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120話 魔剣と隠された部屋

 交渉を終えた日の夜、俺は寮の自室で一人考え事をしていた。


(使徒ってなんだよ)


 イーシャから言われたのは、俺が火の神様から認められた存在だということだ。

 そして、それを証明するのが蔵書館で偶然手に入れた炎霊晶という不思議な宝石らしい。

 リオネルとゼラにも炎霊晶を渡して確認したが、二人には全く反応しなかった。

 自分では認めたくないが、指でつまんだ炎霊晶の輝きが使徒であることを肯定する。

 あの二人を完全に信用しているわけではないが、嘘を言っているようにも見えなかった。


(心当たりがあるとするならあの日だよな)


 思い浮かぶのは、アブドラハでラフィが暴走しかけて、法衣の男が現れた日のことだ。

 俺の腕から炎の腕が現れ、魔器に不思議な力が宿った。

 そういえば、法衣の男も“眷属”がどうのこうのと言っていた気がする。

 他にも、俺はいつの間にか熱に耐えられる体になっていたが、今考えてみるとおかしい。

 もともと寒さには強い体質だったので、それの延長戦上だと気にしていなかった。

 だが、暑さにも強くなったのはあの日以降のことだ。


(これが全て使徒と関係があるのだとすれば……原因は間違いなくラフィだ。あの膨大な力は火の神様が関係しているってことか?)


 交渉の場では導けなかった結論にたどり着くと、散らばっていたピースが当てはまった気がした。

 ラフィに違和感を覚えることは何度もあったし、リオネルとレオノーラも同じだと思う。

 俺以外の二人がそれを聞かないのは、本人が話すのを待っているからだろう。


(結局、俺は聞くことも話すこともできないな)


 学園に来てから、より自分のことが分かった。


 ラフィはこの学園に来て、イーシャというライバルができて楽しそうだ。

 リオネルも鍛錬を積みながら、同世代の生徒と切磋琢磨している。

 レオノーラは魔獣に乗る『乗魔(じょうま)』という趣味を見つけて、今度レースに参加するみたいだ。

 ゼラも少しずつ友達が増えて、学園に居場所をつくり始めている。

 同じような意味では、俺も周りに溶け込めているのかもしれない。

 だが、俺の前世(おいめ)がそれを拒み、許さない。


 困れば助け、間違えば止めてくれる友人たちは心強く感じるが、俺は彼らを守らなければいけない存在だ。

 彼らの邪魔になることは避けたいし、今回も空回りして巻き込んでしまったことが情けない。

 この大事な関係を壊さないためにも、全部ひっくるめて俺の中に閉じ込めておこう。


 ……俺はどうしようもないくらい臆病なのだ。



 *****



「みんな揃ったところで会議を始めようか」


 俺は迷宮攻略に集まったメンバー全員が揃ったのを確認して、進行役を務める。


「まずは、手を組むことになったイーシャとロイクから自己紹介をお願いします」

「じゃあ、あたしから。イーシャよ。こっちの無個性男がロイク」

「誰が無個性男だ。どうもロイクです」

「よろしく」

「よろしくお願いしますわ」

「よろしくお願いします」

「お願いします」

「あんたたちに協力するとは言ったけど、こっちからも協力するにあたって条件があるわ」


 自己紹介が終わったと思ったら、さっそくイーシャが困ることを言い出した。


「おいおい、交渉は前に終わっただろ。素直に協力してくれるんじゃなかったのか?」

「こいつが言葉足らずで済まないな。どちらにせよ迷宮核の破壊までは手を組む。ただ、それを手伝った後の報酬の話はまだしてないだろ? 後で揉めても仕方ないし、それを事前に伝えようと思ってさ」

「なるほど、それは決めてなかったな。教えてくれ」


 イーシャの言いたかったことをロイクがかみ砕いて説明してくれる。

 言われてみれば、迷宮攻略後の二人の報酬については考えていなかった。

 お金で済むならなんとかするつもりだが、ロイクがあの場で言わなかったということは、そういう類のものではないだろう。

 二人が学園の迷宮に潜る理由に関わっているのかもしれない。


「俺たちは学園にある物を探すために来たんだ」

「報酬はそれってことでどうかしら?」

「もったいぶってんじゃねえ。早くそれを言えよ」

「ラフィ、あんたは無粋すぎるわよ」


 そう急かすラフィに対し、イーシャは呆れたように溜息をつく。


「あたしたちが探しているのはね……魔剣よ」

『魔剣?』


 俺を含めた5人の声が重なる。

 イーシャとロイク以外の全員が魔剣というものを知らない。


(やっぱり二人と手を組んで正解だったみたいだな)


