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28話 ローゼン家の屋台の新作(とある女性)

 ―――とある女性視点―――



「ちょっと待ってよ。そんなに早く歩かなくてもいいじゃない」

「あのローゼン家の屋台の新作よ? 早くいかないと売り切れちゃうわ」


 私がこの日をどれだけ楽しみにしていたか。

 今日はなんと、氷魔法で有名なローゼン家の屋台が新作の甘味を販売するというのだ。

 かき氷。あの氷菓子は果実から作ったソースを削った氷にかけて食べるという、これまでにない斬新な甘味だった。

 最初は「本当に氷なんか食べても大丈夫なのか?」とか、「値段が高すぎてお金の無駄になんじゃないか?」と不安があったけれど、友達に「騙されたと思って食べてみて」と言われ、恐る恐る口に運んだ瞬間、その不安は一気に吹き飛んだ。

 氷のシャリシャリとした食感と、ソースの甘さがちょうどよく合わさって、それはまさに完成された甘味だった。

 食べ終わったころには夏の暑さを忘れ、口の中には心地よい満足感だけが残った。

 貴重な氷を使っているだけに、毎日通うことはできなかったが、できることなら毎日通って味わいたい、そう思わせるほどの一品だった。

 だからこそ、新作が販売されると知ってからは家の仕事を手伝って、今日の日のためにお金を貯めてきた。


「新作はどんな甘味だと思う?」

「うーん、やっぱり氷を使ったお菓子じゃないかな?」

「だよねー。いったいどんな味がするのか、気になるわね!」


 かき氷という新たな風をアブドラハにもたらしたローゼン家の屋台。

 当然、新作への期待も高まる。

 友達とそんな話をしながら、目当ての屋台がある場所へ向かう。


 ガヤガヤ


 通りを外れたところにある広場に着くと、すでに多くの人が並んでいた。


「あちゃー。ちょっと遅かったかも」

「でも、この人数なら買えそうだよね」


 新作は個数に限りがあるみたいだ。

 聞いた話によると、その場で作れないとかなんとか。

 ただ、近々マルハバ商会系列の料理店でも提供されるようになるらしいが、やっぱり新作は出たらすぐに食べておかないと、友達たちに自慢できないし、話題についていけなくなるのも困る。


「あっ、あんたたちも来たんだ!」


 顔見知りの友達もすでに来ていて並んでいた。

 せっかくなので、どんな味なのか予想を話し合いつつ、時間をつぶした。


「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」


 しばらく待つと私たちの番が来た。

 店員さんは良く見慣れた私よりも年下の女の子だ。

「まだまだ子供だというのに立派な接客をしてくれる」、うちの店に来たお客さんも話していたし、実際にすごいと思う。


 さて、新作はかき氷とは違い、その場で食べなくても持ち歩くことができるみたいで、思っていたよりも待つ時間はかからなかった。

 注文を聞かれたので、札に書かれた味を見てみる。


(えーっと、バニラ、レモレ、コーヒー、ミント、シナモンね。5種類もあるなんて、何を選んだら良いか分からないわ!)


「おすすめはどれかしら?」

「今までのお客様はバニラ、レモレ、コーヒーを注文される方が多かったですね」


 何を選ぶべきなのか難しいわね。

 あえてミント、シナモンというのを選んでも良いけど、値段は一個銅貨8枚と冒険するには危険が大きすぎる。

 もう一度札を見てみると、『初めての方はこれを!』とバニラの札に書かれていた。


(いけない! 私ったら焦って大事な情報を見逃していたわ)


 ここは危険を冒さずにバニラを選ぼう。

 一度食べてみておいしかったら、また来ていろいろな味を試してみれば良いのだ。


「それじゃあ、バニラを1つお願いできるかしら」

「かしこまりました。コーンとお皿、どちらにしいたしますか?」

「コーン?」

「手に持ちながら一緒に食べられる硬めに焼いた生地のことです」


 なるほど、私たちより先に買っていた客が手に持っていたあれのことだろう。

 初めて聞く名前だから分からなかったけど、あれをコーンというのね。


「コーンで」

「かしこまりました」


 接客をしてくれている少女はそう言うと、奥の方へ行き、大きな鍋から何かを掬ってコーンに乗せて持ってきた。


「こちら、バニラのアイスクリームです」


 これが新作の甘味、アイスクリーム!

 渡された丸い球体上のそれは甘い香りを放ち、私の鼻腔をくすぐった。


(早く食べたいわ!)


