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その3

 お手に取ってくださり、また、ページを開いてくださり、ありがとうございます。

5.

 ……先のこのちょっぴり格好良い時間は、2分として持たずに打ち砕かれてしまった。もはや綺麗な時間は無かったと言っても過言ではない。明るい未来の暗示とは一体何だったのか。少し格好いいことを思い浮かべるだけでここまで裏目となるものなのか。

 毎度のようにきっかけは至極分かり易い。撒いたと思しきセッケン少尉らに追っつかれかけている為である。景色が綺麗だなと話す矢先、矢部と最中が「徐々に近づく装甲車の一団が!」という意の言葉を発したかと思えば、次第に加速し始め今や目と鼻の先という勢いまで迫っている。

 橋を越えた辺りでは、左側に並走する車両まで現れ始めた。その車両上部には、上半身を前のめりにした、私達を狙う筆頭ロボットたるセッケン少尉の姿があった。


「そこの反乱因子達!今すぐに止まるであります!」

「うわっ、ロボット来てるって三っちゃん!もっと速く!」

「加速しているとも!ただ、カーナビ曰くもうじき右左折を要求される故にそこまでスピードを出せないのだ!」


 揺れる車体、左から迫るロボット、多数の右左折、後方から迫るロボット、黄色信号、全ての事態が私達を襲う。

 真隣では道名と倉持の、後部座席方面では矢部と最中の、戦闘的肉声が嫌でも耳に入りこんでくる。


「離れろ!」

「三っちゃんの邪魔はさせないぞロボット共!」

「”接近のセッケン”の二つ名を持つ自分に格闘で挑むとは、とんだ愚か者であります!」


「矢部さん!何か投げる物はありませんか?あなたの位置からなら効果的な妨害が可能な筈です!」

「それならば拙者に任せたまえ!忍者の夢を背負いしまきびしを放つでござる!」

「まさか小道具まで持ち歩いているとは思いませんでしたよ!」


 各々の競り合いにより、運転の責任が最大級に重大になり始めた。

 今現在救いになる事と言えば、あと4分で運転が終了する程には目的地に近づいてきているということくらいか。この十字路型大通りを左折すればすぐそこだ。左側面の車両が甚だ邪魔であるが、ここは意地でも左折を成功させねば。左折で挫折などと濁った事態を起こしてはならないのだ。

 内輪差を考えると少し加速しながらも離れ、前後左右を瞬時によく見て左折せねばとハンドルを切り終えたその時、ドゲラグドゴシャン!!と特大の衝突音が耳をつんざき空気を震わせる。同時に誰かの悲鳴も聞こえた気もする。

 何事か⁉突撃を食らったのか⁉それとも破損⁉皆は生きているか⁉……現在進行形で車体が動くということは、こちらは無傷ということか?

 ともかく皆の確認が先決か、


「皆、生きているか?そうと答えてくれ」

「もちろんですよ佐藤さん」

「いやぁ、凄いぜ三っちゃん。運転であいつらを止めたんだからな」


 どういうことだ⁉私は皆に被害を与えたのでは?車体も内側に抉れているのでは?窓だって粉々だろう?


「……止めた?とは?」

「ミラーをよく見るでござるよ」


 矢部に促され鏡越しの後方確認を取ると、何事であったのか即座に理解した。

 セッケン少尉の乗る車両が、信号機に激突し停止していたのだ。更にそれに巻き込まれる形で、複数の車両も転倒している。

 ……なるほど、奴は左側に密着し過ぎていたために、左折の際に歩道側ひいては信号機に直撃するしかなかったということか。指令役であろうセッケン少尉も、道名との窓越し格闘に夢中であったがゆえに、気が付かずこの事故激突を……。注意散漫は恐ろしい……、ではなく、皆が無事で何よりであった。