 俺はそう確信した。

 目標とする迷宮攻略の重要な情報源であった手帳が灰になり、俺は少しでも迷宮に精通している人材を求めていた。

 二人は想像以上に俺たちよりも未知に対する知識が豊富で、手を組むにはうってつけだったわけだ。


「聞いたことない? 使用者を選ぶ剣があるって話」

「それなら聞いたことありますね」

「狩人の方がお話していましたわ」


 使用者を選ぶ剣については、俺も話を聞いたことがある。


「俺が知ってるのは、世界に数えられるほどしか存在していない剣で、選ばれた者は代償を支払う代わりに強大な力を得るってことくらいだな」

「知ってるじゃない。それが魔剣よ」

「あははは、冗談だろ。そんなものないとは言い切れないけど、学園にあるわけ……あるのか?」


 俺は話している最中にイーシャの力を思い出した。

 さらに、この学園には世間に隠されたものが多くあることも察している。

 その中に魔剣も含まれるというのは、あり得ない話ではない。


「間違いなくこの学園の迷宮にあるはずよ」

「もっと言えば、迷宮の主がそれを持ってることは分かってる。なんでそう言い切れるかは追求しないでくれ」


 どうやら二人は、魔剣が学園にあるということは調べがついているらしい。

 そして、その魔剣を持っているのが迷宮の主ということも。


「だから迷宮を探索してたんだな」

「そういうことだ」

「……だとしたらまずいな」

「何がまずいんだ?」


 俺は顔を引きつらせながら、状況が深刻であることを悟る。

 そして、思わずつぶやいた言葉をロイクに拾われてしまった。


「俺たちが戦う迷宮主の強さだ。学園長が『過去には迷宮核を探して、行方不明になった人や死体になって見つかった生徒もいる』って言ってたのが気になって、調べてみたんだ」

「そんなこと言ってたわね」

「生徒だけじゃなくて教官も殺されてるんだよ。行方不明者を合わせれば十人以上はな」

「ふむ……。強さは少なくとも教官以上の魔剣使いか」


 俺は過去に攻略された同規模の迷宮の主を一通り調べ、教官が殺されているとはいえ、俺たちなら余裕をもって倒せる戦力があると踏んでいた。

 魔剣がどれほど脅威なのか分からないが、目標とする迷宮の主の討伐の危険度は想定以上の可能性がある。


「何、怖気づいてるわけ?」

「ああ、恐ろしいよ。誰一人死んでほしくないからな」

「……それは同感だわ」


 学園長もアルサラント地下迷宮は少し特別だと言っていたし、俺はそれを忘れて甘く考えていたようだ。

 いや、それを事前に確認できたのは逆に良かったか。


「それであなたはどうするの? やらないなら鍵だけ渡してちょうだい」

「俺はやるさ。でも、みんなは……イテッ」

「後ろを見てみろ、バカ。当然やる」


 俺が他の四人を止めようとした瞬間、ラフィに背中を思いっきり叩かれた。

 言われた通り振り返ると、そこには覚悟を決めた友人たちが頷いて俺を見る。


「私もやりますわ」

「任せてください」

「ぼ、僕も」

「なら、まずいことは何もないわね」

「っ……ああ。やってやろう!」


(みんな一人にしようとはしない。なら、俺にできるのは全員を生かして迷宮を攻略することだろうが!)


 それを見て、俺も覚悟が決まった。


「なんだ、てっきり戦力目的で俺たちを誘ったのかと思ったけど違ったのか?」

「戦力というよりも、迷宮の知識が欲しかったんだ。二人がどれくらい強いのか知らないし」

「なら運が良かったな。戦力は俺とイーシャで十分だ。ここにいる誰も死なせはしないさ。なんなら見学してるだけでも良いぞ」


 ロイクは今まで隠していた本性を現すかのように、自信満々に笑う。


「言うじゃねえか。お前らの実力は私が後で確かめるとして、魔剣なんて物騒なもん、なんで欲しがってるんだ?」


 それに応戦するかのようにラフィも不敵な笑みを浮かべて、魔剣の用途を尋ねる。


「それも追求しないでくれ」

「悪いことに使うつもりはないわ。というか、死にたくないし」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味よ。魔剣は使用者を選ぶって言ってるでしょ。選ばれなかった者が剣を振るえば、代償で死ぬの」

「よく分からんけど、分かった」

「二人の条件を飲むよ。俺たちに魔剣は必要ないし。報酬はそれだけでいいんだな?」

「ああ。これ以上何か言うことはないから安心してくれ」


 実物を見ないことには分からないが、そんな危険な代物は必要ない。

 これでイーシャとロイクと気兼ねなく手を組むことができる。


「もう一つ大きな問題があるんだけど、良いか?」

「まだ何かあるの?」

「重要なことだ。鍵は俺が持ってるんだけど、肝心の部屋が見つかってないんだ。何か知らないか?」


 本当はこれを相談したかったのだが、魔剣というイレギュラーに気を取られて切り出せなかった。

 手帳に部屋の在りかも書かれていそうだったが、それを読む前に燃やされてしまった。

 学園の迷宮に潜っていた二人に心当たりがないかと思って聞いてみる。

 二人は顔を見合わせ、イーシャが近づいてきた。


「炎霊晶を出してちょうだい。本当に炎霊晶が鍵なら、私が部屋の場所を見つけられる」

「また占いか?」

「例の奴?」


 ラフィもイーシャの占いには興味があるようで、間に入ってきた。

 俺は炎霊晶をイーシャに渡す。


「そんなにすごい力じゃないわよ。月詠(ツクヨミ)

『うわぁ』

「イテッ」


 イーシャの髪が宙に浮きあがり、目が蒼く光り始める。

 その光景は神秘的であり、誰かから感嘆の声が漏れる。

 俺もその光景に見とれていたが、なぜか足を蹴られて現実に引き戻された。

 しばらくするとそれも終わり、イーシャはもとに戻った。

 だが、その表情はどこか納得がいかない様子だった。


「おかしいわね」

「何か問題があったのか?」

「いえ、この鍵と縁の結びつきが強い場所は見つかったわ。でも、場所がちょっとおかしいのよ」

「それはどこなんだ?」


 イーシャは一息つくと、炎霊晶を見つめながら答えた。


「学園長室のある塔の地下よ」


クラウに幸あれ。

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