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108話 教官と特練

 クラウたちと別れ、ラフィはリファ教官のいる訓練施設へと足を運んだ。

 訓練施設には人はおらず、貸し切り状態になっている。


「それで、何の用だ?」


 要件を尋ねるラフィに、リファ教官は涼しい顔で答える。


「私の管理する団体に入れ。私がお前を鍛える」

「は? なんであんたが?」

「教官と呼べ。私がお前を立派な軍人にしてやる。まずはその生意気な態度から叩き直すぞ」

「何言ってんだ? 私は騎士になる。軍人になる気はない」

「戦場では、弱者は強者に従うのみ。――いいか、卒業までにお前が私を打ち負かしたなら、騎士だろうが何だろうが好きにすればいい。だが、できなかった場合、お前は軍人として国のために尽くせ。あのような僻地にお前を置いておくのは、国の損失だ」

「そんなの受ける理由がない」


 一方的な条件を突き付けられたラフィは、反抗する。


「いや、お前は受けるしかない。私はこの学園の教官でありながら、軍部直属の『特務教官』だ。学園に優秀な生徒がいれば、上層部に報告する任務を受けている。私が推薦すれば、お前にどんな後ろ盾があろうと軍は必ずお前を取り囲むだろう。そうなれば、お前はあの僻地へ帰還することもできなくなる」

「脅しか?」


 リファ教官が推薦すれば、ラフィは軍の上層に目をつけられ、アブドラハに帰ることも不可能になるという内容だ。

 ラフィは真意を探るような視線をリファ教官に向ける。


「私も未来ある若者の選択肢を狭めたくて言ってるわけではない。とはいえ、上からの命令に背くわけにもいかないのでな。弱者は強者に従うこともまた軍人としての心得であり、自由にしたいならお前は強者になるしかない。卒業まで期間を与えるのは、私の慈悲だ。言わせてもらうが、軍も悪い場所ではないぞ。私のもとで育てば、お前なら特別待遇も望めるだろう」

「施しは要らない」


 ラフィは鼻を鳴らした。


「そんなもんのために強くなりたいわけじゃない。つまり、あんたをぶっ倒して言うこと聞かせりゃいいんだな?」

「そういうことだ。では、剣を構えろ」


 リファ教官は相変わらず微動だにせず、静かに言い放った。


 二人は木剣を手に取ると、じりじりと間合いを詰める。

 ラフィは中段に構え、真正面から気迫を放つ。

 一方のリファ教官は剣先を地面に向け、腰を落とした低位の構えでそれを迎え撃つ。

 お互いににらみ合いが続き、


「……いつでも来い」


 リファ教官が静かに告げた、その瞬間、


「はああっ!」


 ラフィの雄叫びとともに、蒼炎の斬撃はリファ教官を目掛けて一直線に飛んで行く。


「ほむら返し」


 だが、その炎はリファ教官の木剣に巻き取られるような形で吸われ、リファ教官はそのままラフィへ斬撃をお返しする。

 その斬撃は、先ほどの倍の速さでラフィへ近づいていく。


「ふんっ!」


 ラフィは返ってきた斬撃を斬り落とし、もう一度木剣を構え直した。


「何の魔法だ?」

「まだ魔法は使っていない。これは(オーラ)だ。お前も使えるのだろう?」

「なるほどな! 蒼炎爆迅(アズール・ブレイズ)


