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39話 春の訪れとクラウ誘拐

 あっという間に季節が過ぎて、春になった。


 いつも部屋に閉じこもって、季節も何もない状態だった頃の俺とは違い、今年は冬の間も忙しかった。

 奴隷事業についての話し合い、畑のあれこれ、チョコレート以外の商品開発、ルインスとの訓練、やるべきことはたくさんある。


 無理しないよう、休みも多めにとった。

 秋が終わるころにはアイスクリームの屋台は一旦休業し、冬の間は休みにした。

 冬はアイスの売れ行きも減るだろうし、シータ達も冬を越せるくらいには稼げたとのことだったので、休みも必要だろうと話し合った結果だ。

 同様に、うちが屋台で販売する時に一緒に作るという話だったので、マルハバ商会とのアイス作りも休止した。


 大きな進展と言えば、ついにカフェの第一号店を開く店舗が決まった。

 マルハバ商会の紹介というだけあって、商業区域の店舗通りの中でも程よい立地の店舗を借りることができた。


 店舗の良いところは、店舗区画では魔道具のポンプを使い、地下水脈から水をくみ上げてくれるので、水を井戸から汲まなくても済むのが良い。

 無駄遣いできないよう制限がかけられていることと、そのために工事が必要なのは大変だが。


 そして、月に賃料だけでも金貨4枚も掛かる。

 でも、かき氷とアイスクリームで作り上げた知名度やブランドなら、十分集客できるだろう。

 金貨80枚ほどで買い上げることもできるとのことだが、賃料以外にも魔道具や店舗の内装に必要な物、必要な道具を買うのに出費がかさみ、買うほどの余裕がない。

 それに関しては慌てなくても、店舗の経営が上手くいってから買えば遅くないだろう。


 正直、俺のやることが多すぎて、金の勘定やら事務処理やらをやっている余裕がない。


 そこで、経理の知識を持つ女性の奴隷を新たに雇うことにした。

 正直俺の手持ちは心もとないので、マルハバ商会からの出資金と人脈がものすごく役に立っている。

 今はバルドさんが紹介してくれた奴隷を雇用して解放させようと活動している獣人の商人のところで働いてもらっていて、うちの店が開店したら、こっちに移動してくる。

 こういう助け合いも商人としては大切なことだ。

 とはいえ、まだまだ奴隷事業は試運転段階で、始まったばかり。

 バルドさんが言うには、奴隷事業の話は他の商人の耳にも入っているが、様子を見ているとのことだ。

 やはり、うちで先陣を切っていくしかない。


 奴隷についてもう少し今後の展望を話すなら、料理人をもう少し増やしたいと思ってる。

 モリス一人で店の料理を回すのは負担が大きすぎるし、一人に依存するのも良くない。


 そこで出てくる悩みとしては、住まいをどうするか、だ。 


 最初に雇ったモリス、ガロン、ファルクは全員男なので、一軒家を買い、何とかやっていけてるが、男女の問題もあるし、これからずっと購入し続けるわけにもいかない。

 経理の知識を持つ女性の奴隷は、給料を先払いにして、宿に泊まっている。

 集団で買うとなったら、宿にするのか、一軒家にするのか、ここら辺がまだ考え中で、奴隷専用で安く住めるアパートみたいなものを建てられないかなと、バルドさんに相談している最中だ。




 *****




「クラウ様、来たっすよ」


 色々と冬の間に起こったことを整理していたわけだが、ルインスが家にやってきたので整理の時間は終わりだ。

 今日はルインスと訓練をする予定なのだが……


「なんで、馬がいるの?」

「クラウ様って、しばらく予定ないんすよね? 自分と少し遠出するっすよ」

「普通に嫌だけど。なんで?」


 唐突すぎて意味が分からない。

 確かに、今は休みの最中で予定は入れていないが、なんで俺がルインスと遠出をしなければいけないんだよ。

 俺に謝罪をしてからもルインスは特に変わらず、いつもこの調子だ。


「自分もそこまで露骨に言われるとへこむっす。でも、これも訓練なんで」


 訓練と言われたら、行くしかない。

 というか、ルインスの訓練は今のところ、氷魔法で重しを作って走らされたり、氷でおもりを作ってスクワットをしたり、筋肉のトレーニングばかりだ。

 魔法の魔の字もない。

 おかげでかなり体力も力も付いた気はするが、あと3年後には軍部魔法学園に入学しなければいけない。

 それなのにこのままで大丈夫なのかと疑いたくなる。


「うん、分かった。でも、遠くに行くなら準備しないと。それに色々伝えていかないと」

「安心するっす。ほら、ここに。許可も大丈夫っすよ」


 ルインスはそう言って、大きな鞄を見せてきた。

 あの中に必要なものが入っているのだろう。

 すでに許可もとっているなんて、ルインスの準備の良さには感心する。


「さっ、乗るっすよ」

「うん」


 住宅街で馬に乗るわけにはいかないので、大通りまで馬を連れて歩いた。

 ルインスが馬に飛び乗り、俺の手を引いて後ろに乗せる。

 俺はルインスの背中に捕まった。


「あっ、これどうぞ」

「なにこれ?」


 ルインスが後ろを振り向いて、渡してきたのは、水筒と薬らしきものだった。


「酔い止めっす。ほら、グイッと」


 なんだ、気が利くじゃん。

 そう思って、酔い止め薬を飲む。


「一応影で縛っておくんで、手を放しても大丈夫っすよ」


 そう言われても、怖いので背中には捕まらせてもらう。


「じゃあクラウさま……ぱつ……すよ。……すみな……す」


 あれ、なんだろう。すごく眠くなってきた。

 ルインスの声が遠く感じる。


 俺は突然襲ってきた眠気に抗えず、意識を手放した。




 *****




「はっ!」


 俺は意識を取り戻した。


 ここはどこだ? なんでこんなところにいるんだ?


