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113話 人工飛竜と人脈作り

 ゼラはどこの団体にも所属していないということなので、俺は彼をテマドに勧誘した。

 その方がこれから協力する上でも都合がよく、ゼラに何かあれば手助けする名分も付く。


「ほんでゼラもテマドに入りたいってことでええんか?」

「……はい。僕で良ければ」

「男ならもっとシャキッとしいや!」

「うわあっ」


 事情を話して自己紹介を終えたゼラは、ゾーイ先輩に背中を叩かれ、情けない声を上げて前のめりになる。


「……歓迎するよ。ほら、お菓子もあるよ」

「ひぃっ……ありがとうございます」


 クラリス先輩は顔を上げたゼラの目の前にお菓子を持って現れるが、前髪で顔の見えない彼女を見て、ゼラは軽く悲鳴を上げる。


 先輩方はゼラを入れてくれと頼むとすぐに受け入れてくれた。

 俺が入ってからというもの、厄介事に巻き込んでしまってばかりだ。


「お世話になってばかりで、すみません。ありがとうございます」

「気にしいひんでもええよ。可愛い後輩の頼みや。それにこれで来年は人数不足で困ることもないしな」

「クラリス先輩も巻き込んでしまって申し訳ないです」

「……ふふふ。いつでも頼って」

「先輩は影薄いさかい、最近は少し注目されて嬉しそうやで」


 クラリス先輩は小さく透き通った声なので、表情はもちろん、声からも感情を読み取ることができない。

 ゾーイ先輩はどうやって感情を読み取っているのか気になるところだ。

 さて、ご厚意に甘えてばかりも良くないので、後輩としてできることをやろう。


「先輩方は困ってることとかありますか?」

「ないなー」

「……特にはないかな」

「ですよね」


 どうやら、聞き方が良くなかったようだ。

 こういう時は、相手の好きなものから話題を振るのがいいだろう。


「そう言えば、お二人は何か作りたい魔道具とかあるんですか?」

「それならもちろんあるで!」

「……私は、作れるなら何でも」

「やっぱりあるんですね。ずっと魔導兵ばかり作ってるから、たまにしか作らないのかと思ってました」


 ゾーイ先輩は目を輝かせ、クラリス先輩はいつもの調子でぼそっと答える。

 テマドの活動内容は魔導兵の部品の組み立てばかりで、二人が一から何かをつくっているところは見たことがない。


「……魔導兵の組み立てはアルバイトだよ。活動資金集め」

「うちが作りたい魔道具は、お金がめっちゃかかるからな。せやから勉強もできて一石二鳥やねん」

「なるほど。今の活動も十分楽しいですし、勉強になります」


 俺も最近はその組み立て作業を手伝っていて、最初のうちはその作業を通じて魔道具の仕組みを学ぶ、というのが目的らしい。実際、得るものは多いので満足している。


「ゾーイ先輩は、何を作りたいんですか?」

「飛竜やで」

「……魔物の飛竜ですか?」

「その飛竜や」


 俺も何度か飛竜に乗ったことがある。中距離移動には便利だし、空を飛ぶ爽快感は格別だ。

 それを人の手で作るというのは、なんとも夢のある話だ。



「魔導兵の技術を応用すれば、作れんことはないと思ってるんやけどな。けど、これがまためっちゃ難しくて……」

「空飛ぶ魔導兵って、既にありますよね?」

「あるにはあるけど、軽量型やから飛べてるだけやし、人を乗せるには安全性がまるで足りひん」

「なるほど……でも、すごく面白そうです」

「……魔導兵研究はお金がかかる。でも、楽しい」

「飛竜は軍しか持てへんやろ? けど、もっとたくさんの人に空を飛ぶ楽しさを知ってほしいんや」

「……ゾイちゃんのお父さん、有名な飛竜乗り」

「いい夢ですね」


 飛竜を所有・管理できるのは、今や軍部だけだ。

 かつては民間でも扱われていた時代があったらしいが、ずさんな管理が災いし、暴走した飛竜によっていくつかの街が壊滅したという。

 その経緯から、現在は法律で民間の飛竜運用は禁止されている。


 とはいえ、飛竜そのものでなくても「空を飛ぶ手段」が広まれば、空も立派な交通路になり得るはずだ。

 もちろん、魔物が空を飛び交うこの世界で、空の道をどこまで整備できるのかは未知数だ。だが、それでも挑む価値はあるはずだ。

 話を聞く限り、先輩たちの困りごとは、研究資金の不足だろう。

 もし俺が二人に恩を返せるとすれば、研究の支援だ。

 今考えている計画を少し変更すれば、それも可能なはず。


「せっかくの機会や、見せたるわ」

「……ついに見せるんだね」


 先輩二人は不気味に笑いながら、研究室の奥の部屋へ消えていった。


「良い人たちだろ?」

「うん。悪い人ではないと思う」

「ゼラも、魔道具に興味ないならデインの件が終わったら辞めていいぞ?」

「いや……やりたいことも特にないし、魔道具もちょっと気になってたから。誘ってもらえて、良かったよ」

「そうか。じゃあ、今の状況をなんとかしないとな」

「そうだね」


 まだ教えていないが、ゼラにはこれから魔道具作りとは別に付き合ってもらうことがある。

 今の状態が落ち着いたら、俺も腰を据えて魔道具作りを行いたいし、ゼラの魔法は魔道具づくりに役立つだろう。

 そんなことを考えていると、奥の部屋から何か巨大なものを運んできた二人が姿を現した。