 私の安堵の吐息に応えるように、カーナビは目的地の周辺である事を伝える。目的地はテレビ局であったか。確かにアンテナの目立つそこそこの規模感の建築物が見えてきた。

 そしてそれと同時に目に入るのは、ロボットの一団と装甲車によるバリケード……、そういえば倉持は、テレビ局がロボットの本拠地だと言っていた。本拠地とあらばこれだけの防衛布陣も違和感はないものであるのか。しかしその事態よりも疑問が拭えぬ事柄もある。入口に相当する個所がまるで見当たらないのだ。まさかバリケードに突っ込めと言うまいな、いやここまでの出来事の連続と、偶然のドライビング撃退により、突撃を求める流れが形成されていても……。


「よし、佐藤君、あのバリケードに突撃してくれないか」

 

 倉持はこれが当然と言わんばかりに、私に異常な要求をしてみせる。予期予想予測は出来ていた。なお私の友人達も、「佐藤以外の人間には不可能な事柄」として疑問も無く受け入れていた。勘弁してくれないか。

 

「本気か倉持さん!」

「本気だ。奴らの首領を跳ね飛ばすには、あれを正面突破するほかないのだ」

「危険ではなかろうか倉持さん!」

「この車体はそれなりに頑丈なため、こちら側の被害は少ないはず。本来は私がやるべき事だが、脛の痛みがまだ引なくてな……」

「それくらい我慢してくれ!」

 

 確かに車体に乗り込んだ際には私が運転せざるを得ず、またこんな危険地帯運転中でのドライバーチェンジなど愚の骨頂でもあるゆえ、もう私には突撃行為の主体になる道しか残されていない。

 最終確認としてミラーを覗く。友人達は皆車内に戻った。大きく息を吸え!


「皆身を固めたまえよ!南無三っ!」


 私は意を決しアクセルペダルを強く踏み、鉄塊弾丸としてバリケードに突っ込む。無論私なりの抵抗的安全策も欠かさない。といっても、装甲車やらへの正面党衝突を避け、車両連続帯の隙間を突っ切るようにする以外には考えられなかった。

 金属同士がぶつかり合う音が連続し、障害物のせいで視界も悪い。自分含め誰の声もかき消されてしまう。しかし停止も失敗も辿る先は絶望であるゆえ、止まることもできない。ただただ走行を続けるほかない。

 こうなった際に意識の外に追いやられるものは時間間隔である。突入を覚悟してからは、どれだけの時間ハンドルを握っていたかはわからない。またバリケードの全長の相場など無論知る筈もないので、どれだけの間鉄塊弾丸と化していればテレビ局に突入できるのかも不明瞭である。完全なる手探り状態で、時にロボットを突き飛ばした感覚も残しながら、ただただ闇雲に進む。

 しかし進展はあるのか、次第に障害物並びに衝突音発生回数は減少し、視界は開け友人らの声も徐々に耳に入り始める。なんだか怒号のような声である。


「佐藤さん、止まってください!」

「飛ばし過ぎでござるよ!」

「もうテレビ局の中だって!中庭なんだよここは!」

「こんなに突っ込む必要ないんだ佐藤君!」

「はい!?……うわぁ視界が開けている!」


 怒号怒声に目を覚まし、現在位置にようやっと気が付く。

 それなりの大きさの建造物に囲まれ、目立つアンテナもすぐそこに望める、道は既に外れ、野外スタジオやら中庭やらと表現されそうなまさしく内側の個所、言い換えれば支配者の本拠地の真っただなかを、向こう見ずにも走り続けているというとんでもない現状である。今に始まったことでなくとも、失態の意識はある。バリケード突破に躍起になり過ぎて、本質を見誤ったのか。

 ならばそろそろ止まらねばと思うたところ、進行方向には今日何度見かけたかわからぬ装甲車による車壁、左右には建築物の壁、疑似的な袋小路である。こればかりはいくら私であろうと、ブレーキペダルをつとめて冷静にかつ強く踏み抜いた。


