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104話 平民クラスと入寮

 試験を受けてから、7日ほどで俺たちの泊っている宿に全員の合格通知書が届き、晴れて全員が学園に入学することが決まった。


「受かって良かった! 自分は皆さんみたいに敵の討伐では貢献できなかったので、不安でした」

「俺もあの二人ほど倒したわけじゃないから、グループへの貢献度みたいなところかな」


 あの二人、ラフィとレオノーラは別々の試験会場で大暴れしたらしい。

 ラフィは、別の受験生に喧嘩を売られて、それを買った結果、ほとんどの敵をその受験生と倒したと言っていた。

 レオノーラは、新しい魔法でゴーレムや魔導兵の動力源である魔素を吸い取って、行動不能にしたそうだ。

 火力や阻害といった意味では、右に出る者はいない二人なので、驚きはしないが、絶対に戦いたくない。


 一方でリオネルは、守りに優れているが、攻撃力ではどうしても他より劣ってしまう部分がある。魔導刃を使って敵を攻撃していたらしいが、あの武器では二人よりも火力が出なくて当然だ。

 リオネルのグループにカリスマ性のある人物がいて、途中からその人物の指揮下に入り、味方の守りに専念することで、倉庫まで楽にたどり着くことが出来たという話だ。

 エリオットみたいな人物がリオネルの方にいたのだろう。


 そんなわけで、昨日は合格祝いとしてシルヴァさんとミャリアさんに中央の高級レストランへ連れて行ってもらった。

 そして、今日は学園への入学の日であり、アブドラハへ帰還する二人を見送る日だ。


「みんな、元気で頑張るニャ。帰ってきた時の成長を楽しみにしてるニャ!」

「どうか御体には気を付けてください」

「今までありがとうございました」


 合否を待つ間にお別れを言う時間は十分にあった。

 アブドラハへのお土産やみんなへの手紙も頼み、笑顔で別れることができた。

 別れを済ませた俺たちは、学園のある魔法区へ移動する。



 *****



 俺たちが学園に着くと新入生が30人ほど集まっている教室に案内された。

 四人で雑談をしながら待っていると、俺のグループの試験官だった女性が教室に現れた。


「新入生諸君、ようこそアフサール王国軍部魔法学園へ。私はお前たち平民クラスを担当するリファ・ヴァルデインだ。私を呼ぶときは『教官』としろ。ここに集った以上、生ぬるい覚悟で門を潜った者はいないはずだ。だが、人はいつか必ず死ぬ。その時に悔いを残さぬよう、己の目的のために貪欲に学べ。必要があれば、私もお前たちが目的を果たすための一助となろう」


 リファ教官はキリッとした目つきをしており、どこか人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。

 サターシャと似ている部分があり、どこか親近感のようなものを感じるが、気安く話しかけることは出来なさそうだ。


(それにしても『平民クラス』か。クラスも身分ごとに分けているというのは、変な気を遣わなくても良さそうだ)


 教室を見渡しても試験で見かけた者はほとんどいない。

 俺たちは編入という形で中等部からこの学園に入学した訳だが、多くは初等部からこの学園にいる生徒のはずなので、それは当然かもしれない。

 ただ、予想であれば合格しているはずのエリオットも探してみたが見つからない。

 人数もこのクラスだけだとしたら少なすぎるし、平民クラスは他にもあると思って間違いないだろう。

 それにも関わらず、俺たち四人が一緒のクラスなのは偶然か、必然か。


「先にこの学園のことを知らない者もいると思うので少し話そう。お前たち中等部の生徒は、三年間を通じて自らの生き方を形成していくことになる。一年目はこのクラスを中心に共通科目を受け、基礎知識を身に着けてもらう。とはいえ、座学だけではなく、鍛錬、軍事行動、実戦も含めて幅広く学ぶことになる。一年を一期と二期に分け、それぞれ期末には試験が行われる。近年は減ったが、死傷者も出る危険な試験だ。成績が悪ければ、退学もあり得ることはゆめゆめ忘れぬように」


 一年目はこのクラスで学んでいくことになるらしい。

 二期制であることも事前に調べていた情報通りだ。

 期末試験も編入試験と同じように、学力試験と危険な戦闘試験に分かれているということだろう。


「二年目以降は、一年で学んだものから自身が興味を持った分野への専門性を高めていくフェーズになる。当然、希望が通るか通らないかも一年目の成績に左右される。自身がどの分野の専門性を高めるか決めるために、課外活動にも積極的に取り組むように」


 一年目は興味がある分野を見つける期間でもあるということか。

 課外活動は気になるが、前世で言うところの部活動みたいなのがあるのだろうか?


「最後にこれだけ伝えておく。もちろん、お前たちの家庭も入学費を払っているだろうが、それは学園運営において取るに足らぬ額だ。この学園は、国からの投資を受けて設立された。お前たちの教育に必要な設備や資金は、民が汗水流して働き、納めた税で賄われている。三年間を通じて、それに見合うだけの力を身につけろ。この学園に通う以上、国のさらなる発展に寄与する人材へ成長する義務がお前たちにはあるのだ」


 リファ教官の言葉には誤解を生む部分がある。

 マルハバ商会の商会長であるバルドさんに聞いた話だが、学園の実情としては、軍部からの出資がメインであり、軍部の資金は税だけではない。そのため、『国の投資』と一括りにするのは正確ではない。

