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127話 開戦

「クラウ、本当なんでしょうね? あの死体の魂がわざわざ忠告してきたなんて、やっぱり信じられないわ。それにその作戦で本当に大丈夫なの?」

「どうせ戦わなきゃ魔剣は持ち帰れないんだ。疑っても仕方がないだろ。何も知らないで挑むより、ある程度の方向性が決まっている方がマシだ。クラウの策が通じなかったら、その時なんとかすれば良い。お前は何かクラウみたいな策があるのか?」


 俺はリュゼルから聞いた敵の情報を話し、そのうえで考えた作戦を話した。

 イーシャはそれを疑っているようだが、ロイクは作戦に同意してくれるようだ。


「あるわけないでしょ! こんな異質な迷宮主と戦うのなんて初めてなんだから。あたし達が気付かないうちに(まぼろし)を見せられたってだけでも、あいつの力は異常よ」

「それなら素直にやることをやろうぜ。話通りなら、久々に楽しめそうだ」

「はぁ、まあいいけど。思う存分暴れていいみたいだし、(まぼろし)の中でやられた分はやり返してやるわ」


 どうやら二人は作戦に乗ってくれるようだ。

 作戦と言っても、二人は思う存分暴れるだけなので、そう難しいことではない。

 想定外な事態でもどうにかしてくれるだろう。


「クラウ殿のサポートは自分でいいんですか?」

「リオネルには悪いけど、頼めるか? もし、あいつに考える頭があったら、真っ先に狙われるのは俺なんだ」

「いえ、むしろこの重要な役目を任せて頂いて嬉しいです」

「頼りにしてるぞ。でも、状況次第ではみんなも守って欲しい」

「はい! もちろんです」


 今回の作戦は、前衛がラフィとロイク、中衛がイーシャ、後衛がリオネルと俺になる。

 俺は最前線で戦うのではなく、後方で戦況を見ながらみんなのサポートをしていくつもりだ。

 というのも、リュゼルに対しては俺の魔法がもっとも有効であり、狙われる可能性が一番高い。

 リュゼルから教えてもらった“奥の手”もあるが、近接戦闘は前衛の二人と比べものにならないほど差があり、リュゼル自身も剣士であることから、真っ先に殺されるだろう。

 前衛にいても足を引っ張るだけなので、俺の魔法でみんなをサポートするのが一番良い。

 リオネルという護衛がいれば、俺が狙われても問題なくなる。

 あとは、戦況次第でこの位置も柔軟に変えていく。


「なんで私は見てるだけなの?」


 俺たちが盛り上がっていると、服を後ろから引っ張られた。

 後ろを振り向くと、不満げな雰囲気のラフィが俺を睨みつけている。


「さっきも言ったけど、ラフィは切り札なんだ。最初はロイクとイーシャに任せて、敵の隙を見て渾身の一撃を入れて欲しい。リュゼルの話通りなら、あれを壊さない限り、俺たちに勝ち目はないんだ」

「……切り札」

「壊した後は、好きなように暴れていいからさ」

「私は切り札」


(よし、満足したようだな)


 ひとまず、ラフィを納得させることはできた。


 ラフィとロイクの戦闘センスがいくらずば抜けていても、十日という短期間では連携できるようになるわけがないし、イーシャも全力を出しつつ動きを合わせるなら前衛一人が限界とのことだ。

 付き合いが長いイーシャとロイクなら息を合わせられることは本人たちに確認済みで、それならラフィは単騎の切り札にする方が良い。

 それに、ラフィの火魔法はどうしても周りを巻き込む。

 ロイクは大丈夫だと言っているが、ロイクの方はいまいち能力が分からないので、この配置に決定した。


 俺たちはそれぞれ戦闘位置につき、準備を始める。


「最後にもう一回確認するけど、あいつの体の中にある核を壊せば俺たちの勝ちだ。その核こそが迷宮核で、あいつの動力源だ。それ以外を傷つけても体は修復するし、体力もほぼ無尽蔵みたいだから気をつけろ!」

