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102話 戦闘試験Ⅰ

 支給される魔道具は、大きく二種類に分けられる。

 一つ目は、『魔導刃(まどうじん)』という武器だ。

 武器の種類は短剣、長剣、槍の三つで、それぞれが移動式の棚に整然と並べられている。


「このように魔導刃は、魔素を注ぐことで刃を生成する。長さも強度も注ぐ魔素で調整可能だ」


 女性の試験官が長剣型の魔導刃を起動すると、光の刃が展開された。


「ただし、この刃は鋭さこそあるものの耐久度はそこまで高くない。注いだ魔素にもよるが、魔物を斬る場合、数体斬れたら十分といったところだ。血を拭う必要がないのは利点だが、新たに魔素を注ぎ、刃を補充する必要がある。扱いには気を付けることだ」


(魔導刃……すごい魔道具だけど、恐ろしいな。どういった仕組みで作られているんだろうか?)


 魔法使いなら誰でも刃を生み出す魔法を扱えるようなものだ。

 俺はこれを知ることができただけでもこの学園に来た意味があったと内心興奮する。

 街を歩く土人形もそうだが、知りたいことが多すぎる。


 そんな俺の内心を他所に、試験官は二つ目の魔道具を手にする。

 それは、『魔装(まそう)』という防具らしいが、見た目は手のひら半分くらいに収まるただのキューブだ。

 ペンダントのように首に掛けられるようになっていて、試験官もそれを首につける。


「魔装、起動。これも魔導刃と同じように魔素を注ぐことで、所有者の体に合わせた鎧を生み出す魔道具だ。ほのかに発光しているのが分かるだろう?」


 試験官の言う通り、よく見ると薄青色の膜が試験官の体を覆っている。

 強度や動きやすさも一度確認してみたいが、かなり使い勝手が良さそうだ。

 リオネルは今頃、自分のアイデンティティを失いそうで焦っていそうだな。


「魔導刃の数倍魔素を消費する上、隠密行動にも向かない。うざったらしいことこの上ないが、これの元がそうなっているため、現状の技術ではどうにもならんらしい。……失礼、話が逸れたな。この魔装は耐久力も高く、張替も可能だが、魔素量のバケモンでもない限り、二度が限界だろう。どこまで通されたかは知らんが、魔素量が『朱』または『紫』と測定された者は特に気を付ける必要がある」


 話を聞く限り、リオネルの魔法の方が魔素の消費量に関しては優秀そうだ。

 とはいえ、誰でも扱える点では魔導刃も魔装もすごいとしか言えない。


「魔道具以外だと、盾も人数分用意してある。こちらから支給する物は以上だ。それと、この試験で負傷者が現れることは想定済みだ。無理だと判断したら降参を宣言せよ。状況に応じて、降参を選ぶことも審査の一つになる。ただし、こちらもすぐに介入できない可能性もあるため、迅速に判断するように。何か質問はあるか? 試験終了まで今後一切、質問は受け付けない。確認したいことがあるなら今のうちだぞ」

