43話 ロゼ・クラウン開店
「……うーん、来てくれるかな」
「大丈夫ですよ。クラウ君もモリスさんも頑張ってたじゃないですか」
「そうそう、みんな優しいし、いつも通り来てくれるよー」
心配で辺りをうろうろしている俺にシータとメリアが声をかけてくれる。
なんで俺がこんなにうろたえているのかというと、ついにこの時がやってきたからだ。
「ロゼ・クラウン開店です!」
春先から店内の掃除や改装、装飾などいろいろな準備をみんなと始め、今日はカフェの一号店をオープンすることができた。
「うわー、きれいね」
「どんな料理が出てくるのかしら」
「いらっしゃいませー」
「ロゼ・クラウンへようこそ」
今日働いてくれるシータとメリアはいつも通り堂々とした様子だ。
二人とも立派になって……。
ガヤガヤ
俺の心配とは裏腹に開店早々店にはたくさんの人が並んでいる。
最近は出費ばかりで、去年の夏と秋で稼いだ分の金はほとんどない。
というか、失敗したら今月の賃貸料を払えるかさえ怪しい。
想定が甘すぎた。
「クラウ様、この客足なら何とか上手く回していけそうです」
そう俺に声をかけるのは、経理を担当してくれているティアだ。
彼女は奴隷商へ行き、優秀な経理を探していると伝えたところすすめられた。
彼女も獣王の治める国に住んでいた獣人で、もとは商人の娘だったらしい。
そのため、経済の知識や商売のノウハウには詳しい。
店舗を借り、内装を整えようと話したところティアに、
「クラウ様は店内の改装費用や調理器具、そのほかにも消耗品などの資金はどれくらいを想定されていますか?」
「え? 金貨20枚くらいで考えてるけど……」
「足りません。少なくとも倍はかかります」
そう言われたときは肝が冷えた。
俺は店なんて経営したことはないし、屋台一つがせいぜいだ。
どれくらいで何ができるのかなんて感覚でやっていたから知らなかった。
そう気づいた時にはすでに遅く、発注していた料理用の魔道具や畑の拡張、種の購入など別のことに大金を使ってしまっていた。
「調理器具は質の高いものを選ばないと、後々の手間が増えますし、料理を提供する以上、衛生面に配慮しなければいけません。それに、初期の広告費用も考慮しなければいけませんし……」
「あわあわあわ」
混乱する俺を見て、ティアは少し微笑んで、
「クラウ様、大丈夫です。まずは資金の見直しから始めましょう。必要な経費をリストにまとめ、どこで節約できるかを考えましょう」
そういうことがあって、大きな出費になる広告費をシータ達にも手伝ってもらい、常連さんや知り合いのいる店に張り紙をお願いすることで節約し、何とか予算の範囲で開店まで漕ぎつけたわけだ。
本当にティアを雇って良かったと思う瞬間だった。
今日は開店日ということもあり、忙しくなる可能性も考慮してシータ達と一緒に接客をやってもらっている。
そして、この店の名前はみんなで決めた結果、「ロゼ・クラウン」に決まった。
ほぼ俺の名前クラウ・ローゼンだ。恥ずかしすぎる。
じゃあなんでこの名前にしたのかって?
原因は俺の弟、リトだ。
冬場にシータ達の家で会議を行った。
*****
「という訳で、第一号店となるカフェの名前を決めよう!」
『おー!』
この会議の参加者は年長組のシータ、カイ、メリア、年下組のビン、サーラ、アイシャ、後はアミル、ファルク、俺についてきたリトだ。
リトはいつの間にか年下組と仲良くなっていたみたいで、たまにエリーラ母さんと遊びに来ていたらしい。
アミルとファルクはなんとなく呼んでみた。
「じゃあ、候補を出して行こう」
「安らぎとか涼しさとかを表現するオアシスとかを入れるのはどうかな?」
まず、そう発言したのはカイだ。
なるほど、オアシスを入れるのは良いな。
安らぎの印象もあるし、アブドラハの人にも受け入れられそうな名前だ。
「じゃあ、砂漠っぽさを入れて、デザート・オアシスとかどうかなー?」
メリアもその意見に乗っかる。
「なら、サンドとかも良いかもしれないわね」
「もっとあまいなまえのほうがいいとおもうなー」
シータが新たな意見を出したところで、サーラがそう言った。
確かに、うちのカフェの目玉は甘味になるはずだ。
ならば、甘いような名前もありだろう。
「なら、スイートとかー?」
「じゃあ、スイート・オアシスはどうかな?」
「よし、じゃあスイート・サンド・オアシスでどうだ?」
「ながいね」
「ふつうだね」
俺が今出た意見をまとめて提案したところ、みんなして「うーん。微妙」といった表情になった。
泣きそうだよ。良いじゃん、スイート・サンド・オアシス。
俺はこういうの苦手なんだ。だからこうして会議を開いたのに!