「急ブレーキを試みる!皆備えてくれ!」


 急減速からの急方向転換からの急停止、此度は被害損傷ともに発生しなかった。

 目と鼻の先には装甲車がどしりと存在しているが、どこか他の物とは異なる形相配色である。テレビ局由来のアンテナが生えたその装甲車は、黄金色の塗装に黒々とした行書体で「テアライ大将軍」と記されている。実に悪趣味なこの装甲車が意味する事柄は1つ。


「まさか、こいつはテアライ大将軍の……」

「待ってください、こんなものがここにあるということは、その大将軍とやらもここに……」

 

 数秒の考察をなしている間に、退路も別の装甲車にて塞がれた。

 四面楚歌の現時点、支配者の頭領が襲い来る可能性は極大である。本来の作戦の運びとはまるで異なる結果であるが、車内で身構え耐えるほかない。全ての窓とドアに鍵をかける。

 対象人物であろうとなかろうと、私達を取り巻き囲む気配と存在は確実であったようで、妙に甲高い声が装甲車側から発されるとともに、四方からロボット達の影も形も現れ始めた。


「侵入者の停止を確認!皆の者、円形に囲む陣形を取りなサーイ!」


 特に癖のある口調で現れたロボットはこちらに指を指し指示を出す。装甲車の上部にて立っており、なんとも大げさな身振り手振りでせわしない。

 背格好こそその他のロボット達と大差はないが、ヘルメットやら靴やらの細部に若干の豪華さを添えている輩であった。こやつのみが少々特殊な装備ということは上官か。恐らくセッケン少尉よりも上の存在であろうか。……私としては奴が何者かについては大体察しがつく。なぜかロボット達に気に入られている自作RPG『素甘最高伝説』に基づくのであれば、これらの特徴に当てはまるキャラクター候補は作者の知るところ1名、敵組織の幹部たる「ハンドソープ中佐」であろう。

 

「危険な人間の倉持サーン、仲間達も含めて、観念するのデース!」


 胸を張り偉そうで挑発的な物言いであるが、私達が不利であるのは絶対確実である。

 もはやこれまでかと思う中で、倉持は小声で私達に話かけた。こちらも小声で話し返す。


「この車両がタイム・マイクロバスである事は皆覚えているな?」

「そう……だったっけ?」

「たしかそうでしたね。激しい出来事が起こり過ぎて忘れていましたよ」

「ここで倒れては元も子もないため、時間移動機能でここより脱出を図りたい」

「それならば今すぐにでも動かして欲しいでござる!」

「そうしたいのはやまやまだが、そいつを再び使うためには、起動準備にパスコードやら本人確認が必要でな……、少し……、10分15分待ってくれないか?」

「……時間を稼いで欲しいということかね倉持さん?」

「……時間を稼いで欲しいということだ佐藤君!」


 皆は顔を見合わせるが、この窮地を脱する方法はこれ以外に発案も実行も不可能であろう為、何としてでも数分の生存を遂げる必要を求められた。

 この度合の時間稼ぎとあらば、私は私を推薦したい。自信は少しはある。そして何より、運転席から離れる口実にしたい。


「よし、人を惹きつける話というものは、面白さを追い続ける私には得意中の得意。ここは私が引き受けよう!」

「三っちゃん少し前、『面白い話できなくて面接落ちた』って言ってなかったっけ?」

「こ、これはリベンジマッチの意も込めてだな……」

「けれども、なぜだか佐藤さん式の面白さが不条理な程に評価されている時代であれば、話術のみで時間を稼ぎきる可能性は十二分にあることでしょう。頑張ってください」


 最中の発言内容は、一応は現状の解を示す後押しとなった。周りの皆も、消去法的に納得の判断に応じたようだ。人はこれを妥協という。

 ともかく話をなす為、私は天窓より車外に上半身を出す形をとる。


「何をヒソヒソコソコソ話しているのデース?……っおお、誰か出てきマース」

「倉持さんの仲間の1人だ、よろしく頼む!」


 まずは軽い会釈だ。敵であろうと会話の頭には必要だ。


「挨拶とは良い心掛けデース。しかーし、ワタクシを待たせての長話はいただけまセーン。一体何をお話していたのでショー?」

「当ててみたまえ!」

「むむっ挑発的態度……。それでもワタクシのシャープでスマートなブレーンならば答えを導き出せマース!」


 奴は逐一に、大袈裟な声と挙動を見せつける。RPGでのキャラクタ―設定の際は、「このような人物は面白いだろう」と考えていたが、それは実に浅はかであったと思い知らされる。実際に真正面で対面すると、大きな煽りを受けているような心持である。挑発的態度はどちらだと、今すぐに反口撃したいところであるがここは時間稼ぎに注力せねば。


