005☆ようこそ第八特区へ【真】
サブタイトルがなんか変? 気にしちゃ駄目です、まだマシなタイトルだな程度に思ってください……はい。なんで特区? という疑問はそういうものなんだと納得してください……説明は放棄しました、すいません! かなりぐだぐだ感満載ですがよろしくお願いします~。
では一章の延長戦的な第五話、シン視点ではじまります!
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
ロウの嬉しそうな声にオレも何だか嬉しくなってくる。
「良かったな、ロウ」
「うん。ようやくロウもここの人っ」
「だな~」
ニコニコと顔を見合わせるオレ達。そんなオレ達を少し柔らかい表情で見ているシラン。
「免許証と登録証は身分証明に便利なんで大事にしてくださいね。再発行にはお金が少しかかってしまうので」
にこやかな受付の人が言った。ロウとシランが真剣に頷くことで応える。結構この二人似ていたりする。特に真面目なとこが。
ここは中央区。シランが言うにはお役所の集合地、だそうだ。名前の通り、この街、第八特区の中心部だ。そこに立ち並ぶ建物の中の一つ、住民生活管理局。そこで、この特区で暮らすための細々とした手続きをしていたのだ。
にしても。
「簡単だったなー。ほんとあっさり。1日で終わっちまった」
「今回は半田さんと稲城さんが骨を折ってくれたからな」
「骨折れたのか!?」
「……苦心してくれたで伝わるか?」
「おお、なるほど」
確かにそうだった。オレの時もハンダが多少何かしてくれたけど、今回は守衛長まで頑張ってくれたらしいし。
「ほんとイナギさんは良い人だよなー」
「半田さんにも感謝しろ。あの人はお前の時も今回も口添えしてくれたんだぞ」
「わかってるって」
ハンダはそうは見えないが実はちょっと偉い人。オレらの住む第六守衛地区の地区長だ。でもイナギさんの方がもっと凄い、守衛区全体の頭だ。だから守衛長。
この第八特区は特殊な街なため、ほぼ円形になっている。その中心がさっきいた中央区。そしてそれを囲うように商業区、居住区、農業区があり、高い防壁の外側に守衛区がある。そして各区の中でも地区という区分けがされている。第六守衛地区とはつまり守衛区の六個目の地区ということだ。
「まあ稲城さんの口添えが大きかったことは確かだな。あの人は街の防衛の最高責任者だ。あの人が必要な人材だと言ったら誰も断れんだろう」
「だよなー、やっぱすげえよ」
「イナギさん、って誰だ?」
ロウがきょとんとした顔で首を傾げたのでオレが説明をかって出る。
「壁の外で一番偉い人だ。ロウは会ってないけど……まあそのうち来るよ。そん時はちゃんと紹介してやるよ」
「……忙しい人だぞ?」
「でも推薦してくれたんだし、流石に会いに来るんじゃねえか?」
「……まあ、お前にしては納得出来る答えだな」
「なんだよその言い方は! オレだってちゃんと考えてんだぞ?」
シランの馬鹿にした感心の言葉にむかーと言い返す。でも意外と言えば意外。イナギさんならロウに会ってから推薦すると思ったけど、本当に来ないからなぁ。
「イナギさん忙しいんかなー」
「ロウ会ってみたいぞ」
「会わせてやりたいよ」
ハンダは大体家に居んのにな。イナギさんは家にすら滅多にいないんだぜ?
そんなことを考えながらも足は中央区を抜け、第一商業地区に入っていた。中央区とはまた違った活気がオレらを呑み込む。ここはちょっと苦手だ。いろんな匂いやら音が混ざって襲い掛かってくるみたいだからだ。空気に酔いそうになる。
だから自然と足は早くなっていた。隣を歩くロウも、さっきまでの元気がしぼんでいく。やっぱりロウも苦手らしい。
「……なあシランー」
「好きにしろ。オレも好きにする」
「……」
「なんだ?」
「やぁ……ふて腐れてる?」
「なんでそうなる」
「そんな感じだからだよ」
「……気にするな」
ふむ。腕を組んで考え込んでみる。……うん、面倒だ。結論は出てるし。
「はい」
「……なんだこの手は」
「ひょいっと帰りたいだろ?」
「……別に多少は慣れている。図書館にも良く行くからな。俺は普通に帰れる」
「でも一緒にいんだし、一緒でいいじゃん?」
「……俺は一般人だ」
「んで非常識一家の家長なんだろ?」
「お前が言うか?」
「言うさー。な、ロウ?」
「なんだ?」
無責任に話を振ってみたら普通に聞き返されてしまった。まあいいや。
「ズバッと帰ろうぜ、ズバーと」
「ズバか? いいな、ロウそれがいい!」
「ロウ、わかって答えてるか?」
「まあまあ、些細なことは気にしない気にしなーい」