「アミル、なにか意見はないか?」
「僕!?」
会議の様子をぼーっと見ていたアミルに振った。
「そうだなー。最後にカフェってつけても分かりやすくて良いかなって思ったけど」
「それはありだな。ファルクは何かあるか?」
「ボクも!? クラウ様のローゼンっていう家名をそのまま付けるのはどうかな?」
「それいいかもー。」
「上品な感じがしてカフェの雰囲気に合いますね」
「いや、さすがに家名を使うのは気が引けるな」
なかなか意見がまとまらず、最終的に良さそうな名前を紙に書き、箱から2枚引いて組み合わせることに決まった。運に任せた方がいいこともある。
変な名前だったり、合わなかったりしたらもう一回だ。
「よし、引くぞ」
俺が一枚引き、次にこの中で一番年上のシータが引く。
俺が引いたのは……
「ロゼ? おい、ファルク?」
俺はチラッとファルクを見るが、さっと目をそらされる。
確かにローゼンではないが、ほぼ変わらないだろう。
「まあ、これくらいなら良いか。じゃあ次、シータお願い」
実際、ロゼという言葉は色々と会いそうだし、上品な感じがしてカフェのイメージに合う。
「じゃあ引きますね。……えっと、くらう?」
シータが引いた紙には俺の名前が書かれていた。
「はぁ!? ちょっと待った! 誰だ、俺の名前を入れたのは?」
「ぼくだよ」
そう答えたのは笑顔のリトだった。
「ぼく、くらうにいのなまえかけるようになったんだよ」
リトは褒めて欲しそうに言うが、今は心を鬼にして叱らねば。
「ロゼ・クラウか、悪くないんじゃないかな? 僕は今まで出てたアイデアの中で一番良い気がするよ」
「へ?」
「これが一番いいかもしれませんね」
「うんうん。これ以上は考えられないかもー」
「ボクもすごく良いと思う!」
俺が叱ろうとしたところで、アミルがそう言い、何故かみんなこれに賛成し始めた。
「本当に言ってる?」
「うん。ローゼン家の屋台って街の人も呼んでるし、分かりやすくていいんじゃないかな? クラウの店なんだし、店名に自分の名前を入れてるところも中にはあるからね」
そう言われると、分かりやすさも兼ね備えた名前にはなっている。
俺が恥ずかしいことを除けば完璧だ。
これ以上は出ないかもしれない。
「くらうにいよかったね」
「……分かった。でもクラウはさすがにやめて、クラウン、王冠っていう意味に変えよう」
*****
こんな感じで決まったわけだが、名前のことはもう忘れよう。
なんだかんだしっくりきてしまった自分もいるからな。
「こちら、ハンバーガー3人前のお持ち帰り分でございます」
「パスタ一人前、お願いします」
「こちら、ご注文のサンドイッチでございます」
ロゼ・クラウンでは甘味以外にも小麦を使った料理も提供している。
小麦は育てるのに水が大量に必要なので、アブドラハではあまり育てられていないが、商業都市なだけあり、小麦は主食になるくらいには他所から入ってくる。
小麦の料理は発展しており、パスタもサンドイッチも存在していて目新しさはないが、カフェである以上、食事も楽しんでほしい。
目新しいものと言ったらハンバーガーくらいだろう。
持ち帰りができる商品があることで、客層も広がって良い戦略だと思う。
本当はピザも挑戦したかったが、今は窯を作る資金もないし、そこまでメニューを増やすと料理人モリスの負担も厳しいということで一旦やめた。
今は料理に使う野菜も購入しているが、いずれはファルクとガロンが頑張っている畑で採れるものも使っていきたい。
冬場は薬草を主に植え、色んな薬屋へ販売したり、マルハバ商会に買い取ってもらったりした。
夏にどれだけ収穫できるかは分からないが、最近トマトやナスといった野菜も植え始めた。
「チョコレートのタルトでございます」
「チョコレートのスノーアイス、お待たせいたしました! ごゆっくりどうぞ」
そして、うちのメインはなんといってもチョコレートの甘味だ。
チョコレートについてはモリスが納得いく仕上がりまで持っていくことができた。
チョコやアイスについてはまだ冷魔庫が普及していないので、うちの独壇場となっている。
俺の目的は甘味を広めることなので、冷魔庫が普及され次第、レシピはマルハバ商会を通じて公開していこうと密かに考えている。
それまでにチョコレートを普及していくつもりだったが、宣伝を兼ねて試食してもらっており、今日の開店時点でかなり売れている。
冷魔庫についてだが、バルドさんが本気を出し、今年の夏にはマルハバ商会に導入されるそうだ。
わざわざ中央まで出向いて、圧力をかけたと言っていた。
ここから中央までが馬車で10日くらいかかるらしいから、その行動力がすごいと思う。
怖いと思う反面、少し疲れもあったので、嬉しい気持ちもある。
俺の最大の敵はマルハバ商会になるか? なんてな。
マルハバ商会もそれをまとめ上げるバルドさんも今の俺じゃ相手にならない。
まずは目の前のことからだ。
ロゼ・クラウンを着実に軌道に乗せて行こう。
次回、奴らが来ます。