「……じゃーん!」

「これがうちらの構想してる、人工飛竜の模型や!」


 二人が持ってきたのは、飛竜を模った魔導兵の模型だった。


「本当に形だけやけど、実際に飛ばしてみせるで」

「……私も楽しみにしてる」


 多くの学生は中等部で卒業する中、クラリス先輩は来年、高等部に行くつもりだと話していた。

 そうなれば、関わることもあるだろうし、二人ならその目標を達成できると思う。

 もちろん、俺もできる限り協力するつもりだ。


「じゃあ、しばらくは資金集めですね」

「うちらのことは気にせんでもええ。好きなように研究するのがテマドの方針や」

「いえ、面白そうですし、ぜひ協力させてください。俺も飛竜に乗ったことがあって、多くの人が空を飛べたら素敵だなって、そう思いますから」

「……無理はしないでね」

「大丈夫です。先輩たちにお願いしたいんですけど、アルバイト先の紹介をしてもらえませんか?」



 *****



「それはそこに運んでくれ」

「は、はい! 分かりました!」

「手が空いたらこっちもお願い!」

「俺が行きます!」


 俺とゼラはテマドとは別の魔道具団体の研究室の引っ越しを手伝っている。

 先輩たちにアルバイト先を聞いたところ、知り合いの研究室が引っ越しをするのに人手が足りなくて困っているという話だった。


「この浮いてるのは君の魔法? 仕事が早くて助かるよ」

「いえ、僕なんて」


 さっそく、ゼラの魔法は役に立っている。

 魔法の腕が重い荷物を軽々と運び、ゼラ自身も荷物を持つことで、荷物を素早く移動できる。

 魔法の腕は器用さもあるので、貴重な荷物を梱包するのも一瞬だ。

 思った通り、彼以上に肉体労働に向いている魔法使いは少ない。

 俺もゼラに負けないよう手を動かした。


「ありがとう。今の時期は色んな研究室が場所を移動する時期で、人を借りられなかったから助かったよ。君たちを紹介してくれたゾーイちゃんには感謝だな」

「いえいえ。また何かありましたら、いつでも呼んでください」

「魔道具作りの手伝いなんかもできるかい?」

「教えていただければやれます」

「じゃあその時はよろしく。はい、手伝ってもらった分ね」

「確かにちょうど頂きました」

「っ! ありがとう、ございます」


 引っ越し作業の手伝いを終え、代表の人からお礼と共にお金を頂いた。

 ゼラは驚いた顔をしながらお金の入った小袋を受け取っている。


「あのー、他に困っている方を知りませんか? 研究のために資金を集めたいなと思ってまして」

「うん? そうだな。確か新年度に向けて色々買って、搬入の人手が足りないって困ってた奴が知り合いにいるけど」

「その方を紹介していただけませんか?」

「もちろん。君たちのことは話しておく。ゾーイちゃんを通じて伝えればいいかな?」

「助かります」

「資金調達が大変なのは分かるからな。助け合いだよ」


 そうして、俺とゼラは初仕事を終えた。

 だが、今日はこれで終わりではない。


「よし、ゼラ。別の仕事へ行くぞ。次は清掃だ」

「ちょっと待って! もっと余韻に浸らせてよ」

「仕事の感想はどうだった?」

「えっと……思ったよりも僕の魔法が役に立てるんだな……ってそれよりもこんなことをしてる場合じゃないでしょ? 新しい勢力をつくるんじゃ……」


 ゼラの疑問は当然だ。

 俺たちは、平穏な学生生活を取り戻すためにも、他の勢力がうかつに手出しできない存在になる必要がある。


「もちろん。そのための人脈作りだよ。信頼できる人たちから仕事をもらって、それをこなしていく」


 学園でのアルバイトは、掲示板にも載っているが、それよりも人の紹介で得ていく方が圧倒的に多い。

 最初の頃、俺たちを寮まで案内してくれたエイド先輩のように、教授からも信頼を得た生徒は学園から仕事を依頼されることもあるとのことだ。


 そして、俺はこの仕組みに目を付けている。


「手伝った人たちを味方にするってこと?」

「いや、そこまで都合よくはいかないとおもうぞ。これは、俺たちが作業を手伝い、相手が賃金を支払うっていう利害の一致によって成り立つ関係だ。無条件で俺たちの勢力に加わってくれるなんて、そんな期待はしてないし、しちゃいけない」

「……なんだか冷静すぎて、ちょっと怖いよ」

「でも、それくらい現実的じゃないと、勢力なんて作れないからな」


 構想しているビジネスを始めるために、一番重要なのが人脈だ。

 学園に来たばかりの俺と嫌がらせを受けてきたゼラにはそんなものあるわけがないので、自分たちで足を動かして構築しなければいけない。

 早く平穏を取り戻すためにも、仕事をどんどん受けて人脈の基盤となる信頼を得る。

 良い仕事ぶりなら先ほどのように仕事を紹介されやすくなるはずなので、ゼラが役に立つという訳だ。


「どうやったらそうなるのか先が見えないけど……」

「まあ、その話はいずれするとして、こうやって仕事をやっていくのも楽しいだろ?」

「……うん」

「なら、どんどん行くぞ。今日はあと二件、仕事が入ってるからな」

「いつそんなに仕事をもらったの!? もう僕、ヘトヘトなんだけど」


 俺とゼラの地道な人脈作り(営業活動)は始まったばかりだ。


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