 目を開けると、周囲は木々に囲まれた森の中だった。

 頭はぼんやりとしているが、混乱する気持ちを抑え、一度深呼吸をして、こうなる前の記憶をさかのぼる。


 えーっと。ルインスが家に来て、遠出をするからっていうから馬に乗った後、酔い止めを飲んで……


 酔い止めだ! 絶対、ルインスのせいだ。

 あの野郎。酔い止め薬じゃなくて、睡眠薬を渡しやがったな。

 でも、なんでそんなことをしたんだ。


 手掛かりになりそうなものを探してみる。

 幸い、まだ日は高い位置にあるので、状況は把握しやすい。

 すぐに、寝袋とルインスが持っていた大きな鞄を見つけた。

 少し、安心して鞄を開ける。ここに食料やら情報が入っているに違いない。

 鞄の中には……


「水、水、水、水、ライター、水、水はもう要らねえよ!!」


 やけに鞄が膨らんでるなと思ったら、革製の水袋がたくさん入っていた。

 あれか? 新手の嫌がらせか?

 とりあえず、中にあったのは火をおこすためのライター、後は水だ。


 ん? なんだこれ?


 鞄をどかしてみると、そこには置き手紙があった。

 何故か、嫌な予感がするが、この状況なら読むしかないだろう。


 ―――――

 拝啓 クラウ様


 これを読んでるってことは目が覚めたんすね。

 自分はこれから遠出の許可をもらってくるので、先に森での生活を楽しんでいてくださいっす。


 従順な騎士ルインス


 追伸 

 見事に騙されたっすね。

 人からもらった薬は飲まないほうがいいっすよ。

 あまりにすんなり飲むんで、逆にこっちもびっくりしたっす。

 流石クラウ様っす!

 ―――――


 あのクソ野郎っ!


 手紙をぐちゃぐちゃにした後、ライターを使って燃やした。

 あいつを信じた俺が馬鹿だった。

 まさか、睡眠薬まで飲ませる奴だとは思わなかった。


 今度会った時は絶対に凍らせることを心に決め、これからどうするか考えることにした。




 ―――ルインス視点―――




「そろそろクラウ様も目覚めた頃っすかね?」


 森に残した『影の従者シャドウ・サーバント』と視覚を共有する。


 見事にキレてるっすねー。これも良い経験っす。


 クラウ様は置き手紙を読んだらしく、怒り心頭といった様子だった。

 少々人を信用しすぎるところがあるクラウ様には良い薬になっただろう。

 裏切りによって命を落とすなんてことはよくあることだし、自分も何度人に裏切られたことか。

 信用していた相手が魔法で操られていたなんてこともあった。

 心苦しいが、指導すると決めたからには、徹底的にやる。

 それに、この訓練の本番はここからだ。 




 そして、自分の本番もこれからだ。


「失礼するっす」

「ルインス、どうしましたか?」

「あれ? 副団長、帰ってきたんすね」


 団長の部屋には遠征に行っていたはずの副団長がいた。


「ええ、先ほど。それで、団長に何か用があるのでしょう?」

「そうっすね。少しだけ休暇をいただけないかと」

「おう! 良いぞ、ゆっくり休め」

「あなたが休暇を取るなんて珍しいですね。理由は何ですか?」


 クソッ、団長だけならすんなりと通ったものを。


「いやー、プライベートな事情っすから。恥ずかしいっす」

「なんだ? ルインスにもついに恋人でもできたのか?」

「この男にできるはずがないでしょう」

「ちょっ、それは酷いっすよ。作ろうと思わないだけっすから」

「そうだぞ、サターシャ。ルインスは強いからな。モテないわけがないだろう」

「時代錯誤の脳筋じじいは黙ってなさい。それなら理由は何ですか?」

「まあ、いいじゃないっすか。それじゃあ2,3日ほど失礼するっす」


 団長からの許可はもらったので、部屋から出る。


 これで何とかなったっすね。


「待ちなさい。ルインス、あなた今日はクラウ様を指導する日ではありませんでしたか?」


 何故か団長の部屋にいたはずの副団長が、兵舎の入り口に移動していた。


「あれ、今日でしたっけ?」

「それに、ジョゼフ様から『クラウを訓練のために数日間遠征に連れて行く』とあなたが許可を求めてきたと証言がありますが?」


 どうやってそんな証言を手に入れたんすか。

 まさか、帰ってきてすぐにクラウ様に会いに行ったとか?

 そんな女々しい人でもないでしょうに。

 クラウ様のことになるとこれだ。


「必要な指導っすよ。クラウ様は山岳地帯の森に置いてきたっす」

「そういう大事なことは報告するよう言いましたよね?」

「今してるじゃないっすか」

「誰が事後報告で良いと言いましたか? 分かりました。とりあえず私を連れて行きなさい」

「いや……」

「はい? 何か言いかけましたか?」


「嫌っす」と言おうとしたところで、副団長から本気の殺意を感じた。

 これはもう無理だ。諦めて連れて行くしかない。


「いやー、もちろん連れて行くに決まってるじゃないっすか」

「早く準備しなさい。移動しながら洗いざらい吐いてもらいますよ?」


 クラウ様、こっちの本番は失敗に終わったっす。



一気に時間が飛びました。

ここから戦闘が増えていくと思います。


*8歳児をだまして睡眠薬を飲ませて誘拐し、森に置き去りにして煽るような行為はこの世界の法律でも禁止されています。

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