30話 騎士見習いの稽古
―――ラフィ視点―――
「甘い!」
「うっ」
腹部に強烈な蹴りをくらい、オレの体は吹き飛ばされた。
何とか受け身を取り、ズキズキと痛む腹を抑えて立ち上がる。
「クソがっ」
「今度はこちらが不注意です」
もう一度、蹴り飛ばされた相手に向かって行くと、今度は意識外の足元からの蹴りに反応できず、勢いよく突っ込んだオレはそのまま転がされた。
「相変わらず、頭に血が上ると注意が散漫になるのは悪い癖ですね」
そういって、倒れ込んだオレの首元には訓練用の木剣が突き付けられた。
また一振りも打ち合うことなく負けてしまった。
「副団長、さすがに稽古とはいえやりすぎなんじゃないですかにゃ?」
「いいえ、ミャリア。これは彼女のためです。魔法もろくに扱えない、戦うこともまともにできないでは、すぐに死ぬだけです。まだ見習いとはいえ、騎士団にお荷物は要りません。それにラフィの後はあなたですよ」
「ニャ!? おてやわらかにお願いします」
最近は基礎的な訓練だけでなく、副団長が実戦形式で稽古をつけるようになった。
少しは強くなったと思っていたが、全くそんなことはなかったらしい。
「もう一度だ!」
俺は立ち上がると、木剣を構えた。
「来なさい」
これまでみたいにむやみに突撃しても、副団長に一方的にやられるだけだ。
オレは木剣の先から副団長に向かって火の玉を放つ。
「この程度ですか」
副団長は片手で木剣を振るい、火の玉を断ち切る。
だが、それが効かないことくらい分かっている。それは目くらましだ。
「火纏剣、点火加速」
オレは足から火を噴出し、一気に副団長のもとへ詰め寄り、火を纏った木剣で突きを放つ。
今まで魔法で加速しなかったのは、目を慣れさせないためだ。
これまでやられた分をここで晴らしてやるぜ。
「悪くはありませんが、その次は?」
嘘だろ?
決まったと思った一撃は木剣を簡単につかまれ、止められてしまった。
火が熱くないのか? この化け物が……。
次なんてねえよ。
「ないなら、終わりですね」
「ぐふっ」
ドスッともう一度腹を膝で蹴り飛ばされ、オレの体は宙に浮き、そのまま地面にあおむけの状態で落ちた。
「……フィ。起きなさい」
軽く意識が飛んでいたようだ。
「クソッ、また駄目だったか……イテッ」
起き上がろうとすると、腹部に鈍い痛みが響き、そのまま倒れた。
「今日はここまでですね。後はいつも通り精神を整えなさい」
またか。
今日も一度も剣を打ち合うこともなく実戦の稽古は終わってしまった。
痛みが治まるのを待ち、何とか起き上がれるようになったので、何がダメだったのかを振り返りつつ、座禅を組んで精神を整える。
カンッと遠くの方では副団長とミャリアが刃の付いた武器で打ち合っている音が聞こえる。
どちらも人並外れた素早い動きで、何とか目で追えるといった戦いだ。
副団長の振るう木剣をミャリアが猫の柔軟性を生かして避け、その隙をミャリアが木剣で突く。
副団長はそれすらも避けたうえで、懐から鞘付きの短刀を投げ、避けきれなかったミャリアに当たる。
ミャリアが一瞬ひるんだのを見逃さず、副団長の素早い突きが繰り出されるが、それはかろうじて避け、ミャリアは距離をとった。
終始、副団長が圧倒しているが、ミャリアも騎士としての実力は本物でなんとか食らいついている。
その戦いを見ているこっちまで感化され、熱いものがこみあげてくる。
次こそは副団長に一撃入れてやる。
「ミャリアは獣気と体の扱い方が上手くなりましたね。こちらの木剣にひびが入るくらいには重くて良い攻撃でした」
「照れるにゃー」
「ただし、攻撃を受けた時の判断力や素早さがまだまだ足りていません。相手より一歩でも遅れれば、そのまま流れを相手に渡すことになります。持ち前の素早さで相手より何歩も先に行けるよう鍛錬を続けなさい」
「はい!」
そう言うと、副団長はまた別の団員のところへ稽古をつけに行った。
ミャリアがこっちに来て、オレの隣に座る。
「何かありそうな気配がする」
「気配ってなんだ?」
「最近、副団長がやけにピリピリしてるように感じない? あれは何か問題が起きる前兆じゃないかにゃ?」
確かに、これまでも副団長の指導は厳しいものだったが、最近は一層厳しくなった気がする。
それに指導に来る回数も増えた。
「気のせいじゃないか? 副団長がピリピリしてるって言っても、実際オレは魔法を上手く扱えないままだし、荷物になってることは変わりないし」
「何言ってるの。ラフィは頑張ってるし、副団長が厳しすぎるだけよ。心の中ではラフィのことを期待してるんだと思うにゃ」
ミャリアはオレの頬に肉球を押し当ててきた。
プニプニしていて、変な感じがする。
副団長の言うように魔法もろくに使えず、剣でもまともに戦えないようでは、魔物でも人間でも殺されるだけだ。
なんでオレは魔法が上手く使えないんだ。
副団長と戦った時みたいに、最近になって小規模の魔法なら安定して戦闘でも使えるようになってきた。
だが、それよりも大きい火を出そうとすると、魔素の流れが止まり、外へ放出できなくなってしまう。
火の噴出で加速したように、小技を使って戦うことしかできない現状がものすごく歯がゆいが、今は出せるものを使って戦う。
くよくよするのはやめだ。オレらしくねえ。
*****
「ラフィ、こちらに来なさい」
今日の訓練が終わり、兵舎に戻ろうとしたところで副団長から声をかけられた。
「あなたに伝えたいことが二つあります」
「なんですか?」
「一つ目は、近々あなたに後輩が二人できます。元貴族の双子で、どちらも魔法が使えます。ちょうど歳も同じなので、良い刺激になるでしょうから負けないように励みなさい」
後輩だって?
騎士団の見習いは今のところオレ一人だ。
フロスト騎士団は人を募集したり、採用したりはしていない。
オレと同じ時期に騎士団に入ったミャリアは副団長がスカウトしたという話だが、それっきり入ってくるものはいなかった。
元貴族だろうが何だろうが、負けるわけにはいかない。
「二つ目ですが、あなたは今よりもっと強くなりたいですか?」
「はい」
「なら私が直接『気』という技を教えます。習得できれば、あなたの魔法の扱いも少しは良くなるかもしれません。ですが、相当厳しい修行になります。それでもやりますか?」
「っ! もちろんやるぜ!」
「正直なところ、まだ子供のあなたに教えるべきか悩んでいます。なので、私が無理だと判断したら、その時点で修行は終わりです。いいですね?」
「やってやるっ!」
副団長の指導を受けられるんだ。
この機会に俺は絶対に強くなってみせる。
「では『気』について話しましょう」
こうして、オレとサターシャ副団長との修行が始まった。