「遺体を腐らせず、さらに動力にもなる。迷宮核とは一体なんなんでしょうか?」

「リオネル、疑問に思うのは分かるけどそれは後にしよう」

「……そうですね」


 実は、俺もリオネルと同じ疑問を持ち、『なぜ体内に迷宮核があるのか』とリュゼルに聞いた。

 そのときリュゼルは、真剣な表情でこう答えたのだ。


『世界の(ことわり)の枠組みを超え、永久を彷徨う覚悟があれば教えよう。ただし、一度でもその枠組みから外れれば、その先に待っているのはどうしようもなく不安定な世界だ。(ことわり)に干渉しようとすれば、(ことわり)から制約が課される。某のように、二度と地上では生きることができぬかもしれんぞ。』


 その語り口に、軽々しく聞くべきことではないと察し、それ以上は問いかけなかった。

 きっとリュゼルは、自らの役目のために今の選択をしたのだろう。


「話でしか聞いたことがない龍人と戦えるのか。死んでなければもっと良かったが、どんなものか」

「バカなこと言ってないで、集中しなさい。烏夜照らす月鏡テネブリス・ルナスペキュラ


 ロイクは戦いが始まるとなり、気分が高揚している。

 普段は暴走して止められているイーシャの方がそれをうんざりした様子でたしなめた後、空中に巨大な鏡を呼び出した。

 その鏡面は景色を反射することなく、まるで夜空を封じ込めたように、深く黒い闇を映していた。

 見つめているだけで吸い込まれそうになり、底知れぬ恐怖が胸を満たしていく。


鏡よ(スペクルム)……夜を写せノクテム・レプラエセンタ……」


 イーシャは何かをぶつぶつと唱え、全員が静かにその様子を見守る。

 瞳は蒼く輝き、彼女の頭上に浮遊した鏡が移動する。

 そして、彼女を中心として鏡が一瞬にして広がり、祭壇の間に夜が訪れた。

 室内だというのに、天井は真っ暗な闇に覆われている。


「みんな、準備は良いかしら?」 

「あ、ああ」

「全力を出すために夜をこの場所に映しただけ。壁も光ってるし、暗くて見えないことはないでしょ?」

「問題ないよ。頼んだ」


 その神秘的な光景に見惚れていたところ、イーシャに話しかけられて正気を取り戻した。

 突然、夜を映すなんて規格外なことをされたのだ。

 呆けてしまうのは仕方がないだろう。


転写(リプリカ)


