表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/142

38話 チョコレート開発と双子の見習い騎士

「モリスにはこれを研究してもらいたいんだ」


 俺はあるものを手に、元料理人で獣人の奴隷、モリスのもとへ向かっていた。

 最近、アミルのおかげでガロンの調子も良くなり、今はファルクと一緒に畑仕事をしている。

 みんな少しずつ生活に慣れてきたようで、最初の硬い雰囲気とは打って変わり、表情も柔らかくなってきた。

 人間関係には問題なさそうだが、モリスには畑仕事に加えて、料理開発という大事な仕事もある。

 そして、俺が持ってきたものとは、何を隠そう『カカオ豆』だ。


 実は、カカオもバニラの香草と一緒にマルハバ商会の食料庫で見つけていた。

 乾燥した状態で置いてあり、記憶の中にある形と匂いも一致したので、間違いないだろう。

 その時に購入したのは良いが、自分でチョコレートを作ろうと思っても、そこまで料理に詳しくない俺ではどうしたら良いか分からず、諦めるしかなかった。


 マルハバ商会の料理人であるマークさんとジェシカさんも調理方法を知らないようだった。

 ただ、マークさんは中央でカカオを見たことがあるということなので、カカオの調理法はすでに確立されているのかもしれない。

 カカオは砂糖がなければ苦すぎて食べれたものじゃない。

 甘味が発展していないこの世界でその料理法を知っている者も少ないという訳だ。


「これ、カクアの実ですね! こんな貴重なものを扱ってもよろしいのですか?」

「えっ、モリスはこれを知ってるの?」

「もちろんですとも。私は様々な国の食材を調べるのが趣味だったもので」


 これはとんでもない逸材を発見したかもしれない。

 チョコレートなんて、甘味の世界を変えるほどの大発明だぞ?

 それがうちの店で扱えるようになれば、主力になること間違いなしだ。

 この世界ではカカオをカクアの実と呼ぶらしい。


「これで甘味を作って欲しいんだけどできるかな?」

「お任せください。カクアの実は料理人の腕によって味が変わる扱いの難しい食材。私、久々の挑戦に燃えてきましたよ」


 なんて頼もしいんだ。

 一応、必要そうな材料や道具は一式そろえてある。

 商品開発に必要な砂糖も大量に用意した。


 なんたって、俺の目標はアブドラハにカフェを作ることだからだ。


「一緒に最高の菓子を作ろうな」

「ええ。頑張りましょう」


 ま、俺にできるのは必要なものの準備と多少の手伝い、後は味見くらいだけど。




 *****




 カカオの調理法を研究し始めて、数日が経った。

 この研究はすっかり日課となり、最近では屋台にアイスを運んだ後、すぐにモリスのもとへ向かい、チョコレート作りに励んでいる。

 もちろん、無理はしないように休むときはしっかり休んでいるが、それでも楽しさのあまり、ついつい熱中してしまうのだ。


「クラウ様。お友達らしき方が来ていらっしゃるようです」

「誰だろう? わかった、今出るよ」


 今日もモリスと一緒に研究をしていると、ガロンが戻ってきてそう告げてきた。


「ここだったのか。氷屋、連れてきたぜ」


 外に出てみると、ラフィが立っていた。

 入院してるときにモリス達を雇ったことや、農業を始めたこと、その家の場所についてもラフィには話していた。

 ラフィの後ろには、子供にしては良い体格の少年と、髪をロールにした少女がいた。


「もしかして、その子たちが」

「ああ」


 ラフィが後ろをちらっと見る。


「リオネルと申します。あなたが私たちの命を救ってくださったクラウ様でしょうか!?」


 リオネルは名乗った途端、俺に近づいてきて、肩をつかんできた。


「お兄様! 落ち着いてくださいませ。兄が失礼いたしました。私、妹のレオノーラですわ」


 俺からリオネルを引きはがし、レオノーラが申し訳なさそうに謝った。


「どうも、クラウ・ローゼンです。そんな固い言葉を使わなくていいよ。俺たち年も同じみたいだし」


 ラフィからは二人が双子だってことも、年が俺たちと同じだってことも聞いている。

 なんとも奇跡のような偶然なわけだが、そんな子供たちが処刑されそうになっていたことがおかしいし、生きられてよかったと思う。


「いえ、私たちの命の恩人にそんな……」

「では、クラウと呼ばせていただきますわね」

「レオノーラ!」

「良いじゃありませんか。クラウもそう言っているんですし」

「ああ、それでいいよ」


 もと貴族だと身構えていたが、にぎやかな双子という印象だ。

 それに、こうしてみた感じ、何か恨みを抱えているという感じもしない。

 だからこそ、騎士団に入団することが認められたんだろうけどね。


「お前ら、言い争ってるんじゃねえ。用があってここに来たんだろうが」


 ずっと言い合っている二人に対してラフィが怒る。


「っ!  そうでした。クラウ殿にはどうしてもお礼を言いたかったんです。父上が悪事に手を染めていたと知った時、長男である私の命で、せめてレオノーラの命だけでも許していただけないかと何度も陳情していました。しかし、クラウ殿がフリード様を説得してくれたおかげで、母上も私の命までも救われました。クラウ殿には感謝してもしきれません」

