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21話 フリード子爵の過去とクラウの決断

 

 フリード子爵は語り始めた。


「儂が奴らに狙われてこの辺境の土地に来た時、人が住めるような土地ではなかったんじゃが、それでも人は住んでいた。もっと昔は豊かな土地だったそうじゃ。だが、水も枯れ果て、今みたいに植物も育たなかった。そこで会ったのが、儂の妻になるエリゼじゃ。」

「その時に母上と……」


 話を聞く限り、エリゼさんはジョゼフ父さんのお母さん、つまり俺の祖母だ。

 ジョゼフ父さんはフリード子爵とエリゼさんとの出会いは初めて聞くみたいで、真剣な表情をしている。


「そのエリゼさんっていう方は今どこに?」

「エリゼはジョゼフを生んですぐに亡くなっておる。よく人に慕われる、明るい奴じゃった」

「クラウ様、私もエリゼ様に救われた身です。人を不思議と惹きつける、魅力的なお方でした」


 ジョゼフ父さんはエリゼさんの性格を継いだんだ。

 それなら、人を惹きつけるっていうのはなんとなく分かる気がするな。

 フリード子爵が話を続ける。


「当時の儂は若かった。奴らに深手を負わされて、とりあえず手当をと思って、入った家がエリゼの家でな……。その時の傷がこの右腕じゃ」


 フリード子爵に右腕がない理由が分かった。

 ジョゼフ父さんが生まれる前ってことは、かなり昔に片腕だけになったみたいだ。


「エリゼの手厚い看病があって、一命はとりとめた。それから儂があいつに惚れるのは時間の問題じゃった。だが、そこからが大変でのう。エリゼはどうしてもその土地を離れたくないと言い出したんじゃ。あいつの事だから、そこに住む人々を見捨てることができなかったんじゃろう。そこで、儂はこの土地に住むことに決めた。雨を降らすことができる魔道具を使えば、枯れてしまった土地を豊かにできるんじゃないかと考えてしまった。今考えれば浅はかで愚かな考えじゃ。アブドラハが大きくなり、今になって奴らに目を付けられてしまった」


 フリード子爵が雨雲を呼ぶ魔道具を使った理由は分かった。

 それが原因で今になってまた組織から狙われていることも、魔道具がなければアブドラハに住む人の生活が厳しくなるということやその元凶となったフリード子爵はそのことについて罪の意識があることも分かった。

 カリムや貴族家の一家のこととフリード子爵の思いを踏まえたうえで、俺がどうするかだよな。


「フロスト騎士団はもともと魔法が使えないエリゼを守るために設立した騎士団じゃ。クラウ、お主がそれを引き継いで、エリゼが愛したこのアブドラハを儂の代わりに守ってほしい。老いぼれの身勝手な願いじゃ。無理にとは言わん。先ほどは利で話せといったが、すでに儂はお主の主張を領主様に伝えるつもりじゃ」

「閣下が自身の領地を持たないのはそれが理由だったんですね」

「父上、ですが、なぜ今になってその話を?」

「本当は話すつもりはなかったんだがのう。恰好ばかりつけていても仕方ないじゃろ。後に残る者たちにも知る権利があると思ったんじゃ」


 なんだ、やっぱりジョゼフ父さんに似て、フリード子爵も情で考える人だったんだ。

 亡くなったエリゼさんのためにフリード子爵はアブドラハを守り続けていたらしい。

 魔道具の話もそうだ。

 結果的に盗むことになったみたいだが、それを故意に行ったわけではないし、それがなかったらジョゼフ父さんも俺も生まれていない。

 俺の選択はすでに決まっている。


「フリード子爵。俺があなたの後継ぎになります」



―――フリード・グレイシャー視点―――



「話はここまでにしよう。お主らも腹が減ったじゃろう。せっかく来たんじゃ。ごちそうをもてなししよう。ローザ、客人を食堂まで案内せよ」


 儂が呼ぶと、使用人のローザがやってきてジョゼフとクラウを食堂まで案内していった。


「閣下。それでは私も失礼いたします」

「ご苦労。これからもクラウをよろしく頼む」

「はっ」


 そう言うと、サターシャも書斎から出ていった。


「聞いておったんじゃろ? お主ら、クラウのことをどう思った?」


 音を立てず、儂の前に二人の部下が現れる。

 そのうちの一人は、ジョゼフとクラウを子爵家まで運んだ馬車の御者だ。


「若いというのは素晴らしいものですな。どうにも年を重ねると、すぐに割り切ってしまう。クラウ様の言葉には人の心を動かす力がございます。このまま立派に成長していただきたいものです」


 御者の男はそう感想を述べた。


「口先だけの理想論でしょ。口にするなら誰でもできる……イテッ」

「ルインス、まったくお前というやつは」

「わっはっは。確かにそうじゃな。二人とも、儂の孫をこれからもよろしく頼むぞ」

『はっ』


 今度こそ、書斎は儂一人になった。

 クラウの主張は理解できるが、それを実現するのは非常に難しい。

 だからこそ、年を取るごとに諦め、切り捨ててしまう。

 クラウのこれからの行動に期待といったところだ。

 だが、その第一歩として、ザヒール商会の息子とルフェル男爵一家の件については、儂が責任をもってクラウの理想をかなえよう。

 それが老いぼれの役目であり、かわいい孫へ送れる最初で最後の贈り物になるはずだ。




*****




 仕事机に移動して、その机に立てかけてある写真を手に取った。

 写真には、生まれたばかりの赤子とそれを抱えつつ明るく笑う女性、硬い表情をした片腕のない男、その男と手をつないだ小さな女の子が写っている。


 女性の命が残りわずかだと知り、当時では少なかった写真家に懇願し、実現した唯一の一枚だ。


「なあ、エリゼよ。ジョゼフもその息子のクラウもお前に似て強く優しく育った。儂は戦い以外教えられぬ。父親として不甲斐ないが、それでもお前の血を継いだからか、独りでに立派になりおった。儂の隠し事をよく見抜いておったが、そうか、儂の仕草を見ておったんじゃな……」


 書斎で一人そうつぶやいた後、写し絵を机に置きなおし、来客たちが待っている食堂へ向かった。



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