「はい。一つよろしいでしょうか?」


 エリオットが質問をするために手を挙げる。

 どうやらショックからは立ち直ったようだ。


「なんだ? 言ってみろ」

「降参した場合、もう一度参戦することは不可能ということでよろしいでしょうか?」

「無論だ。戦場における降参とは、敵に服従するという意思表示だ。お前の意志が完全に敵に渡ることになる。その後、再び戦いに挑むことは許されない」

「なるほど、ありがとうございます」


 基本的に降参は大きな減点になりそうだ。

 そこから挽回のチャンスも与えられないとなると、降参する前に十分なアピールをする必要があるといったところか。


「他に質問はないようだな。戦闘試験は今から10分後に開始する。それまでに各自準備を済ませるように」


 試験官はそういうと受験者を置き去りにして、どこかへ行ってしまった。

 受験者たちは我先にと魔道具へ飛びつき、何を使うか選んでいる。

 俺は懐中時計を確認しながらその様子を見守る。


「お前、武器は一人一つだろ! なんで二つも持っていくんだ!」

「俺は二刀流なんだ! 試験官も各自の判断って言ってただろ」


 この様子だと一人で複数の魔道具を扱おうとする者も出てきそうだ。


「フッ、醜い奴らだ」

「エリオットは行かないのか?」


 一人つぶやくエリオットに声をかける。

 一応敬語で話していたが、面倒くさいのでやめる。


「うん? いきなり慣れ慣れしい奴だな。お前こそ行かないのか?」

「魔導刃はもともと要らないし、魔装は一人一つで十分だから残るだろ」


 魔導刃は普通の剣よりも軽そうで使い勝手も良さそうだ。

 剣を扱う者にとっては一考の余地もありそうだが、俺は扱えない。

 それに使い勝手では氷魔法の方が圧倒的に優秀だ。

 念のための短剣型魔導刃と防御用の魔装は試してみて、使えそうなら持っていくつもりだ。


「その通りだな。私には指弾魔法がある。もとから武器など不要なのさ」


 武器の棚から受験者が離れるのを待ち、残った武器を試してみるのだった。



 *****



『緊急事態発生。市街地に魔物の群れが出現しました。戦闘部隊は直ちに市街地へ急行してください。繰り返します……』


 広場全体に警告音声と共にサイレンが鳴り響く。

 それと同時に少し離れた場所に見えるゴーレムや魔導兵たちが動き始め、家を破壊し始めた。


「これって……」

「試験開始だ!」


 試験官が言っていた通り、ちょうど10分で戦闘試験の合図が始まる。

 思った展開と違い戸惑う者、すぐに気づき行動する者、その反応は様々だ。


「氷甲虫」


 懐中時計で時間を測っていた俺はすぐに氷甲虫に乗り、誰よりも早く敵へと近づく。


空弾(エア・バレット)


 その後ろをエリオットが魔法で生み出した緑色の弾を踏みつけ、跳躍して近づいて来る。


「氷弾」

魔弾(バースト・バレット)


 現場に到着した俺とエリオットの魔法がそれぞれゴーレムの体にぶつかり、ゴーレムは崩れ落ちて土くれに変わった。


「平民だと侮っていたが、クラウ、貴様はなかなかやるようだな」

「そっちこそ、口だけじゃないみたいで安心したよ」

「ふっ、言うではないか。だが、この試験、受かるのはこの私だ! 魔弾(バースト・バレット)


 エリオットの魔法は指先から特殊な弾を放出するようだ。

 黒色の弾は魔導兵に高速で飛んで行き、ぶつかった瞬間に魔導兵の装甲がはじけ飛び、機能を停止する。

 溜めは必要そうだが、威力はかなり高く、まともに当たったらひとたまりもないだろう。


 この戦闘試験は自由度が高すぎる。

 採点基準が分からないが、緊急事態のシミュレーションであることは大きなヒントだろう。

 ただ、市街地に民間人は存在しておらず、救出や避難誘導といった民間人の安全確保は想定しなくて良いらしい。

 そうなると一番に求められるのは魔物を討伐する戦闘能力、次に判断力になる。

 とにかく暴れる魔物を制圧していくことが、戦闘能力のアピールになりそうだ。


「氷弾、氷弾」

魔弾(バースト・バレット)

「一番多く倒してやる」

「どけ! 俺が一番だ」


 俺とエリオットが魔物を次々に倒していると、遅れてやってきた受験者が、魔物の群れに飛び込んでいく。


「チッ、これでは受験者を巻き込んでしまう。連携が取れない味方ほど鬱陶しいものはないな」


 エリオットが言うように、今は魔物と受験者の混戦状態だ。

 俺とエリオットの魔法では、味方を巻き込んでしまう可能性があり、魔法を撃つことができない。


火炎球(ファイアーボール)

「危ない! 氷弾」


 一人の受験生が炎の球を受験者も大勢いる場所に向かって放とうとする。

 それに気付いた俺は、慌てて氷をぶつけることでそれを止める。


「何するんだ、邪魔するなよ!」

「頭を冷やせ! 焦る気持ちは分かるけど、味方まで攻撃してどうするんだ! よく考えろ、これは軍人になるための試験だぞ? 自分の功績のために味方を裏切る奴を合格にしようと思うか?」

