23話 感謝のBBQ大会②
「これは美味い! 良い酒だな」
「そうだろ。うちの商会で取り扱ってる酒の中でも上等な酒だからな! 鉱人に褒めてもらえるなんて光栄だぜ」
「商会長も張り合って飲みすぎないでくださいね」
ガルダさんとバルドさんは酒を飲んで盛り上がっている。
「こんな上手い肉初めて食べた! 網で焼いてるからか? それとも炭火だからか?」
「このお肉のタレ、おいしいわね。マルハバ商会で作ってるらしいけど、今度買ってみようかしら」
「本当だ。塩だけでもおいしいけど、このタレもおいしいね」
「あの野菜嫌いのビンとサーラが自分から食べてるなんて…...」
みんな初めてのバーベキューを堪能しているようだ。
普段食べるよりもおいしく感じるのはなぜだろう。
いろんな理由はあるんだろうけど、こんな風にみんなで食べるから楽しいしおいしいんだろうなと思う。
鳥系、ヤギ、羊、魔物、マルハバ商会で人気の色んな肉を用意したからじゃんじゃん焼いていこう。
その後もみんなでバーベキューを楽しみつつ、食べる手が止まったのを見計らい、用意していたものをお披露目する時が来た。
俺は会場をひっそり抜け出して、ラフィの家に置かせてもらっているあるものを取りに行こうとした。
「氷屋、どこ行くんだ?」
「ちょっとあるものを取りに行こうかなって」
「あれか、オレも一緒に行くぜ」
そういってラフィが付いてきてくれた。
それなりに重いので助かる。
「あのさ、ラフィ、この前はありがとな」
「ん? ああ、あれか。別に大したことはしてねえよ」
「あれのおかげで、少し俺のやるべきことが分かった気がするんだ」
「そうかよ」
ラフィの言葉には背中を押された。
正直、騎士団の兵舎で話を聞いてもらってなかったら、俺は自分の中で諦めを付けて、納得しようとしていただろう。
相変わらずシータ達の送迎はしてくれているが、あまりも最近は忙しくて、今日までお礼を言えていなかった。
「でもよ、オレも前からお前には感謝してたぜ」
「え?」
俺が何かラフィに感謝されるようなことをしただろうか?
思い返しても特に思い当たることはない。
むしろ、シータ達のことだったり、ラフィ自信を危険なことに巻き込んでしまったり、返さなければいけないことばかりのような気がする。
「ほら、みんなの顔見てみろよ」
そういって、ラフィはみんなの方を指さした。
みんな笑顔で談笑したり、遊んだりしている。
「前も言ったけど、シータ姉たちは子供だから働くのも難しくて、魔法が使えるオレだけが騎士団で働けてた。オレはそれでも良かったんだが、みんな心の中ではそれを気にしててな…。だから、氷屋のかき氷をみんなに食べてもらって、喜んでほしかったんだ」
あの時俺を家に呼んだのはそういう事情があったのか。
シータ達はラフィだけに働かせていることに申し訳なさみたいなのを感じていたんだろう。
「お前のところで働けるってなった時、シータ姉たちは本当に喜んでた。前よりも笑うようになって、毎日楽しそうにしてる。オレにはそんなこと出来なかったからよ。こっちこそ、ありがとな」
「ああ」
そっか、俺も知らないうちに誰かの役に立てていたんだな。
「さて、じゃあこれを運ぶか。そっちのやつを持ってくれ」
「おう」
ラフィの家に冷やしながら置いていたものを会場に持っていく。
4つの容器に入れてあるから、俺とラフィで二つずつ運んだ。
「おおっ、これが前に言ってた新作か!」
「はい、マルハバ商会にあった香草のおかげでできました」
そう、俺が用意していたものとは、アイスクリームだ。
マルハバ商会の食料庫にあった香草を使っている。
用意できた味はバニラ、ミント、レモレ、コーヒーの4種類。
休みの日にこっそり台所を借りて研究していた甲斐があった。
途中エリーラ母さんに見つかって、バニラアイスを献上することで許してもらったが、他の味については今日の日までのお楽しみと言って我慢してもらっている。
エリーラ母さん以外はまだ誰も食べたことがない。
バーベキュー大会の日にサプライズとして出したかったんだ。
もう一つ、マルハバ商会で見つけたものの中に、カカオみたいなやつがあったんだけど、素人の俺ではどう調理したらいいかわからなかったので諦めた。
あれは調理できる料理人を探す必要がありそうだ。
作り方みたいなのはまた今度話すか。
今はみんなに俺の作ったアイスクリームを堪能してもらうとしよう。
「こいつは、かき氷とは違った見た目だな」
「うーん? この色はヤギの乳を使っているようですが、甘い香りですね」
「あ! お父さん、これはきっとミントを使ってるんだよ」
「おお、この香りはそうだな。おっ、こっちはコフの実の香りがするぞ」