「アナタ達ができる事はせいぜい、降伏の意を示すか遺言を考えるかくらいデース。つまり、仲間同士で遺言を教え合う、『遺言ショー(書)』を行っていたのでショー!あらあらワタクシってば、今日も冴えてマース!金言たる”最高に面白くあれ”にバッチリと応えられてマース!」

「違うぞハンドソープ中佐!私達は降伏も遺言も考えてはいなぁい!」

「……むむ?なぜにワタクシの名前をご存じで!?名乗った覚えはありまセーン」


 やってしまった。懲りずに失態を重ねてしまった。足元は車内からも、「何をやっているんだ」という意の突き刺さる種の小声が飛び交う。

 「ハンドソープ中佐」という名前は、私が確信的仮説に基づいた予想であって、私だからこそ知り得る情報なのであって、相手からすれば奇怪で不可解な言動でしかないのだ。こんな思慮を巡らさずとも判断できよう事柄が、記憶組織からすっぽ抜けていたのだ。

 このような事態を取り繕う方法は、古来の童話民話昔話より変わらぬ1つしか存在し得ない。おべっかである。

 

「あ、あっ、いやあハンドソープ中佐といえば、それはそれは素敵で素ん晴らしい存在として名高いではありませんか!」

「そうでしょうそうでしょう!ワタクシも有名になったものデース。冴えもあって気分は最高デース!」

 

 この個人名を軽視したような反応は、少し前に出会ったセッケン少尉の場合と非常によく似ている。これは危機を脱したか。

 

「最高ついでに、最高権力者様も呼んじゃいマース!テアライ大将軍様、妙な輩を囲みましたゆえ、おいでになってくだサーイ!」


 何と言ったこの無自覚挑発ロボットは⁉

 最高権力者を呼ぶだと⁉テアライ大将軍を呼ぶだと⁉正気かこやつは⁉そして私のおべっかは完全に裏目に出てしいまい、危機を加速させたのみではないか!皆本当に申し訳ない!

 私達の発言は当然にも車内の者達の耳に入るため、中でごそごそと小声で騒ぐ様はこちらにも伝わる。このように不自然かつごく簡単に支配者の総大将が登場してたまるものかと、私自身の持つ常識というに基づいて落ち着きを保とうとするも、未来世界のコモンセンスに従えば恐らく絶対確実に奴は現れるだろう。ちなみに先の自作RPGでは、最終討伐対象は眼前で起こる事態の通りに出現させた記憶がある。現実となるとどれだけ憎らしいことか。


「倉持殿、時間移動機能の程は?」

「あと5分程で動く、もう少しの辛抱を願いたい」

「聞いたか三っちゃん!大将軍の相手も頼む!」

「そんな無茶な!」


 難易度の増大により思わず大声で反抗的な突っ込みが口から飛び出す。声量の都合、その声はハンドソープ中佐にも届くものとなっていた。


「無茶ではありまセーン!テアライ大将軍様は最初からこの装甲車に搭乗していましたゆえ、登場準備は整っておりマース。さあ御大将様、よろしくお願いしマース!」

「あっ会話がかみ合った!」

「呼ばれたからには現れよう。我こそがテアライ軍の最高権力者・テアライ大将軍である!」


 金色装甲車の搭乗部が開いたかと思えば、そこよりぬうとこれまた金色のロボットが出ずる。こやつが例の大将軍に違いない。奴の腕が見えた辺りから、私達を囲むロボット達は奴を極としたコンパスの如く一様に姿勢と向きを変え、敬礼の姿勢を取り始める。

