海人族の戦士、カリューだ」


 聞いてもないのに、名前まで名乗りだしたぞ。


「こんな白昼堂々、何が目的だ」

「我らの秘宝を奪い、のうのうと暮らす人族への復讐と言いたいところだが、我にはそんなことどうだっていい。我が求めるのは命を懸けた闘争のみ。かかってこい人族の子供よ」


 カリューはその目をギラギラさせ、まるで戦いを心から楽しむかのような雰囲気を漂わせている。


 それにしても秘宝だと? 

 心当たりがあるとすれば、フリード子爵が言っていた魔道具だ。

 それにカリューの口ぶりから、仲間もいるようだ。

 となれば、おそらくこの襲撃は組織の仕業ということか?


「お前はあんま攻撃すんな。こいつはオレがやる。オーラ瞬炎加速フレイム・ブースト


 俺が思考している間に、ラフィがまた突撃した。

 オーラを足に集中させ、さっきよりもさらに速くカリューの元へと突撃する。

 カリューは彼女を弾き飛ばさず、ラフィの剣を巧みにかわしながら、反撃の一撃を浴びせる。

 攻防が瞬時に繰り返される。


『クラウ様、無事で何よりっす』


 ルインスの影がやってきた。

 カリューの方を警戒しつつ、俺は簡潔に状況を伝える。


『こっちの方でも襲撃があって民間人の避難と敵の対処で手一杯っす。自分がすぐに駆けつけるんで、クラウ様はどうか逃げてください。まだ人の相手は早いっす』

「いや、俺も戦うよ。覚悟ならある」

『……無理しないでください。すぐ向かうっすから』


 森での出来事以降、覚悟とは何かが少し分かってきた気がする。

 あれだけ「死にたくない」「戦いたくない」と思っていたが、大切なものを守るためなら戦える。

 不思議と死ぬことへの恐怖心がなくなるのだ。

 死にたいわけじゃないが、どうせ一度死んだ経験がある身だ。

 ただ、相手を殺せるかと言われたら無理だと思う。

 ひとまず、ルインスが来てくれるまでの間、時間を稼ぐことが大事だ。


「ぐあっ」


 カリューの攻撃が当たり、ラフィは勢いよく地面にたたきつけられる。


「やはり、魔法使いとはいえ子供相手ではつまらんな」

盾投げシールド・スロウ

茨縛りソーン・バインド

「ぐぬぅ」

「助けに来ました!」


 リオネルとレオノーラが助けに来た。

 カリューの体は茨に覆われて固定され、そこに向かって投げられた盾がぶつかる。

 その隙に、体勢を立て直したラフィが一度こっちに戻ってくる。


「助かったぜ」

「ラフィ、一人で無茶しないでくださいませ」


 リオネルは盾魔法、レオノーラは茨魔法の使い手だ。

 初めて見るが、どちらも魔法の扱いは上手い。


 不意を突いたレオノーラの茨による捕縛で敵は動きを止め、リオネルの投げた丸い盾はカリューの顔にぶつかった。

 カリューの頭からはじわりと血が流れ出す。


「なるほど。人族の子供とは言え、魔法使いが4人。我も少々本気を出すとしよう」


 冷徹な笑みを浮かべると同時に、カリューの雰囲気が一変し、殺気が周囲を満たしていく。


水霊器ハイドラ


 カリューの体にまとっていた水が超高速で渦上に回転し、茨を断ち切る。その後、カリューの拳にまとわりつき、手甲に姿を変える。


「面白れぇ。ぶった斬ってやる」


 その様子を見てラフィの目は獰猛に光り、スイッチが入ったかのように彼女の剣先がさらに強い炎に包まれる。

 だが、俺の目にはラフィが無理をしているように映った。





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