34話 新人騎士見習い
―――ラフィ視点―――
「ぎゃははは、隊長なにそれ?」
「うるさいっすよ。というか、副団長にチクったのネマっすよね?」
「ネマ知ーらないっ」
「た、隊長、副団長から何か盗んだって本当なんですか?」
「盗んだわけじゃないっす。ちゃんと戻したっすから」
諜報部隊の奴らがうるせえ。
ちらっと、横を見ると諜報部隊の隊長ルインスは首から『私は盗人です。反省中』と書かれた札を首からかけている。
「にゃ!! もしかして、この前アタシの下着がなくなったのって」
「いやいやいや、知らないっすよ! 純粋にミャリアちゃんがずぼらなだけっす」
「どういう意味ニャ!!」
話を聞いていたミャリアもその中に加わり、余計に会議室は騒がしくなった。
今朝は会議室に来るようにと副団長に言われ、フロスト騎士団の騎士たちが集められた。
任務に出ている者もいるため全員ではないが、騒がしいことこの上ない。
最近は副団長から与えられた課題のせいで、ひどい筋肉痛が続いており、疲労感から騒音が頭に響く。
そんなことを考えていると、副団長が二人の子供を連れて会議室に入ってきた。
「静まりなさい」
その一言で、部屋が静かになる。
みんな副団長が連れてきた子供に興味津々といった様子だ。
「彼らは新たに見習いとしてフロスト騎士団に入団することになりました。自己紹介しなさい」
「兄のリオネル・ルフェ、いえ、失礼しました。リオネルと申します。フロスト騎士団の皆様にはご迷惑をおかけしました。見習いとして、少しでも皆さんのお役に立てるよう精一杯努力させていただきます」
「妹のレオノーラですわ。どうぞよろしくお願いいたします」
「知っている者もいると思いますが、彼らは元ルフェル男爵家の双子です。初めのうちは慣れないこともあると思うので、面倒を見てあげて下さ……なんですか? バッカス」
元男爵家のリオネルとレオノーラ、ね。
リオネルは真面目で気品がありそうなお坊ちゃんでレオノーラは上品なご令嬢って印象だ。
副団長の話の途中でバッカスが手を挙げた。
「副団長には申し訳ないですけど、俺はそいつらの入団には反対だ。あの事件でフリード様はそいつらの命を助けるために泥を被ることになった。それなのに、そいつらの面倒もうちらで見るってのか? ただでさえ、うちは軍や他の騎士からの嫉妬やらやっかみやらで手一杯だってのに、そいつらのせいでそれが余計にひどくなるのは目に見えてる。それに、本当にそいつらが信用できるか怪しいしな」
詳しいことは分からないが、バッカスは二人が騎士見習いになることに不満があるみたいだ。
普段はそんなこと気にしなさそうな奴なのに珍しい。
「彼らを信用できないっていうのは、私の魔法が信用できないって事かしら? 坊や」
そう声を上げたのは、尋問を担当しているミラジアだ。
「っ、いや、悪かった。そこは訂正する。だが、それ以外のところはどう考えてるんですか?」
「あなたの考えは分かりました。確かに、彼らをうちに入団させることは我々にとって弱みになるかもしれません。ですが、それがどうしました? 他所から何を言われようが、フロスト騎士団の存在意義はアブドラハを守ること。閣下がこの子たちを助けたのも、アブドラハの未来を考えてのことです。騎士団の一員なら肝に銘じなさい。リオネルもレオノーラもすでに私たちの一員です。仲間が攻撃されたら守りなさい。やり返しなさい。仲間が道を間違えたなら、正しなさい。理解するまで教えなさい。仲間を見捨てることは許しません。すべての責任は私が持ちます」
「はっ! 失礼しました」
バッカスはそう言って座った。
副団長の言葉に騎士たちの顔つきもキリッとしたものに変わった。
「話は終わりです。各自、自身の業務にあたりなさい」
『はっ!』
会議室に返事が響き渡り、解散になった。
「うっうううううう」
「ナジム、泣いてないで行くっすよ」
「うう、だって、副団長がかっこよくてー」
「隊長は便所掃除でしょ! べんじょ、べんじょ」
「ネマは後で覚えておくっすよ」
「隊長が怒ったー。助けてリーシェ!」
「ひぇぇ、わ、私ですか?」
やっとうるさいのが部屋から出ていった。
ふぅ、とため息をつくと、
「ラフィ、来なさい」
オレは副団長から呼ばれた。
「今日はあなたがこの子たちに色々と教えてあげなさい」
「オレかよ」
「よろしくお願いします」
