15話 楽しい祭りと窃盗犯
カンカンカン!
「決まったああああ! 優勝はなんと15杯という記録を打ち立てた、狩人カイガスだ!!」
試合終了のゴングが響き渡り、歓声が響き渡る会場。
その中心に立つのは、初代フードファイトバトルの覇者、カイガスだ。腕を天高く掲げ、勝利の瞬間をかみしめている。
「うおおお! 俺こそが最強だーー!!」
カイガスの声が高々と上がり、観客たちの興奮は最高潮に達する。
『カイガス! よくやった!! かっこいいぞぉぉぉ』
仲間たちが喜びに満ちた声で彼を称える。
「お前ら、この金で今日は飲みまくるぞ! 俺のおごりだ!!」
カイガスが力強く宣言すると、仲間たちからは歓声が上がった。
「うぉぉぉぉおおおおお」
喜びに満ちた声が広がる中、カイガスは優勝トロフィーと賞金を手に、仲間たちのもとへ駆け寄っていく。その後ろ姿は勝利の栄光を手にした英雄そのものだ。
彼は新たな伝説の始まりを予感させるかのように熱気に帯びた会場を後にした。
いやー、すごく熱い戦いだった。
最後は狩人のカイガスさんと主婦のザハラさんの一騎打ちになり、トップを独走していたザハラさんがかき氷を一気に食べたことによる頭痛に苦しんでいるところを、カイガスさんが一気に追い抜いた。
カイガスさんはうちの常連なので、日ごろからかき氷を食べていた分の経験値の差での勝利となった。
もしも出される料理が違っていたら、結果も違っていただろう。
しかし、運も実力のうち。与えられた条件のもとで正々堂々と戦い抜き、その運を見事につかみ取って勝利したカイガスさんの勝利は誰もが認めるものだ。
俺も最後の方はかき氷を作る手を止めて、その熱戦をつい見入ってしまった。
「最初は何をやるかと思ったが、意外と面白いな」
「あのかき氷って一気に食べると頭痛くなるのよね。なんで、あんなにたくさん食べられるのかしら?」
会場の熱気は冷めやらぬまま、観客は初めて見たフードファイトバトルについて思い思いの感想を話している。
「おークラウ、お疲れさん」
「あ、バルドさんお疲れ様です」
無事に大会が終わり、バルドさんも心なしかホッとしているようだ。
まだまだ祭りは始まったばかりなので、バルドさんはこれからも忙しいんだろうけど。
「成功したな。初めに案を聞いた時は食べる速さを競うなんて盛り上がるのかと思ったが、この様子じゃ来年もやらなきゃいけないようだな」
「そうですね。俺たちが出場しないで済んで良かったですね」
俺がそう言うと、バルドさんは嫌そうな顔をした。
「とりあえず、お前の仕事は終わりだ。あとは子供らしく遊んで来い」
「お先に失礼します」
色々片付けをして自分の物は一度家に持ち帰った後、俺はアミルたちと合流するためにまた外へと駆け出した。
*****
「フードファイトバトル盛り上がってたね」
「あそこまで人が集まると思わなかったよ」
アミルと合流し、シータたちが来るまで待ち合わせ場所で大会の感想を話していた。
どうやらアミルも見ていたようだ。
「来年は参加してみるか?」
「あはは、僕があんなに食べれると思う?」
「一般の主婦で13杯も食べてたザハラさんっていったい何者なんだ?」
「おーい。来たぞー」
遠くの方からメリアがこっち向かって手を振っている。
『きたぞー』
年下組のビン、サーラ、アイシャも一緒だ。
「今日はよろしくお願いします」
「こんなに大勢で祭りに来るのも初めてだよね」
その後ろから、シータとカイもやってきて全員集合かと思いきや、
「よう!」
「あれ、ラフィも?」
ラフィも一緒にやってきた。
「あ? オレが来ちゃ悪かったか?」
「いやいや、むしろ嬉しいよ。今は仕事のほうが忙しいんじゃないかと思ってたから」
「ああ、オレはまだ見習いだからな。上層部は忙しそうにしてるし、今日は若手の騎士もはぐれの見回りをやってて指導者がいねぇから、午前の訓練で終わりだ」
「そうだったのか、誘おうか悩んでたから、来てくれたならうれしいよ」
「おう」
「おーい。二人とも早くいくぞー」
はしゃいでいる様子のメリアは待ちきれないといった様子で急かしてきた。
少しは年下組を見習えよ。
とはいえ、大人数で遊ぶのは前世以来なので、俺もわくわくしている。
今回、アミルと俺で祭りを回ろうか話していたところ、シータ達も祭りに行くとのことだったので、一緒に回ることに決まった。
「年下組は街に下りても大丈夫か?」と聞いてみたら、もう分別も付く歳になったし、どうしても行きたいと言うことを聞かないので、祭りの間はシータの目から離れないことを条件に了承したそうだ。