 私は少女にお代を渡すと、すでに買い終わって、待っていた友達のもとへと向かった。


「お待たせ」

「良いわよ、さっそく食べましょ!」


 友達はコーヒー味でコーンを選んだみたいだ。


『いただきます』


 パクッと一口、アイスをかじってみる。


「っん、甘くておいしいわ!」


 ひんやりとした冷たさを感じ、アイスが口の中で溶けた瞬間、ヤギの乳のまろやかな甘さと、渡されたときに感じた甘い香りが口の中に広がった。

 この香りこそがバニラの正体なのかもしれない。

 一口食べただけなのに、まるで貴族様にでもなったかのような上品な気持ちになる。


(これはかき氷とは違う、別の新しい甘味だわ。他の味はどうなのかしら)


 友達の方を見ると、同じように始めての味わいに驚きつつ、それを堪能している。


「お互いの味を一口ずつ交換しない?」

「良いわね! そっちの味も気になるわ」


 前にコーヒーを飲んでみたが、私には苦すぎておいしさが分からなかった。

 友達ははまったみたいで、最近では薬屋まで行き、コフの実を買って自分で作っていると聞いた時は正気を疑った。

 そんな私でも、このコーヒーのアイスクリームはびっくりするくらいおいしく感じられた。

 コーヒーの苦さはヤギの乳のまろやかな甘さと合わさって、ほろ苦く甘い別の味に変わり、コーヒーの独特な香りが口の中に広がって、あっさりと食べられる。


 コーヒーの方も堪能し、自分の食べているバニラの方に戻る。

 食べ進めていくと、あれだけ大きめの球体をしていたアイスクリームは小さくなり、コーンの中に潜り込んでいった。


(あら? これは少し食べづらいわね)


 そう思った時、コーンも一緒に食べられると言っていたことを思い出す。

 アイスだけで味わいたいとも思ったが、それは難しそうなので、コーンも一緒に食べてみる。

 パリッとしたコーンの食感と少し溶けたアイスが口の中で合わさる。


(これは……アイス単体で食べるのとはまた違った食感とおいしさだわ。そうか、コーンがあることで、一つで二つの味わいを楽しむことができるんだわ!)


 コーンを選んだことを少し後悔したが、それはすぐに消えた。

 最後まで食べきると、かき氷の時とはまた違った満足感が押し寄せた。

 友達も同じように食べ終わったようだ。


「これは間違いなく人気になるわよね」

「ええ。毎日食べたいくらいだもの」


 新たな風がアブドラハに巻き起こることを予感しながら、私たちはこの広場を後にした。




 ―――クラウ視点―――



「お疲れ様! 今日は終わりにしよう」

「疲れたー、クラウ君もお疲れ様」

「お疲れ様です。すごい人でしたね」


 新作発売を宣伝して初日はどうなるか不安だったが、何事もなく終わることができた。

 強いて言うなら、個数限定で売っていたため、バニラやコーヒーといった人気になると予想していた味が、多めに作っていても早くになくなってしまった。

 かき氷とは違って、その場でアイスは作れず、予想で用意するしかなかったから仕方がない。

 それでもシナモンとミントも買ってくれる人もいて、用意した分をすべて売り切ることができた。

 もう少し時間が経てば、色んな味を試す人が増えて、自分の好みの味を見つけてくれるだろう。

 その売れ行きに応じて味ごとに個数を決めていけばこの問題は解決できる。

 それにしてもコーンを頼む人が多かったのは驚いた。

 長い間持つとはいえ、多めに作っておいて本当に良かったし、こんなに人気ならマークさんとジェシカさんと協力して開発した甲斐がある。


 一応予定している個数としては100個を毎回想定しており、今日やってみて、それが無理せずやっていける範囲かなと思った。

 夏が終わっても気温はまだまだ高いので、それくらいなら今日の様子を見てもすぐに売れるはずだ。

 売れ残りが出たら、みんなに分けれて食べればいい。


 アイス原価はマルハバ商会のおかげでかなり抑えられていて、1個当たり銅貨3枚だ。

 かなり原価も抑えられたので、最初はかき氷と同じ値段の銅貨5枚で売ろうと思っていたが、バルドさんに「そんな値段で売っちまったら、色んな店に迷惑かけるだろうが。お前の影響力とか将来的な影響をもっと考えろ」と怒られた。


 今安い価格で売ってしまうと、冷魔庫が使えるようになり、アイスが安定して作れるようになった時に、客も店もさらに安さを求めだし、価格が崩壊してしまう。

 最悪、他のスイーツの値段にも影響を与えかない。


 自分の考えの甘さを痛感したよ。


 色々話した結果、結局銅貨8枚というところに落ち着いた。

「それでもまだ安すぎるが、屋台ならそれでも問題はないか」と、バルドさんはそれでも少し不満げだったが、マルハバ商会の店舗では1個当たり銀貨1枚で売ることでその辺の調整をしてくれるらしい。

 その代わり、アイスが溶けないよう氷を大量に提供することにはなったが、まあその辺は良いさ。

 秋からはゆったりと稼げれば良いと思っていたが、かき氷並みの収益が期待できそうだ。

 屋台の閉店作業をした後、働いてくれたシータとカイに給料を渡して解散した。


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