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16話 ラフィの火種と白銀の髪留め

 待たせていた女性のところへひったくり犯を連れて行き、盗まれたものが合っているか確認した後、衛兵さんに引き渡した。

 対応してくれた衛兵さんは犬の獣人だった。犬のおまわりさんという言葉が脳内の引き出しから出てきたが、そっとしまう。

 被害にあった女性からもお礼を言われて、今回は無事一件落着だ。


「ラフィって魔法使いなのか?」

「ん? ああ、言ってなかったか。ほら、この通り」


 ラフィの指先から小さな炎が現れた。


「おおーすごいな! 氷魔法以外の魔法初めて見たよ」

「ふん、だろ? まぁ、氷屋ほど上手く扱えないんだけどな」


 一瞬、ラフィは鼻高々と誇らしげな表情を見せたが、すぐにしおれて落ち込んだ様子を見せた。

 ラフィにとって魔法が何かしらのコンプレックスになっているのかもしれない。

 あまり触れないようにしておこう。


「氷魔法以外見たことないって、氷屋は副団長の魔法知らないのか?」

「サターシャ先生は使い方を教えてくれるだけで、魔法は見たことないんだよな」

「まぁ、いずれ分かんだろ。オレから言うべきじゃねぇな」


 サターシャ先生は魔法のことは色々教えてくれるが、本人がどういう魔法を使うのかは見たことがない。

 魔法使いの中には自分の切り札である魔法を隠すという人もいるので、ラフィは本人の許可なく話すのは違うと判断したようだ。


「じゃあとりあえず、シータ姉たちを探すか」

「そうだな」

「おい、そこのガキンチョ共」


 隣の方から俺たちを引き留める声がした。

 そちらの方を見てみると、出店の店主が話しかけてきているようだった。


「やるじゃねえか! ひったくりを追っかけて捕まえるところ見てたぜ。そんな勇敢なガキンチョたちに、うちの商品を今なら一個特別価格で売ってやるよ」

「なんだよ、客引きか。行くぞ、氷屋」

「いや、ちょっと待っててくれ」


 気になって何が売っているのか見てみると、装飾具やら宝石やら、キラキラしているものが並べられていた。

 別に自分が身に着けたいわけではないが、こういうのを見ちゃうと好奇心からつい寄りたくなってしまうのは仕方がない。

 呆れたように溜息をつくラフィをその場で待たせて、俺はその店に並べてあるものを見定めてみる。


 この腕輪めちゃくちゃ重そうだな

 これは…なんだ? 丸いビー玉?

 こっちのブローチはきれいだし高そうだな


 どれも不思議な装飾具ばかりで、デザインも統一性はない。だが、こういう方が見ていてわくわくする。

 俺は目利きでもないので、こういう時は誰に買うか、どれが似合いそうかで決めよう。


 うーん……。よし、決めた!


