11話 問題発生とカリムの思惑
「クラウ大変だよ!」
それから数日くらい経過した日、問題が発生した。
それは開店準備をしようと屋台へ向かった時だった。
通りからひらけた場所に行く曲がり角から、アミルが慌てた様子で走ってきた。
「落ち着けよ、どうした?」
「こっち来て、見てよ」
屋台のある場所を見に行くと、そこにはボロボロになったテントや散乱した小道具と一緒にたくさんの看板が立てられていた。看板の文字を読むと、
『危険!氷は食べるとお腹を壊す猛毒だ』
そう書かれていた。
氷だぞ?食べ過ぎれば腹を壊すことはあるかもしれないが、毒なわけがない。
「こんなのひどい言い草だ。適当なこと書きやがって」
普段、温厚なアミルが拳を握りしめて怒っている。
「嘘、こんなひどいです」
「誰がこんなことを」
「チッ」
そこへ今日当番のシータとカイが働きに、二人を送りにラフィが来た。
「一先ず、みんな怪我がなくて良かった。働きに来てくれた二人とアミルには申し訳ないけど、今日はちょっと働いてもらうことができないかもしれない。ちゃんと今日の分の給料は払うから安心してくれ。アミルにも迷惑かけた分は弁償する」
「いやいや、そんなの別にいいよ。それよりも早く片付けよう」
「そうですね。早く片付けちゃいましょう」
そう言うとアミル、シータ、カイは散乱した道具や立てられた看板の撤去を始めた。
俺はすぐに動けず、その場で静かに立ち尽くしていた。
「おい、大丈夫か?」
「……ああ、ごめん。大丈夫だよ」
その場に残った俺のもとにラフィがやってきた。
「昨日帰りにこっちの後をつけてくる奴が二人いた。雑魚だったから倒して衛兵に渡したが、一応伝えておく。こっちのことは気にすんな」
そう言うと、ラフィも屋台の片付けを手伝いに行った。
想定済みではあったが、本当にこういうことに慣れてなさ過ぎて呆然としてしまった。
俺がしっかりしないとだめだよな。
頬を思いっきり叩き、少し遅れて片付けに加わった。
みんな無事でよかったな。
ああ、このテント借り物だけど気に入ってたんだよな。
この食器はもう壊れて使えそうにないな。
嫌がらせってこんな感じなんだ。
散らかされた商売道具を片付けている中、色んな思いが溢れてきてこれが現実なんだと少しずつ実感が湧いてきた。
それと同時に、自分の中で暗い感情が溢れ出してくる。
自分の楽観さや愚かさが憎いし、これをやった奴らも許せない。
誰がこれをやったのかはわかっている。
俺にここまで恨みを持ってるやつと言ったらカリム、あのデブしかいない。
今頃ブヒブヒ下品な笑みを浮かべているに違いない。
だが、すでにお前を潰す計画はできている。
あとは機会が来るのを待つだけだ。
そっちがその気なら良いだろう。この借り100倍で返してやるよ!
―――カリム視点―――
グヒヒヒヒ
今頃、あの生意気なガキは泣いて後悔してるに違いない。
このカリム様に喧嘩を売るからこうなるんだよ。
俺様はアブドラハ一の大商会、ザヒール商会の御曹司だぞ。
相手が魔法使いだろうがローゼン家だろうが、俺様に敵うわけがねぇ。
俺様は人が嫌がることが好きだ。
うちの商会の商人の息子の弱みを握っては配下に加え、気づけば周りは俺様を恐れてひれ伏すようになった。
ひれ伏すときの悔しそうな表情、それを見るたびに俺は天から選ばれた存在だと感じる。
当り前だろ? 俺様は将来このアブドラハを牛耳るために生まれたんだからな。
そうやって配下を加え続けていたら、気づけばアブドラハの裏組織の奴らも俺の言うことに従うようになった。
結局、俺様みたいにカリスマ性がある奴に人は付いてくるんだ。
あの日もいつもと同じように、街の奴にどんな嫌がらせをしてやろうかと屋台通りを手下どもと歩き回っていた。
そうしたら、必死に店主に頼み込んで変な根っこを買おうとしているガキを見つけた。あまりに必死な様子に店主も折れたのか、変な根っこをそのガキに譲った。
それを受け取った後のガキの嬉しそうな顔と言ったらもう……。
俺様はそのガキの後を追い、人通りが少なくなったところで腕をつかみ、路地裏へ連れ込んだ。
そうして、そのガキから手に持っているものを奪い取ろうとした時、奴が現れた。
奴は氷魔法を使い、油断していた俺様と配下を凍らせようとしてきやがった。
クラウ・ローゼン。名前を思い出すだけでイラつくぜ。
何故かその件を父上が知っていて、口を出してきやがった。そして、罰として俺様を7日間も部屋に監禁しやがった。
普段は俺様のことを見てもいない癖に何だってんだよ。
それ以来、クラウ・ローゼンが悔しがって俺様の前に跪くよう、徹底的に潰す計画を立てた。
情報を集めるうちに、どうやらかき氷とかいう屋台を始めたという話が耳に入った。氷を食べ物として売るとか馬鹿だろ。
そう考えていたが、そのかき氷とやらはすごい勢いで売れているという話だった。この街の住人はどうやら舌も馬鹿らしい。
その中でも、何かいい話がないかと探っていたところ、かき氷を食べた後、お腹を壊したという話が俺様の耳に入った。
これであいつの商売は終わりだな。
この話を広めれば、たちまちかき氷なんてもんを誰も買わなくなるはずだ。
だが、それだけでは俺様のこの気持ちは収まらない。
あの時は油断していたから負けただけで、魔法が使えることさえ分かっていれば、負けるわけがねぇ。
つながりのある裏組織の奴とコンタクトを取り、力に自慢のある奴らをできるだけ集めるよう命令した。
機は熟した。
すべての準備が整った俺様は、まず、屋台の破壊とそこで働く従業員への脅し、例の噂を広げるよう配下へ指示を送った。
クラウ・ローゼン。お前の顔が歪むのが楽しみだぜ。