「お願いいたします」
一応文句は言うが、どうせ今日も課題の鍛錬をやるだけだったし、仕方がない。
「ちょっといいか」
バッカスがやってきた。
「さっきはすまなかったな。リオネルとレオノーラ」
てっきりまだ何か文句があるのかと思ったが違ったようだ。
「いえ、父上が犯した悪事で皆様に迷惑をおかけしたのも、私たちがいることで皆様の迷惑になることも事実ですので」
リオネルは申し訳なさそうに下を向いた。
「いや、あれはなんというかな。演技というか、先にこの場でああいうことを言っておかないと他の奴らも心の底からお前たちを受け入れられないと思ったから先に言っておいただけだ。他の貴族共とは違って俺はなんとも思っちゃいねぇよ。だから、そんな顔すんな」
バッカスはそう言うと、リオネルの頭をガシガシと撫でた。
「っ……ありがとうございます」
「お兄様……」
なるほど、バッカスなりに考えての発言だったらしい。
「兄なら妹の前で泣くんじゃねぇ。まっ、俺の演技は副団長にはお見通しみたいだったが」
「私の目を欺くにはまだまだですね」
「全くもって恐ろしいぜ」
バッカスはそう言って部屋から出ていった。
普段はただの筋肉ダルマなのに少し見直したぜ。
*****
「んで、ここが武器庫だ」
兵舎の中から外までを一通り案内した。
「このようになっておりますのね。ラフィ様、ありがとうございます」
「ラフィ嬢、ありがとうございます」
「さっきから気になってたんだけどよ。お前らの呼び方だけでもどうにかできねえか?」
「呼び方でございますの?」
「それだよ! もっと砕けた感じで話せねえのか? オレは平民で貴族じゃねぇんだ。なんかムズムズすんだよ」
実際、二人とも最近までは貴族だったって話だし、身分が変わっても身に付いた仕草や言葉遣いなんかはなかなか変わるものではない。
だが、どうしても気になって仕方がない。
「じゃあ、ラフィちゃんって呼んでもいいかしら?」
レオノーラは閃いたといった感じで目をキラキラさせながら訪ねてきた。
「おい、レオノーラ。いくらなんでも『ちゃん』は先輩に対して失礼だろ。うちの妹が申し訳ありません、ラフィ嬢」
それを兄のリオネルが注意する。
一応、騎士団に入った順番的にはオレが先輩になるわけだが、オレもまだ見習いだし、礼儀とかはどうでもいい。
それよりも、
「『ちゃん』も『嬢』もやめろ。普通に呼び捨てでいい」
女らしく呼ばれる方が嫌だ。
どこかのバカがオレを見た目で男と勘違いしたが、そっちの方がまだマシだ。
普通、名前で気づくけどな。
「分かりました。ラフィと呼ばせていただきますわね」
その上品な話し方もできればやめて欲しいが、そのうち慣れてくるだろ。
「それじゃ、掃除のやり方を教えるから、さっき案内した掃除道具のある場所まで行くぞ」
*****
「――それで、私たちはフリード様のおかげでこうして生きることができ、騎士団に入ることになりました」
掃除をしながら、リオネルとレオノーラが貴族から没落し、騎士団に入団するに至った経緯を一通り聞いた。
「副団長から、フリード様を説得して、私たちの命を救ってくれた少年がいると聞きました。私はどうしてもその少年にお礼を言いたいんです」
話を聞いた感じ、その少年には心当たりがある。
だが、あいつは……氷屋は平民だ。
オレが氷屋の話を聞いた後、吹っ切れたような様子だったが、まさか本当にフリード様を説得できたということか?
いや、フリード様は貴族だ。それもただの貴族じゃない。
アブドラハで領主様の次に偉い貴族だ。
平民が説得できるような相手ではないが、可能性はそれしか考えられない。
「多分だが、そいつに心当たりがある」
「本当ですか!? どなたですか? 私に教えください!」
「お兄様! ラフィが困ってるじゃありませんか。……ですが、私からもお願いです。どうか、そのお方を紹介していただけませんか?」
これまで話した印象だと、こいつらは悪い奴ではなさそうだ。
だが、どうするか……考えるまでもない。
会うか会わないか決めるのは氷屋だ。
「分かった。今度会った時に、お前らが会いたがってることだけは伝えておく。後はあいつ次第だ」
「よろしくお願いします」
ふぅ。後輩の面倒を見るのって大変だな。
一気に騎士団員がぞろぞろ出てきましたね。
まだまだいるんですが、大渋滞になるので追々ということで。