 ハンドソープ曹長の横に並び立つように現れたその姿は、他のロボット達よりも一回り大きな体躯に加え配色も手伝い、威厳や貫禄に分類される感覚を受ける物であった。装甲車と一体化した錯覚を覚える全体構成には、まさに支配者然としたものを感じる。しかし私が最も特徴に感じうる事柄は、奴の胸部にモニターがある事だ。何が表示されているという訳でもないのだが、画面を囲う枠を含めて、この個所のみ妙に褪せと滲みが見て取れるのはどうしても気になってならない。むしろ敢えて突っ込む個所を身体に備えることにより、生きた1つのボケとして未来式面白さによる支配の一助とする魂胆であるのか。

 テアライ大将軍の姿を確認していると、奴の方からこちらに語り始める。


「我にはお主らの存在は、しかと耳に入っておる。倉持の一味であろう」

「そ、そうだとも、ようくご存じではないか!」

「そして我は、お主についても知っている……」


 何だと?私が知っているならともかく、向こう側からそのフレーズが飛び出してくるとはどういうことか。いや単に支配の原案にした際にちょっとばかし情報を拾えたということか。


「久しいな、佐藤よ……」

「な、何を言うか!確かに私は佐藤であるし、あんたらが何故か愛してやまぬ『素甘最高伝説』にて同名の存在を生み出した!でもあんたとは本気の本気で初対面だ!」

「……だが、そう言うと面白くなるのだ」

「なんだ嘘か!」

「さすがはワタクシ達の御大将デース!」

「あんたもこんな一言にヨイショするな!」

 

 ハンドソープ中佐は大袈裟に体を動かし称えている。いやよく見渡すと、私達の周りにて囲みかつ敬礼を行っていたロボット達も同様に、拍手やら腹を抱えるジェスチャーをなしている。それに反して足元即ち車内では、倉持以外はわりかし冷めた反応を示す。「奴らが佐藤由来で助かった」という意の小言が耳に入るが、ここはぐっと噛みしめた。噛みしめるほかなかった。

 また車内からの冷めた反応は、当然にもテアライ大将軍側でもしかと目視可能であったようだ。


「我の渾身の一言であれども、一文字の口元を崩さぬとは気に食わぬ!」


 あの一言からどれ程の遺憾や無念を覚えたのかは伺い知れぬが、奴は右足を高く上げ強く地面に打ち付けた。また胸部モニターには真緑色の文字で「笑え!」と表示された。どうやら奴の感情が文字となり反映されるようである。

 この不機嫌が伝わる1発型地団駄は、ハンドソープ中佐達を蒼白にさせる。


「皆の者、もっと派手に笑い転げなサーイ!倉持の仲間一味のアナタ達も、しっかり笑いなサーイ!」


 更にこちらにまで強要するとは、迷惑な事この上ない。そもそも面白さとは、触れた者から認めてもらうものであり、強引に価値観に従えるものではない。これは私のポリシーからすれば外道も外道、大外道である。仮にも私のRPGから詳細を引っ張ってこのような支配侵略活動をぶちかましてやろうと志したのであれば、私なりの正義や誇りや矜持や自負やその他諸々、面白さを目指し近寄り触れ片足を突っ込んだ者としての倫理道徳の一片でも伝わってはいないものであろうか!

 私は奴らに向かい声をあげた。ここは何としてでも、あげなければならなかった。

 

「待ちたまえこの心無き者達!私から一言物申した……」

 

 勇ましく切り出した私の言葉は、テアライ大将軍の不機嫌の前にかき消された。なんと情けないことか。


「ハンドソープよ、あやつらに面白さを叩きこめぃ!」

「はっ!ほらほら皆動きなサーイ!御大将様直々の指示デース!マイクロバスの奴らに叩き込んでやりなサーイ!」

 