 また、学園は国以外にも有力貴族や一部の大商会からの出資を受けている。その見返りとして、学園で開発された魔道具や技術は、出資者たちに優先的に供給されるそうだ。


 そうとは知らない生徒たちは、リファ教官の脅しに息を飲み、教室は重い空気に包まれる。

 ただ、民の税を使っているのは事実であり、『学園に通う以上、お前たちは客ではなく、国のために貢献する人材に成長しなければならない』というのは、俺も同意見だ。

 この国全体というのは、俺の手には大きすぎるが、まずは自分のできる範囲でアブドラハを発展させたいという気持ちは、故郷を離れてから高まり続けている。

 リファ教官は、生徒の認識を改めさせるために、あえて話を盛ったといったところか。


「私からの話は以上だ。これより学園の寮へ案内があるだろう。今日は案内に従い、少しでも学園での生活に慣れるように。それからの説明はまた明日にしよう。明日の入学式には参加したい者だけすれば良い。では、また」


 それだけ言い残して、リファ教官は教室から去っていった。

 話を聞く限り、入学式は強制ではないらしい。

 軍属の学園ということで、式典は厳格かと思っていたが、そうでもないようだ。

 式典には軍服を着なければならないので、正直ちょっと面倒くさい。……不参加もアリか。


「ずいぶん硬いお方ですわね」

「上手くやっていけるか心配になりました」

「別にフツーだろ」

「俺もなんか親しみを感じたな」


 俺たちはリファ教官についての感想を言い合う。

 他の生徒たちも隣同士で話し合い、すでに繋がりがあるらしい生徒はそこでグループをつくっている。

 こういう経験は初めてだが、前世の記憶からどこか懐かしくも感じる。


「寮ってどんなところでしょうか?」

「一人一部屋って聞いたけど」

「それは本当ですの!?」

「ああ。サターシャがそう言ってた」


 中央に伝手のない俺たちは寮生活になる。

 少なくとも三年間はこの中央で生活することになるため、寮の設備は気になるところだ。


「副団長がこの学園の生徒だった頃って20年くらい前になるんじゃねえか?」

「……多分」

「それなら今も一人一部屋の可能性は高いですわね」


 試験で出てきた魔導刃や魔導兵といったものがあるなら教えてくれたはずだし、サターシャの学生時代とは学園の様子もかなり変わっていると考えていいだろう。


「失礼する!」


 そんな寮の話をしていたところで、威勢の良い声と共に俺たちより少し年上くらいの青年が教室に入ってきた。


「中には俺のことを知っている者もいるかもしれないが、俺は中等部三年のエイドだ。学生寮の案内役を任されてる。困ったことがあったら、気軽に声かけてくれ!」


 中等部三年ということは、俺たちの先輩にあたる人物だ。

 エイド先輩はリオネル並みに体つきが良く、相当な鍛錬を積んでいることがうかがえる。


「さっそく三年間暮らすことになる寮に案内するぞ! 今日は寮の利用者だけが集まってるはずだから、全員でいいんだよな? 色々と教えてやるから全員俺に付いてこい。学園は広すぎて迷子になる学生は多いからな」


 なるほど。寮の利用者だけがここに集められたということらしい。

 クラスにはもう少し人が増える可能性もあるってことだ。


「学園に訓練場はたくさんあるが、用途はどれも違うんだ。あの建物は剣を扱うための訓練場で、あそこは魔法を使うための訓練場だ。講義でも利用するだろうし、放課後に利用する学生は多い。俺も良く利用してるから、遠慮なく話しかけるんだぞ! 使っていくうちに場所は覚えるはずだ!」


 エイド先輩は目に見える建物を指さして、どんなものなのか詳しく教えてくれる。


「エイド先輩は何を学んでいるんですか?」


 移動中、誰かがそんな質問をする。


「俺は卒業後に軍に入る予定だからな。そのために今は戦術を学んでいるところだ。学園の卒業生は皆、少尉に任官される。分不相応だと思われないよう、今から学ぶべきことは多い。俺の同期には、騎士団に声をかけられて、そこに入隊する予定の奴もいるし、貴族に目をかけてもらえて、その貴族に仕えるって奴もいるな」

「それなのに、なんで学生の案内をしてるんですか?」

「これはアルバイトだな。魔法区は魔法使いしか入れないから、学園内でも働き口が結構あるんだ。学園の外で魔道具職人をやってる奴もいるし、働くのは自由だぞ」


(なるほど。学園でも働き口はあるのか。アルバイトも自由にできるみたいだし、金策も自由に出来そうだ)


 ここはこの国の中央であり、魔法区には多くの魔法使いが暮らしている。

 だが、非魔法使いが魔法区に立ち入れない決まりがあるため、学園や街中の仕事は魔法使いに限定され、求人の数も自然と多くなるというわけだ。


「よし、ここが一年専用の寮だ。こっちの建物が男子寮、こっちが女子寮で、入り口は完全に分かれてるから間違えるなよ? あと、夜間の寮の行き来は禁止だ。見回りもしてるからバレると面倒だぞ。門限を破ったら一日飯抜きになるから、絶対に破らないようにな」


 寮の前に立ち止まり、エイド先輩は指で建物を指し示した。

 男子寮も女子寮も、外観はほとんど同じで、石造りの4階建てだ。

 少し古びているが、手入れは行き届いており、その大きさは一つの校舎くらいはある。


「寮の中には風呂もあるし、食堂もある。平日の朝と晩は食事が出るが、昼は学食を使うことになるな。すでに部屋割りは決まってるから、管理人さんに挨拶して、自分の部屋を教えてもらうように。他のクラスの奴らもこれから連れてくるから、それまでに自分の部屋は確認しておくんだぞ」


 エイド先輩はそう言うと、来た道を戻って行ってしまった。

 俺たちは自分の部屋を確認するため、男女それぞれの寮に入った。


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