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13話 計画の裏側

 実は屋台をボロボロにされる少し前の日に、俺はジョゼフ父さんにお願いして手紙を出してもらい、サターシャ先生の所へ相談しに騎士団の兵舎に行っていた。


「それで、私に相談したわけですか」

「うん、力を借りたいと思って」


 俺はサターシャ先生に自分の置かれている状況を説明した。

 カリムへの対策を考えるとはいえ、俺には状況を知る術がなく、それを知っていそうなサターシャ先生に頼るしかなかった。


 

「私が騎士団の副団長だという話はどこで?」

「ラフィから。サターシャ先生も隠している感じではなかったから」

「確かに、それを知られたところで私の業務に影響はありません。そして、大人を頼ることを覚えたことは褒めましょう」


 そういって、サターシャ先生はいつも変わらない表情を少し柔らかくした。

 対策を考えた時、「人を頼れ」とラフィから言われたことを思い出し、サターシャ先生の存在に行きついた。


「まずですね、ザヒール商会の息子については私たちもクラウ坊ちゃまが問題を起こす前から調査していました」

「え、そうだったの!?」

「はい。というのも、ザヒール商会は裏組織とのつながりがあるという噂が以前からありまして、その背後にはある貴族家ともつながりがあることが分かっていました」


 なんと、ザヒール商会は貴族と裏組織の両方と関係を築き、その関係を利用して大きな利益を上げていたようだ。


「調査の中でいくつか情報は得たのですが、どれも決定的な証拠にはなりませんでした。そこで目を付けたのが、ザヒール商会の息子です。彼の行動が調査の糸口になると考えました」


 なるほど、騎士団のほうではすでに調査が進んでいる様子だった。

 そういう事情があったとしたら、俺がカリムと問題を起こしたとき、サターシャ先生は相当焦ったはずだ。


「知らなかったとはいえ、カリムと問題を起こしてしまって、ごめんなさい」

「分かってくれればいいです」


 俺がカリムと問題を起こしたとき、調査の中止も視野に入れつつ、ザヒール商会にカリムの問題行動に対して警告したそうだ。

 それ以降、予想通り慎重になったザヒール商会は慎重に行動するようになり、調査も難航していたらしい。

 しかし、カリムだけは違った。俺たちの屋台に関する情報を集めだし、裏組織と接触して戦力を集め始めたのだ。


「最近になって、ザヒール商会の息子がクラウ坊ちゃまたちの情報と傭兵や悪党どものような戦力を集めています。この意味が分かりますか?」

「カリムは俺を狙っている?」

「はい、その通りです。おそらくですが、魔法使いであるクラウ坊ちゃまにやり返すための戦力を集めていると考えられます。人通りの多い街中での襲撃というのは考えづらいので、何かしらの手段でクラウ坊ちゃまをおびき寄せるはずです。それも近いうちに」


 俺をおびき寄せる手段として最初に考えられるのはアミルやシータたち、家族を人質にとることだが……。


「すでにクラウ坊ちゃまの関係者には見張りをつけています。なので、その点はご安心ください」


 そうか、もう知らないところでみんな守られていたんだな。

 じゃあ後は、


「たとえ何か仕掛けてきても、俺がいつも通りにしていれば、短絡的なカリムの奴なら我慢できずに接触してくるはず。もしそうなったら、俺がおとりになればいいって話だよね」


 俺だけが狙われるなら好都合だ。


「正直に言うと、今の情報でもザヒール商会の罪を追及することは可能ですが、それだとあまりに時間がかかりすぎてしまいます。その間に重要な不正の証拠を消されてしまう可能性が高いです。ですので、はい、クラウ坊ちゃまの身を危険にさらすことになりますが、おとりになっていただければ、騎士団もその状況を利用して一気にザヒール商会を潰すことができます」

「なら、俺がおとりになるよ」

「ですが、私は反対です。クラウ坊ちゃまを強引な手段で攫うことだって考えられます」

「それでも、命は守ってくれるでしょ? 俺はサターシャ先生を頼りにしてるから」

「はっ! この命にかけてクラウ坊ちゃまをお守りいたします」


 俺の覚悟が伝わったのか、サターシャ先生は騎士らしい返事をしてくれた。


 正直、ジョゼフ父さんへの説得が一番大変だった。

 最終的にはサターシャ先生が必ず守ることを誓い、ジョゼフ父さんは折れてくれた。




 *****




 そして、この計画を立てた後、カリム側からの接触を待っていた時に、屋台を壊されたり、かき氷のひどい噂を流されたりしたわけだ。

 そんなことがあっても、カリムを焦らせるために普段通りを装って営業を続ける必要があったのだ。

 アミルやシータ達には心配をかけたが、もう解決したことを伝えよう。


 気絶させられたり、強引に連れ去られたりする可能性もあったので、別の商会を装って連れてこられたのは運が良かった。

 感知はできないけど、俺にも見張りがついていることは分かっていたから、途中でおかしな道を歩いているなとか思っても、自信をもって騙されたふりを続けることができた。

 騎士団の人たちの存在は大きかった。


 しばらく建物の外で待っていると、中の戦闘も終わったらしく、白いローブを纏った騎士団のメンバーが次々と出てきた。

 中の様子は見えないが、すごく悲惨な状況になっているのは容易に想像できる。

 初めて見る騎士団の姿に見入っていると、大柄な男がゆっくりとこちらへ近づいてきた。


「これはどうも、初めまして。フロスト騎士団団長のガルハルト・フロストです。その白い髪を見るに、あなたがクラウ坊ちゃんですかな?」

「はい、クラウ・ローゼンです」

「容姿もジョゼフ様によく似ていらっしゃる。私も家に妻子がいますので、あなたのような子供を危険な目に合わせたこと、申し訳なく思っています」

「いや、これは自分から言い出したことなので。ところで、カリムが一瞬で気を失ってたように見えたのは……」

「はっはっは、見ておられましたか。軽い脳震盪なのですぐに目を覚ますでしょう」


 軽く頭に触っただけなのに脳震盪ってどういうことだよ!