「おっちゃん、これを買うよ。安くしてくれるんでしょ?」

「ああ、もちろんだぜ。おっ良いのを選んだな、坊主。これは迷宮産でな、本来なら高値で売れるんだが……。今回は銅貨3枚で売ってやる。払えるか?」

「うん、ありがとう。じゃあこれで」


 俺は銅貨を渡して店を離れた。買ったのは、白銀色の花の意匠を凝らした髪留めだ。

 うん、我ながら良い買い物をしたと思う。


「待たせて悪かった。じゃあ行こうか」

「それで、何か良いの買えたのかよ?」

「ああ、これあげるよ」


 俺はラフィに今買った髪留めを差し出した。


「なんだいきなり?」

「さっきひったくり犯を捕まえたのはラフィだろ? それに、前に性別を間違えたことの謝罪だ」

「そんなことまだ気にしてたのか。それはオレも間違われるようにしてるってのもあるから気にすんな」

「そっか。気に入らないなら無理しなくても」

「別に嫌とは言ってねぇだろ。ほら、渡せよ」


 ラフィはそう言うと、引っ込めようとした俺から髪留めを受け取り、自分の髪につけた。

 すると、ラフィの印象は大幅に変わり、誰がどう見ても男と間違えることはない、年相応の可愛い女の子になった。


「へっ、あんまこういうの付けることないから少し照れるぜ」


 ラフィは恥ずかしそうにそう言って笑った。


「おい、黙ってないでなんか言えよ」


 髪留めだけで普段はぶっきらぼうな印象のラフィから気品のある可愛さを感じ、あまりの変わりように俺は驚いて言葉を失った。



「ああ、すごく似合ってるよ」

「……そっか、そりゃ良かったぜ。さっ、今度こそシータ姉たちを探しに戻るか」


 シータたちを探すため、とりあえずはぐれた場所に戻ることにした。


「なんで男と間違われるようにしてるんだ?」


 歩く道中、気になったので聞いてみた。


「あー、前に奴隷にされかけたって話しただろ? そん時に守られてる自分ってのを捨てたんだ。オレが守る側になるってな」


 その時から、ラフィは守るために戦う覚悟を決めたんだろう。


「氷屋はなんで屋台を出そうなんて思ったんだ?」


 今度はラフィが俺に質問をしてきた。


「最初は家族のためだったな。冷魔庫っていう魔道具のせいで家が危なくてさ。俺が家族を守りたいって思ったんだ。でも、今は一緒に働いてくれるシータ達とか氷で喜んでくれる客たちのためにやってる」

「じゃあオレと似てるのかもな」


 俺たちの動機が誰かを守りたいっていう思いから始まっているのは同じかもしれないが、それでもラフィは俺とは比べ物にならないほど過酷な環境でつらい思いをしてきたのだろう。

 そんなラフィの覚悟を俺はまぶしいと思った。


「あっ! みんな発見したよー」


 遠くの方から聞きなじみのある声が聞こえてきた。


「この声はメリアだな。えーっとどこだ」


 人通りが多いので見分けにくいが、少し離れたところにメリア達が見えた。


「無事でよかった。無事解決したの?」

「うん、ラフィが捕まえてくれたよ」


 みんなと合流出来たので、アミルに何があったか話した。


「ラフィ可愛いーじゃん。それどうしたの?」

「わー! ラフィねえがおしゃれしてる」

「本当だ。似合ってるね」

「あー、えっと、これはだな」


 ラフィは髪留めのことを主にメリアと年下組の女子から追及されてたじろいでいる。


「はいはい、そこまでね。じゃあ皆さんそろったことですし、もう少しだけまわって解散しましょうか」


 そう言って、シータがこの場をまとめ、もう少しだけ祭りでにぎわっている街を回った後、日が暮れる前に解散した。


 毎年行われる祭りの日は家族に連れられて仕方なく外に出るものだったが、今日の祭りはすごく満足した気分になり、俺の大切な思い出の一つになった。



 ―――ラフィ視点―――



「へぇー、ラフィずいぶん嬉しそうじゃん」

「だから、そんなんじゃねぇって」

「ふーん」


 オレは氷屋からもらった髪留めに手を触れる。

 メリア姉はオレがこの髪留めを付けているのを目ざとく見つけてから、ずっとこんな感じだ。

 なんか言葉にしづらい、むず痒さみたいなもんを感じて変な気分になる。


「メリア、いい加減にしなさい」

「ちぇー。せっかくラフィがそういうのに興味を持ち始めたのかと思って期待したのに」

「だから、違うって」


 オレにはメリア姉の言う女の子らしさとかそういうのよりも強くなることの方が大事だ。

 ただ、せっかくもらったこの髪留めを今は外す気になれなかった。


「確かに、ラフィはもう少し女の子らしくしてもいいかもしれないわね」

「シータ姉までやめろよ」

「そうね。でも、その髪留め、すごく似合ってるわよ」

「……そっか」


 その言葉はなんだか嬉しかった。

 そういえば氷屋も同じことを言ってた気がする。

 オレはその時のことを思い出し、もう一度髪留めに手を触れた。



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