 憤りは届かぬまま、私達を囲むロボット達が車体ににじり寄る。

 現状打破は時間移動機能の実行しか発案できず、それは皆一様にそうであり、私達に残された道は実行の為の時間稼ぎか破滅かの2通りのみである。ならば私は時間を稼ぐ。……時間稼ぎという観点においては、こちらからすれば抜群の相性を誇る特性をロボット達は持っていたはずだ。セッケン少尉でもそうであったが、奴らの「質問されたならば必ず回答する」という特性である。この際ならば、次に繋がる疑問をぶつける心意気で挑もう。ほんの少しだけ下手に出るか。

 

「さてテアライ大将軍よ、支配者のトップたるあんたを前にしたら私達は尻込みしてしまった!ゆえに冥途の土産として、あんたの……、いやあんたらの最大の弱点というものを教えてはくれまいかね?」

「良いだろう答えてやろう。皆の者、一時停止の姿勢!」


 号令と共に他のロボット達は進行を停止する。

 やはり回答は必ず帰ってくるようだ。さすがこの点は矢部のフォロー的お墨付きを貰った個所、いざという時には役に立つ。

 

「我らテアライ軍の最大の弱点は1つ。それは『全機能停止コマンド』を発動されることにある」

「『全機能停止コマンド』だと⁉」

 

 実に単純で安直な名前だ。私が考え、かつ好みそうな発想である。最後の難敵にそれが備え付けられているというのもまた、私の好みそうな発想である。


「『全機能停止コマンド』だ。その名の通り、実行されれば我を含む全てのテアライ軍の者が、機能活動発熱起動に再起動、全ての活動という活動、機能という機能が停止するのだ」

「して、そのコマンドはどのようにして実行すればよいのかもお聞かせ願いたい」

「尋ねられたとあらば、答えぬ訳にはいかぬ。『全機能停止コマンド』の実行は、とある場所にある非常ボタンを一度ボチンと押す事で成される。ではそれは何処か?我の背に堂々と鎮座している。刮目せよ!」

「注目なサーイ!」


 隣のハンドソープ中佐が煽りを入れると、テアライ大将軍は堂々と悠々とこちらに背を向ける。話の通り、奴の背には真っ赤なボタンが1つ、持ち主と同じ程に堂々と存在していた。こいつをどうにかして押せば、奴らは総崩れになるということか。

 車内の皆が、特に倉持は、最大の弱点の存知に至り、少なからず希望を見出していた。また、従来の跳ね飛ばし作戦は確実にボタンプッシュ作戦に上書きされたことであろう。

 腕があともう少し長ければ届く距離にあるデウスエクスマキナを、私だって狙わぬはずもない。しかし私の腕は長くも無ければ伸びもしない。棒状の物も咄嗟に用意できるはずもなく、ひとまずボタンの凝視に努める他ない。数秒の間では目に入る情報という物は限られているが、それでも結果的には重大な発見が私の脳に突き刺さったのだ。

 テアライ大将軍の背、ボタンの据え付けられた周辺は、奴の正面胸部モニター付近と同様にどこか褪せと滲みが見て取れるのだ。まるでブラウン管のテレビやらパソコンの壁面にも似た色合い……、もはや胸部構成部品はその類ではないのかとも冗談じみた事が過った矢先のこと、ボタンの下部は影差し部分に、黒色の文字が7つ書かれていいることに気が付いた。油性ペンを限界まで褪せさせたような発色のその7文字は、驚くことに私の名前であった。「サトウミツハル」と、一字違わず丁寧に記されている。未来世界の支配者の背に自身の名前を発見するという、驚き桃の木山椒の木やら奇妙奇天烈摩訶不思議やらという言葉ですら霞む程の驚愕的激震発見を起してしまったのだ。脳神経は焼き切れかけ、思考より先に声が飛び出る。


「こいつは一体……?」

「気が付いたようだな、”佐藤三温”よ」

「まさかあんたは……?」


 その7文字は、過去からの刺客であった。

 私しか知らぬ極めて個人的な事柄であるが、眼前の事実はテアライ大将軍の正体とも言うべき核心であった。私の心に、冷たく重い錨が撃ち沈められた。なんてことであろうか……。