「私からもお礼を」


 リオネルとレオノーラはそう言って、頭を深々と下げて礼をした。

 元貴族だというのに、平民に向かってこんなに礼を尽くすなんて……。


「うん。俺、というか助けたのはフリード子爵だけど、二人が生きていてよかったよ」


 リオネルとレオノーラは貴族という地位を失ってしまった。

 絶望的な状況なはずなのだが、それでも二人の人生はまだまだこれからだ。

 俺の行動が二人の命を救うことにつながったなら、あの時、動いて良かったと思う。


「そうだ。3人に試食して欲しいものがあるんだ」

「なんだ? また何か新しい甘味でも作ったのか?」


 その言葉を聞いて、グイッとラフィが近づいてきた。

 ラフィは意外と食べ物というか、甘いものが好きなんだよな。


「ああ、クラウ殿は商売をやっているとラフィから聞いていましたが、それですか?」

「来年に売りたいと思ってるやつで、まだまだ試作段階なんだけどな」

「ぜひ、味見させてください」


 頻繁にやってくるアミルや、ここに住んでいるファルク、ガロンにも味見をしてもらっているが、味見は多いに越したことはない。


 味覚というのは、住んでいる国や地域によって変わってくるものだ。

 だからこそ、できるだけ多くの人に好まれる味を追求していきたい。

 三人から快い返事が返ってきたので、家の中に通すことにした。


「さて、まずはこれを食べてみてくれ」


 三人をテーブルに座らせて、俺が出したのは、固形状のチョコレートだ。


「良い香りですね」

「本当ですわね」


 リオネルとレオノーラはチョコレートの香りを楽しんでいるようだ。


「はむ。……何だこりゃ!? めちゃくちゃ苦いぞ」


 においなどお構いなしに、口に入れたラフィは一瞬固まった後、顔をゆがめた。


「ふふ、苦いだろ? ……イテッ」


 それはそうだろう。今渡したのは、砂糖不使用のチョコレートだからな。

 ラフィの反応に笑いをこらえていると、足を蹴られた。


「笑ってんじゃねえ。なんてもんを食わせるんだ。性格までルインスに似てきたんじゃねえか?」

「ちょっ待った。からかったのは悪かった。謝るから、勘弁してくれ」

「あっ、本当だ。これはすごく苦いですね」

「確かに、口の中で溶けて苦みが残りますわ」


 カカオはコフの実と同じ要領で焙煎し、皮をむいてカカオニブを取り出す必要がある。

 このカカオニブこそが、チョコレート作りの核となるわけだ。

 ただ、この作業もかなり手間がかかるが、それ以上にこの先の作業が大変だ。


 カカオニブをすり鉢で潰し、摩擦でカカオの油分を溶け出させなければならない。

 今はモリスが獣気を使って必死に作業しているが、ガルダさんに頼んで魔道具を作ってもらう必要がありそうだ。


 こうしてできたペースト状のものがカカオマスで、これに砂糖やミルクを加えていく。

 その後、混ぜたものを冷却・加熱する『テンパリング』という工程を行う必要があるようだが、詳しいことは分からないので、モリスに任せている。

 モリスもまだ試行錯誤中のようで、毎日苦労している。


 だが、この作業がチョコレートのツヤや口当たりの良さに関わるらしいので、時間をかけても良いから、本人が納得できるように仕上げてほしい。

 後は俺の氷魔法で固めるだけだ。


「これ、口直しに飲んでくれ」

「今度は大丈夫なんだろうな?」

「これは……初めて飲みますが、甘くておいしいです」

「先ほどの苦みを感じた後だと余計に甘さを感じられますわね」


 俺が3人に出したのは、ココアだ。

 ココアはチョコレートよりも作るのは簡単だ。

 アミルの薬屋から借りた圧搾機を使い、カカオニブから油分を搾り取り、残ったものがココアパウダーの原料になる。

 その搾り取った油分も、チョコレートに加えることで滑らかさや味の調整ができる。


「ゴクッ……ゴクゴク、ぷはっ。うめぇな」


 リオネルとレオノーラの反応を見て、先ほどの件で疑っていたラフィも覚悟を決めたように飲み始めた。


 俺だって、意地悪で苦いチョコレートを出したわけではないのだ。

 砂糖なしの方が気に入られる可能性もあるし、味見をしてもらう以上その情報は欲しかった。

 やっぱりさっきの反応を見る限り駄目そうではあるが……。

 それに、苦いものから食べたほうが、甘さも際立つだろうからな。

 うん、正当な理由のあるいたずらだからセーフだろう。


「イタッ、なんで?」

「お前、どうせろくでもないこと考えただろ?」


 そんな言い訳を考えていたら、呆れたような顔でラフィから蹴られた。

 なんでバレたんだ……。


 気を取り直して、今度こそ本当に、今出せる最高のチョコレートを出す。


「これが今のところの最高だね」


 もう一度チョコレートを出す。


「じゃあいただくぜ。」

「いただきます」

「いただきますわ」


 緊張の一瞬だ。


「これ、本当にさっき食べたのと同じのか? 全然味が違うぞ」

「すごく甘いですね。口の中でゆっくりと溶けて、甘さが口の中で広がっていきます」

「こんな甘味初めて食べましたわ。これ、絶対流行りますわよ」

「だって! 良かったな、モリス」

「はい。ですが、私、まだまだ精進いたしますよ」


 貴族家で育ったリオネルとレオノーラにも好評だったんだ。

 チョコレートはうちの商品の主力になるはずだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
発酵の段階はもう終わってるのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