 ラフィは、遠距離技だと同じように返されるだけだと判断し、リファ教官へ接近する。

 常人では目でとらえるのも難しい速度と共に、(オーラ)を手に集中させたラフィの鋭い一撃は、リファ教官を吹き飛ばすと思われたものの、


「うおおっ! ぐえっ」


 地面に押しつぶされ、倒れていたのはラフィの方だった。


「次は魔法無しでやろうか? 初見殺しで勝敗がついても、納得できないだろう?」


 リファ教官はラフィの首に木剣を突き付けて、少し笑みを浮かべる。


「もう一回やる。でも、あんたが、教官が強いことは分かった。今、何をしたんだ?」


 リファ教官に近づいた瞬間、空気が異様に重くなった。

 風ではない、まるで“圧力”そのものが、見えない壁となり全身を押し返してくる感覚だ。

 次に意識した時には、ラフィは地面に伏せていた。


「知ったところで対処できないと思うが、教えてやる。気流を操作する魔法を使っただけだ」

「最初に魔法を返してきたやつは?」

「あれは風の(オーラ)。研鑽を積み重ねた者だけが辿り着ける境地だ」


 リファ教官が木剣を地面に立てると、その上空に旋風が巻き起こった。


「力と技、それぞれがいかに優れていようとも、それを一つに束ねることで、初めて真の刃となる。その点お前は未熟だ。私のもとで学ぶ覚悟はできたか?」

「それは良いけど、もう一回だ。卒業までに教官を倒さないといけないみたいだしな」


 ラフィは立ち上がり、再び木剣を握る。


「その意気だ」


 リファ教官は静かに息を吐き、木剣を下段に構えた。その動き一つで、周囲の空気が再び緊張する。

 結局二人は、気の済むまで模擬戦を続けた。



 *****



「はあ、はあ、はあ」

「今日はこの辺にしておこう。焦らずとも機会はいくらでもある」


 魔法無しでも、リファ教官に勝つことは出来なかったラフィは、仰向けになりながら息を整える。


「今からお前を私の管理する団体へ案内しよう。付いてこい」

「ああ、そんなこと言ってたな」


 ラフィは起き上がり、リファ教官の後に付いていく。


「教官とサターシャ副団長ってどんな関係なんだ?」

「……私とあの女はこの学園で出会った。当時、同世代の中で最強だと思い込んでいた私に、初めて敗北を教えた相手がサターシャだ。人に無関心だったあいつは、まともに戦おうとせず、結局勝ち逃げされてしまった。あいつがまさか弟子をとるとは思わなかったがな」

「……副団長が避けてた理由は分かる気がする。面倒くさそうだもんな」

「何だと!?」


 リファ教官は立ち止まって睨みつけるが、ラフィは素知らぬふりをする。


「特別変なことはしていないぞ。毎朝果たし状を部屋の前に置いて、通学路に立って稽古を申し込んだだけだ」

「……やっぱあんたに教えてもらうのやめようかな」

「待て、冗談だ。……若気の至りというやつだ。敗北した事実を受け入れられなかった私の弱さが、執着心につながってしまったのだと今なら分かる。そんな負い目もあり、居場所は分かっていても、あいつに会いに行く決心ができなくてな」


 ラフィには、リファ教官のその言葉が本心のように思えた。


「なら、アブドラハに会いに来いよ。副団長はそんな昔のこと気にしてないと思うけどな。……それに、教官が副団長と戦うところも見てみたいし」

「ふっ、せめてもの罪滅ぼしにと思って、お前たち四人を同じクラスにしてやったというのに、まだ過去と向き合えというのか?」

「本人と直接向き合って解決するべきだろ。わざわざクラスを同じにしてくれたことは感謝するけどな」

「歳を取ると過去と向き合うのもなかなか大変なのだがな。……まあ、考えておこう」


 リファ教官はそうつぶやくと、再び歩き始めた。


「でも、なんで戦うことになったんだ?」

「それはお前たちもこれから経験することになるだろう。時が来たらクラスの全員に話すつもりだ。その辺りは平等にしなければならないからな。気になるなら他の生徒か教官に聞くと良い」

「そうかよ」


 サターシャとリファ教官が戦うことになった理由は聞けなかったものの、少しリファ教官のことが分かったような気がして、ラフィにとってはそれで十分だった。



 *****



「ここが今日からお前の所属する特練軍育団体、通称“トクレン”だ」


 リファ教官に連れられて着いた施設では、すでに数十名の生徒が訓練に励んでいた。

 誰に指示されるでもなく、素振りや魔力制御の訓練に打ち込む姿は、まさに精鋭の集まりだと感じさせる。


「リファ教官、お疲れ様です!」

『お疲れ様です!』

「本日もご指導のほど、よろしくお願いいたします!」


 生徒たちは訓練を止め、整然と一斉に敬礼した。リファ教官は軽く頷いて応じる。


「おい、本当に軍隊じゃねえか」

「生徒たちが自主的にやっていることだ。私の指示ではない」

「……あれ、私もやるのか」

「言っただろう。生意気な態度を叩きなおすと」

「チッ」


 リファ教官とラフィがそんな話をしているとは知らず、坊主頭の男児が近づいてきた。


「リファ教官、新しくトクレンに所属したいという生徒十五名をご紹介したいのですが、お時間のほどよろしいでしょうか!」

「構わん」

「中等部一年、集合!」


 男児が声をかけると、生徒たちがリファ教官のもとにぞろぞろとそろい始める。


「あんたは編入試験の!?」

「お前は!?」


 列に並ぶ生徒の中には、編入試験で喧嘩をしながらゴーレムや魔導兵を共に倒した、女子生徒の姿があった。

 思わぬ再会にラフィも女子生徒も一瞬、目を見開く。


「ふっ……良い面構えの奴らばかりだな。全員、私が立派な軍人に仕上げてやる。逃げ出すなら今のうちだぞ」

「……抜ける」

「お前は駄目だ」


 ラフィは即答で離脱宣言をするが、リファ教官はぴしゃりと一言で拒否する。

 逃げることは出来ず、ラフィはトクレンに正式に所属することになった。


新たな師弟関係?

少しずつですが時間が作れるようになってきたので、今後は投稿頻度も上げたいところ。


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