「そういえば、さっき言ってたはぐれってなんだ?」
ラフィの言葉にあった「はぐれ」というのが気になったので、聞いてみた。
「あー、はぐれは低魔素帯とか高魔素帯からこの街に向かってくる魔物のことだ」
「それも騎士団が対応してるのか」
「今日は祭りの日だから偵察してるだけで、普段はやらねぇよ。そもそもはぐれ自体、年に数回来る程度だし、ほとんどは狩人とか狩猟団が狼煙で知らせてくれるからな」
騎士団も狩猟団も協力して、はぐれから街を守ってくれてるらしい。
長い間住んでいるというのに、そんなことも知らなかった。
そのあとは、屋台で食べ歩き、輪投げや的あてなんかのミニゲームをやったり、舞台の方へ行って曲芸を見たりした。
「あの火がボーッてなるのすごかったね」
「いやいや、あの短剣を飲み込んだり、出したと思ったら、今度は鳥に変わったりする方がすごかったよ」
「いーや、何もない空中でジャンプして会場中を飛び回ってる人のほうがすごかったよ。みんなとハイタッチしてたもん」
年下組がどの曲芸が面白かったかで言い争っている。それは言い争いたくもなるよな。多分魔法を使っているんだろうが、なんの魔法をいつ使っているのか、全くわからなかった。
魔法があれば何でもありじゃないかという意見もあるかもしれないが、魔法という選択肢があるというのは、それはそれで面白かった。
「あの店素敵! 何か買おーっと」
「あっ、メリア一人で行くなって」
曲芸を見た後、今度はさっき歩いた通りとは別の通りを見て回っていたところ、自由奔放なメリアが一人で気になる店の方に行ってしまい、それをカイが追いかけた。
「私たちも近くの店で何か見て待ちましょうか」
「あっちみてみたい」
「アミルこっちきてー」
「うわっ、分かったから引っ張らないで」
アミルもすっかり年下組からの好感度を得たようで、3人から引っ張られている。
さ、寂しくないやい。これも人たらしのアミルが悪い。
「きゃー、泥棒よ!」
くだらないことを考えていた俺を現実に引き戻したのは、人通りの多い街中で響き渡る女性の悲鳴だった。
「チッ。シータ姉! 後で合流するから先回っててくれ」
「アミル、みんなを任せたぞ! 氷蛇」
気付けば俺とラフィは指示を出して、その場をシータとアミルに任せた後、悲鳴が聞えたほうに駆けつけていた。
おいおい、バルドさんが街の雰囲気が悪くなってるって言ってたけど、こんな祭りの日にやめてくれよ。
「ラフィ、あの逃げているやつを追ってくれ。頭に氷で目印をつけておいた」
「おう、任せとけ」
この人通りの多い場所で氷魔法は使いにくい。
人の波の動きからひったくり犯の後ろ姿はとらえているので、素早い縄サイズの氷蛇に追わせ、追いついたところで犯人の体をよじ登らせて、頭の上でとぐろを巻いている。
変に
『氷蛇』は逃走用に作った魔法なんだけど、動きが激しくて酔うから諦めた。
その代わり、避けるのは得意だからこういう人込みでは敵の捕縛用に使える。
この人込みでは捕縛が難しいので、目印替わりにした。
ひったくりをした犯人がどいつか分かれば、あとはラフィが何とかしてくれるはずだ。
「大丈夫ですか? 怪我とかは」
「ええ、軽くぶつかっただけだから怪我はないわ。心配してくれてありがとう」
「いえいえ、多分友達が犯人を捕まえてくれるのでここで待っていてください」
「あっ、ちょっと」
女性の制止の声を振り切り、俺はラフィのもとへ走っていった。
ラフィなら大丈夫だとは思うが、どれくらい実力があるのか知らないから一応な。
残念ながら、氷魔法で作った生物はその居場所をつかむことができるほど優秀ではない。
目線が届くところで操るか、あらかじめ動きを決めておいて操作するくらいしかできないのだ。
周りの人に尋ねながら進むと、二人はどうやら人込みの多い通りを抜け、建物のあいだの通路に入っていったようだ。
その道へ入ろうと曲がった瞬間、ブワッと熱波が飛んで来て、男の悲鳴が聞えた。
「大丈夫かっ!?」
俺が慌ててその通路の様子を確認すると、
「おう、氷屋。終わったぞ」
ラフィがこっちを向いて笑みを見せた。
犯人らしき人物は……言うまでもないが、腰を抜かして壁に寄りかかり泡を吹いていた。
彼の頭上の壁には少し焦げた跡がついている。
少しでも心配して損した気分だが、無事なら何よりだ。
頭の上でとぐろを巻いている氷蛇を動かして泡を吹いている男の両腕を拘束した。
誤字報告ありがとうございます。
非常に助かります。