「今回の件、ご協力感謝します。後の処理はどうかこちらにお任せください。それと、ジョゼフ様にはくれぐれもよろしくお伝えください」


 先ほどあの場に現れた時とは雰囲気が違い、ガルハルトさんは優しそうなおじさんといった感じだった。この人はきっと戦いになると性格が変わるタイプだ。


 そんな感じで、その場のことは騎士団に任せ、俺は騎士団の知り合いの一人、ミャリアに連れられて、屋台のほうへ戻っていった。

 俺がこの場にいてもできることは何もないからな。




 *****




「ここらへんでいいですかにゃ?」

「うん、ありがとうございました」


 屋台に着いたのでミャリアさんにお礼を言って別れた。


「クラウ君、おかえりなさい」

「ただいま、みんなお疲れ様」


 屋台のほうは何事もなかったみたいだ。

 カリムの奴がこっちのほうにも手下を送ったみたいな話をしていたが、騎士団の人が対処してくれていて助かった。


「もうかき氷がないとこの夏はやっていけないなー」

「このコーヒーも癖になるんだよな」


 常連さんもいつも通り嬉しそうに過ごしてくれている。

 さっきの緊迫した状況から日常の景色に変わり、なんだか不思議な気分だ。


 よし、俺も気合入れて閉店まで頑張るぞ。



 ―――サターシャ視点(クラウ救出前)―――



 クラウ坊ちゃまが見かけたことのない商人に連れられてどこかへ向かっているという報告が入った。

 優秀な部下のことだから、バレずに尾行を続けていることだろう。

 私もクラウ坊ちゃまを救出するために現場へ急行する。


「ここがクラウ坊ちゃまの連れ去られた場所ですね」

「そうっす。ちょうど今、倉庫の中に入って行ったっすね」

「ご苦労。こちらは任せて屋台の方へ戻り、怪しいものがいたら排除しなさい」

「了解っす」


 この男、ルインスは騎士団の諜報部隊を任されるだけあって優秀だ。

 この口調や勤務態度さえどうにかなれば、もっと評価できるのにもったいない。

 何はともあれ、今はクラウ坊ちゃまの救出が優先。

 倉庫内にはクラウ以外、魔法使いはいないようだが、万が一の可能性がある。

 ルインスに案内された倉庫は金属製の扉が占められており、その扉の前には一人の平凡な男が立っていた。


 ピィーーーーー


 建物の中から口笛が聞える。クラウ坊ちゃまからの合図だ。


「どきなさい。邪魔です」

「そのローブ、なんで騎士がこんなところにいるんだろうね。けど、そうもいかないよ。こっちもお金をもらった以上はその分の仕事をしないと」

「ならば死ね」


 私は懐に仕舞っていた短剣をその男に投擲する。


「おおっと、怖い怖い。そんなに急がなくたって、あのガキンチョなら何とかできるでしょ。 魔法使いなんでしょ? 彼」

「黙れ、死ね」


 短剣は避けられたものの、それを目隠しに男のもとへ一瞬で近づき、懐から新たに出した短剣で頸動脈を断ち切る。

 だが、その感覚は人間のものではなく、殺したはずの男は土くれとなってその場に崩れ落ちた。


「僕の分身一体じゃ、まだまだもらった報酬に釣り合わないよね」


 そういって、倉庫の右手にある積み荷の影から同じ男が出てきた。


「分身系の魔法か。厄介な」


 だが、私には分かる。

 出てきた男は無視し、反対の左手にある廃墟となった詰所の方へ向かった。


「貴様が本体か?」


 詰所の中に本体と思われる男が隠れていた。


「あちゃーばれちゃったね。体内の魔素量でも見えるのかな?」


 そう、私の目なら相手の魔素量も見える。


 相手が刃物を抜こうとしたところ、迷うことなく短剣を振りぬき、男の頸動脈を切った。

 しかし、それも人間の感触ではなかった。


「僕は昔からかくれんぼが得意でね。君みたいに目が良い人にも見つからないように工夫してきたんだ」


 今度は建物の入り口から男が声をかけてきた。

 おそらくこいつも分身だろう。

 なるべく早くクラウ坊ちゃまのもとへ行きたいが、こいつが邪魔をしてくるはず。

 今度こそ確実に本体を殺そうと探知し始めた時、


「でも、もう時間も稼いだし、分身二体と合わせたら僕の仕事は終わりかな。お仲間さんも来ちゃったみたいだし」


 男はそう言うとどこかへ消えていった。

 おそらく金で雇われた傭兵なのだろう。

 無駄な時間を使ってしまった。


 私が扉の前に戻ると、団長や騎士団の部下たちが到着した。


「副団長、早すぎますにゃ」

「早くクラウ坊ちゃまを救出しましょう」

「よし、任せろ。インパクトォォォ」


 ドォーン!!!!


 この脳筋じじい。

 クラウ坊ちゃまが扉にぶつかったらどうするつもりだ、おい。



サターシャ先生、ピキピキ……

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― 新着の感想 ―
相手が殺す気でも人を攻撃するのは嫌 でも中身が大人だから責任は取らないといけないみたいな精神だよね そこまで覚悟決めるなら相手を傷つける覚悟も決めなよ
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