商人たちは初めて見るアイスクリームを見て、どんな食材が使われているか話し合っている。
アミルとその父親はさすが薬屋といったところだ。使われている香草の方に目が言っているようだ。
なるべく溶けないうちに食べてほしいところなので、全員が気になる味のアイスを選んで自分の皿にのせていったところで、
「大量に作ってあるから、お腹壊さない程度に好きなだけ食べてね!」
俺がそう言うと、みんな興味津々といった感じで食べ始めた。
『うわーあまくておいしい』
「うん、おいしいね」
「かき氷もおいしかったけどこれはまた別のおいしさがあるね」
子供たちは大喜びだ。
それはそうだろう。
なんたってアイスクリームはかき氷とはくらべものにならないくらい砂糖を使う必要があるのだから。
高級品である砂糖は店によって異なるが、1キロ銀貨3~5枚程度はかかる。
すぐお金の話をしてしまうが、それだけ手に入りにくく、アブドラハの子供たちにとって砂糖を使ったお菓子というのは珍しく衝撃的なはずだ。
「んッ! コフの実なんて入れたら苦くなるんじゃないかと思ったが、ヤギの乳と砂糖のおかげでまろやかな甘さになっていて、口の中でコフの実の香りがふんわり漂ってくる。これは、おいしすぎる……。」
「ちょっと、お父さん泣かないでよ」
「アミル、俺はコフの実にこんな可能性があったなんて知らなかったんだ。いつもコフの実の良さを引き出したいと考えていたんだが、こんなところで出会えるとは……」
オーバーリアクションの薬屋の店主もいらっしゃいます、と。
「ジョゼフ! これ、レモレのアイスクリーム食べてみなさいよ。すごいわよ。アイスクリームの甘さとレモレの酸味が調和していて、かき氷の時とは違う別の甘さが口の中で広がるわ」
「僕の食べてるミント味も食べてごらん。甘さもあるけど、すっきりしていておいしいよ。うん、レモレの味もエリーラの言う通りおいしいね」
「とうさん、ぼくにもひとくちちょうだい」
エリーラ母さんはやはりレモレ味を選んだか。
ジョゼフ父さんはミントを選んでいる。
うーん、リトにはミントの味は早いんじゃないかな。
「おい、氷屋お前も食えよ」
「うわっぷ」
みんなの様子を眺めていたら、後ろからラフィが声をかけてきて、振り向いた途端、スプーンごと口の中に入れられた。
俺の一瞬の隙をつく見事な一閃だ。
「へへ。アイスクリームもうめえな。今度はコーヒー味をいただくか」
「ったく。俺もいただくか」
ラフィはいたずらが成功したように笑ってアイスをお代わりしている。
みんな満足してくれたようで良かったよ。
俺もみんなと一緒に食べていると、
「クラウ様、せっかくお誘いいただいたのに、遅れて申し訳ありません。」
「あっ坊ちゃん、どもっす。」
「サターシャ先生! 来てくれたんだね。隣の方はどこかであったことありましたっけ?」
サターシャ先生も時間を作って来てくれたみたいだ。
騎士団の方が最近忙しいことは知っていたが、俺がサターシャ先生を呼ばないわけがない。
ただ、その隣には初めて見る男がいた。
なんというか、軽そうな見た目に軽い口調だ。
やけに俺のことを知っているかのような口ぶりだが、俺の記憶にはない。
「こうして直接会うのは初めてっすね。自分はルインスっす。前から坊ちゃんのことは見てたっすよ」
「えっ、どこから見てたの!?」
「それは秘密っす。でも、自分が坊ちゃんを初めて見たのは、あの子をザヒール商会の息子から助けようとしてるところっすね」
「あんただったのかよ! あの告げ口のせいでめちゃくちゃ怒られたんだから」
「いやー、さすがに報告しないわけにはいかないっすから」
いや、本当にどこから見てたんだ?
「例の事件の日にクラウ様の後を付けて倉庫の位置を知らせた後、屋台周辺の悪党を始末したのもルインスです。こう見えて、仕事だけはできます」
「こう見えてってなんすか」
「そうだったんだ! ルインスさんありがとう。サターシャ先生もルインスさんもまだ食材は取ってあるから食べていってよ」
「自分のことはルインスでいいっすよ。せっかくのご厚意なんでいただきますか」
「ありがたく、いただきます」
ザヒール商会のカリムが俺を誘拐したとき、いろいろ助けてくれたのはこのルインスだったんだ。
見た目とは裏腹に優秀な男らしい。
「おう、お二人さん。見たことないがあんたらは飲める口かい?」
「おっ、鉱人なんて珍しいっすね。自分は結構いける口っすよ」
「そりゃいいな小僧。こっちきて飲め」
「サターシャ殿、いつも息子がお世話になってます」
「あら、サターシャさんもいらっしゃったんですね」
「旦那様、それに奥方様も」
遅れてやってきた二人もすぐに場になじむことができたようだ。
さてと、俺は会場を回りますか。