 イーシャがパチンッと指を鳴らすと複数の真っ黒な鏡が四方八方からリュゼルを取り囲む。

 少しすると、鏡は月が満ちていくように徐々にその輝きを増していく。


月輪裂光ゲネシス・イルミナーレ


 光が最大に溜まった瞬間、夜という状況も併せて、鏡はまるで夜を照らす満月のように写る。

 そのまますべての鏡からリュゼルへ向けて、一斉に巨大な光線が放たれた。

 これだけ溜めの時間があってもリュゼルが動くことはなく、その光線をまともに浴びる。


「うわっ! ……恐ろしい威力だ」


 大規模な爆発がリュゼルを中心に巻き起こり、破壊音とともに祭壇の柱は崩れ、天井がリュゼルを下敷きにする。

 そのとんでもない威力を見たリオネルは隣で顔を青くしてつぶやく。

 俺もここまで威力があるとは思わず、内心驚愕している。


「前に私に使った時と威力が全然違うな」

「当然でしょ。全力で放つには溜めが必要だし、相手が動かないから撃てただけよ」


 ラフィは後ろから近づいて、イーシャに話しかける。

 どうやらこの威力は、敵が動かなかったから可能だったということらしい。


「夜にしたのは意味があるのか?」

「光は夜じゃないと溜めるのに時間がかかるの。それに最大まで溜まってもあそこまで威力はでないわ」


 これこそがイーシャの神霊具の能力だ。

 夜を映しだし、鏡に光を集めて攻撃する。

 さらに、その鏡は複製可能で、相手を囲むことも可能である。

 ラフィと戦った時でも恐ろしい力だと思っていたが、あの時は昼だったし、光も最大まで溜めていたわけではなかったようだ。

 敵にしたら勝ち目がないんじゃないかと思ってしまう。


「さて、これで終われば話は簡単なんだけどな」

「さすがにそれは無理だと言っていたのはクラウだろ。ここからは俺の番だ」


 イーシャの攻撃の威力は想定外だったが、この程度で終わるはずがない。

 ロイクがそう口にした途端、崩れた祭壇から激しい炎の柱が立ち上る。

 俺たちが攻撃したことによって、リュゼルの死体は侵入者を排除するために動き出したのだ。


炎天(えんてん)


 死体であるはずのリュゼルから声が聞こえる。

 その声は幻術の中で話した時よりも無機質で、聞いているだけで悲しくなる。

 リュゼルから放たれた炎は闇夜を照らし、天井は炎に包まれた。

 炎の中、リュゼルは天へ向けて癖のない見事な長剣を掲げている。

 その体には幻術でみたほどの派手さはなくなっているが、見覚えのある鎧が身に着けられている。

 輝きこそないものの、龍人族特有の鱗や羽もついているようだ。


「あの鎧は魔法を吸収するってのは、間違いなさそうだな」

「どんな鎧よ。あたしの最大威力だったんだけど。普通の敵なら木っ端みじんに吹き飛んでるわよ」

「まさに魔法使い殺しですね。事前に知らなかったら、どうなっていたか……」


 リュゼルを相手する上で厄介なのが、魔法を無効にする鎧だ。

 あの鎧は龍人族の世界の鉱石で作られており、魔素や霊力を炎に変換するらしい。

 そして、その変換した炎を操り、侵入者たちをことごとく葬ってきたようだ。

 これを確かめるために、イーシャに離れたところから攻撃してもらった。


「打撃が効くなら関係ない! イーシャ、俺に当てるなよ!」

「せいぜい気をつけなさい」

地王の鍛録数珠(テルラ・ヴォルグ)解放(リベル)!!」


 炎に臆さず、ロイクはリュゼル目掛けて突撃していく。

 ロイクの体は不思議なオーラに包まれ、一足進むごとに小さな地響きがする。

 彼の踏み込んだ地面には、大きなヒビと足跡が残っており、途方もない力が加わったことが分かる。

 数歩で最大まで加速したロイクの体は矢のように鋭く、リュゼルが剣を振るよりも早く鎧ごと殴り飛ばした。

 リュゼルが壁に激突し、部屋に轟音が響く。


「こんなもんじゃないだろ! かかってこい、龍人の英雄!」


 挨拶とでも言うかのように、ロイクはリュゼルを挑発する。


炎天朱雀(えんてんすざく)


 すぐに異変は起こり、天井の炎が巨大な怪鳥となり、ロイクを飲み込む。


「こっちにも来るぞ! 大氷壁!」

領域防壁(エリア・シールド)

「助かるわ」


 その炎の怪鳥はそのまま俺たちに向かって飛んでくるが、俺の氷とリオネルの壁で防ぎきる。


「ロイク、大丈夫か?」

「アチチチッ!! こっちは大丈夫だ! お気に入りの服だったのに、燃えちまった」


 まともに炎を浴びたロイクの安否を核にするが、そこには上裸になったロイクがほとんど燃え尽きた服の火を消しているところだった。


「あいつ、戦闘になると馬鹿になるから放っておいて良いわよ。少なくとも数分は死なないし。それまでに鎧を壊さないとね」


 ロイクの神霊具の力はよく分かっていない。

 だが、身体能力を数分向上させるものだという説明を聞いているだけだ。

 俺たちはロイクが強化している数分間で、あの鎧を壊さなければいけない。


「そ、そうだな。まだあいつは魔剣すら使ってないし、気を付けていくぞ」


 イーシャとロイクが仲間で良かったと心の底から思いながら、リュゼルとの戦いに集中しようと気を引き締める。


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