「これこそ、冥途の土産にふさわしいであろう?」


 正面に向き直るとともに、テアライ大将軍は不敵な笑みを浮かべた。

 

「回答は以上だ。皆の者、一時停止解除!進行再開!」

「アナタ達、今度こそ覚悟なサーイ!」


 号令と共に胸のモニターの文字は「観念せよ!」に変わり、ロボット達は再びにじり寄り始める。私も小規模放心の世界から意識を呼び戻した。依然とした危機である。

 いよいよ私達も最後の時か、いやそんな事はない筈だ、そろそろ本当にいい加減に時間移動機能は実行に移せるのだろう?頼むからお願いだからそうだと言ってはくれないか倉持さんよ!

 私は無意識のうちに、車内に向け先の内心を吐露してしまっていた。


「倉持殿、急ぎ時間移動とやらを!」

「僕たちはここで果てるなんて御免こうむりますからね!」

「もうロボットそこまで来てるって!」

 

 友人達も罵倒型の要求を至近怒号にて伝える。私含め必死の勢いである。当然であろう全てこれに掛かっているのだから!

 私も車上から車内へと蛇のようにするりと流れ込む。経験が脳に指令を出してしまったのか、体は無意識に運転席に着く。

 

「あと少し……、もう少し……、よし、今すぐにでも可能だ!」


 倉持から朗報が届く。

 時間稼ぎは身を結び、必死の思いは何とかタイム・マイクロバスに届いたようだ。同時にロボット達も車体に届いたようだ。ボンネットの斜め前からはハンドソープ中佐の高笑いが耳に届き、後部ドアからはこじ開けんとドアを引き打ち揺らす不穏な音が響く。奴らを体で押さえ侵入を拒みそして再び倉持への要求を続ける。


「大急ぎの大至急で起動してはくれまいか倉持さん!」

「いや起動はカーナビ画面からだ!」

「はぁ⁉操作はどうしろと⁉」

「履歴画面の最新の時刻に設定してくれ!」


 見知った機械で見知らぬ行為を要求され戸惑うも、言語が同一であればきっと多分恐らくは上手くいく!操作画面からそれらしき画面に何とか向かい、一番上の履歴を急ぎ確認し、あの時の居酒屋店舗を示す位置時刻を何とか発見!カーナビ画面に表示される最終確認にも「はい」と答え、ついに時間移動機能の実行を果たす。よくやった私よ!


「ようし、実行したぞ!」

「でかした!皆シートベルトを締めろ!アシストグリップ等に掴まれ!」


 ロボットの突入を抑え込みながらの安全確保という矛盾じみた滅茶苦茶な姿勢を取る。奴らが最接近しドアも剥がれんとしたその時だ。

 本日何度目ともわからぬ轟音と怪閃光が私達を車体ごと包む。時間移動が真に実行されたのだ。倉持との初対面時から、この音と輝きを食らう度に理不尽や嫌悪を覚えていたが、此度ばかりは文字通りに福音であり希望の光であり更に救済の一手である。

 怪閃光の有色フィルター越しには、驚きひっくり返るロボット達の姿が見得る。私達は確実に逃げおおせられる。そうに違いない。

 少しばかりでも息をつくと、頭に過るはテアライ大将軍の背の7文字である。私の記憶が確かであれば、それは全ての元凶は私であると証明するものであるためだ。ロボットに囲まれ脱出するまでに、倉持に散々な文句罵倒を垂れてしまったが、大元が私である可能性が9割9分9厘ある以上それは理不尽な暴言であっただろう。また私が色々動いたのは、自分で自分の尻を拭いただけでもあるのだろう。後で皆に謝らなければ……。

 時間移動を示す輝きが増すと同時に、私の自我意識も薄くなる。次に目を覚ました時には、きっと居酒屋付近にて皆と無事でいることだろう……。私のせいで無事でいられないなど、面白さを求めた末に人を傷つけるなど、あってたまるものか……。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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