「っ!? ……それは」


 俺たちがこんなことをやっている間も、混戦状態は続いていく。

 なるほど。こういう人の心理を利用した試験でもあるわけか。

 救うべき人もいない分、功績をあげることを優先しようとして、味方に攻撃が当たってもお構いなしといった雰囲気だ。


「うわっ」

「お前、今、僕を狙ったな?」


 叫び声が飛び交い、魔法の閃光が交錯する中、地面に倒れる受験者も出始めていた。

 それに、ゴーレムと魔導兵の数は減っていくどころか、徐々に増えている気がする。

 頭に血が上った受験者はそれにも気づかず、ただひたすらに目の前の敵を倒そうとしている。


(どうする? 敵は倒れた人を狙っていないし、そこの救出は一旦置いておこう。まずはみんなの説得だ)


「エリオット、今の状況がやばいことは分かってるな?」

「当然だろう。敵はどこからか湧いてきている。そこを押さえない限りは、こちらが削られていくだけだ!」

「みんなに協力を呼び掛ける! 俺の魔法をお前の最大の魔法で砕いてくれ」

「は?」

「大氷壁!!」


 俺は呆けた顔をしているエリオットに呼びかけると、戦場に大きな氷の壁を生みだす。


「なんだ!?」

「この氷は一体?」


 突然現れた氷の壁を見て、一部の受験者は注意を向ける。


「今だ! 派手に吹き飛ばしてくれ」

「ッ!? 分かった。はあああああああ!!」


 エリオットの指から現れた黒色の弾が徐々に膨らんでいく。


「どうなっても知らんぞ。崩魔弾(クラッシュ・バレット)!!」


 発射された魔法の弾は、氷の壁を崩壊させ、吹き飛ばす。

 辺り一面に粉々に砕けた氷の結晶は受験生に降り注ぎ、頭を強制的に冷やしていく。


「みんな、戦いながら聞いて欲しい! 敵の数は一向に減らないどころか、増えている!俺たちは今、敵の湧き出る場所を特定して、そこを抑える必要がある! このままだと俺たちは全員、敵に飲み込まれて降参せざるを得なくなるぞ!」 


 俺は氷甲虫に乗り、目に見える敵を倒しながら、協力を呼び掛ける。


「でも、こんな状況でどうしたらいいんだ?」


 俺の声を聞いた受験者も冷静になり、敵が増えていることに気づいたのか、俺にどうするべきか尋ねてくる。


「すぐに近くの奴と連携を取るんだ! 全体で連携を取ってる時間はない。前衛と後衛、自分の得意とする戦い方を共有すれば、戦い方も分かってくるはずだ。自分の得意を発揮するんだ!」

「分かった!」


 一部の受験者たちは、周囲の者と情報を共有し合い、次第に連携を取り始める。

 前衛と後衛に役割を分ける者、互いの背中を預けて戦う者、即席のチームを組んでバランスよく立ち回る者、さまざまな戦術が自然と生まれ、複数のグループが形成されていった。

 最初は「指示に従わない者」や「仲間を疑う者」もいたが、周囲が協力し始めることで彼らも次第に巻き込まれ、いつしか戦場全体が統制の取れた動きへと変わっていく。


 想定通り、受験者同士の連携意識が高まったことで、無駄な衝突や誤爆が大幅に減少。時間が経つにつれ、それぞれのグループも効率的な戦い方を確立し始め、敵を押し返す余裕すら生まれてきた。

 俺は上空から戦況を見渡しつつ、氷弾を放って魔物の数を減らしていく。そして、ある異変に気づいた。


「敵が溢れてくる建物を発見したぞ! あそこの赤い倉庫だ!」


 受験者たちに向かって声を張り上げると、すぐさま数人が反応する。


「おっしゃ! あの倉庫を制圧すればいいんだな!」

「油断するな、慎重に行くぞ!」


 明確な目標ができたことで、受験者たちの士気も一気に上がる。ようやく戦いの終わりが見えてきたかと思ったその時、


『警告、市街地に新たな魔物群が出現。戦況の変化に対応せよ』


 警告音とサイレンがけたたましく鳴り響く。


(おいおい、嘘だろ)


 戦場を見下ろしていた俺の目に映ったのは、ゆっくりと開いていく倉庫の屋根。

 そして、その隙間から次々と飛び出してくる大量の飛行型魔導兵の姿であった。


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