何かもう良いや。ロウも良いって言ってるし、人ごみ歩いてるのも面倒だし、それに。
「おい、や、やめ──」
「しーらねっ、とぉ!」
無理矢理シランの腕を掴むとひょい、と持ち上げた。腕だけじゃない。シランの体ごとだ。あたふたするシランは無視でそれを抱えると、ロウに目配せする。
「んじゃあ、行きますかー」
「ズバ、だな!」
にっこにこな二人と。目を白黒させて抱えられた人。
あー、なんつうかな……。
「「とうっ」」
「放せー!」
たのしーんだ、なんか。それに、何よりシランの反応が面白いっ。
オレとロウは息もぴったりに飛び上がると、手近な建物の屋根に飛び乗った。
「よーし、ズバッと帰るぜ」
「ズバッと帰ろー」
「馬鹿か!」
最後の一名は無視。オレは北を、第六守衛地区の方向を、オレ達の家を見据えると、にかっと笑った。
「家まで競争!」
「ロウ負けない!」
「俺を抱えたシンの方が不利な勝負をするな!」
うん。いいかんじに混乱して突っ込みどころが可笑しなシランが楽しい。だからオレは無駄に自信満々に言ってやる。
「なに言ってんだ。シラン程度重荷になるわけない! オレの勝ちに決まってんだろ」
「いやお前、本気か? 本気で本気出す気──」
「ふふん。オレが負けに甘んじるような大人だとでも思ったかシラン?」
「そこは自慢するところではない!」
「スタート!」
「話を聞けぇえええぇえ──」
オレの掛け声と共に勝負の火蓋は切られた。二人の元野生児の瞳に手加減の文字はない。
と言っても、空を飛べるわけでもないので勝負内容は地味だ。屋根から屋根へ跳び移り、家を目指すのみ。まあでも他の人がやってるとこは見たことないし、多分変なことなんだと思う。シランも反対したし。
でもさ。人ごみ苦手なの我慢してもしょうがないし、別に悪いことじゃないよな?
まあ、多分跳び移る時の浮遊感が慣れないから怖いんだろうけどな、シランは。でも落とすわけないし、慣れれば楽しいし。
ってことでオレは全力で跳んでいた。
シランの怒声というか悲鳴は長く尾を引いていた。
☆ ☆ ☆
「はっはー、オレの勝ち~」
「うー、シンの方が不利なはずなのにー」
「何を言うか。シランを持ってこそオレの真価は発揮されるのだー」
「ずるいぞシン!」
とか言うやり取りをしながら家に入っていく。ぐったりしたシランは丁寧に椅子に座らせた。
「酔った?」
「……大丈夫だ」
「水飲む?」
「……いやいい」
「そか」
やりすぎたかなぁ、と内心反省。楽しいし、シランも人ごみ苦手だからやったけど、逆効果だったかなと肩を落とす。まあ夕飯の準備でもするかなと歩き出すと、いきなりシランがむくっと起き上がった。思わずびくっとする。
「シン」
「な、なんだ?」
「……感謝しづらいが……でも感謝する」
「へ?」
「街中歩くよりは……随分マシだった」
それは。それはさっきのことか? 感謝、されてるってことは、良かったのか? なら、なら……。
「良かったぁ~」
「……泣くなよ」
「泣かねえよ、こんくらいでー。でも良かったぁ。シランが嫌なことしちゃったかもって思って……良かったぁ」
そんなこと言いながらも実はちょっと泣きそうだった。だってシランに悪いことするなんて、嫌だ。さっきは調子に乗りすぎたとかなり後悔しそうだった。
心底安堵した。
だから泣き笑いみたいな顔になる。自然に泣いちゃうし、笑っちゃうんだから仕方ない。
「シン大丈夫か?」
「うん、大丈夫大丈夫。夕飯作るからな」
「ロウ手伝うぞ」
月のような瞳がきらきらと向けられていた。けど少し考えてから言う。
「今日はいいよ。ロウも面接とかで疲れたろ?」
「ロウ元気だぞ」
「いいの。それより明日のオレの仕事一緒に行こうぜ。ロウも慣れなきゃな。何かしら仕事しないと」
「そうだなっ。じゃあそうする!」
「……ロウ、もう少し落ち着いてからでもいいと思うが?」
シランの言葉だ。それにちょっと拗ねた気分になる。
「なんだよー。オレん時は直ぐに仕事だったじゃんかよ」
「お前はもう大人と変わらない歳みたいだったからな。でもロウは子供だ」
「ロウ出来るぞ?」
「そうだ、ロウは強いんだ! 即戦力というのはまさにロウのことなんだぞ!」
「……好きにしろ」
なんだか急に面倒臭くなったような顔になると、シランはまた机にうつ伏せになった。その様子にちょっと心配がむくむくと沸き上がって来そうだったが、シランが気にするなと言うように手を上げたのでそれも治まった。
夕飯の準備、だな。
「さて、今日は何が出来るかなー」
「……せめて何を作るかな、にしてくれ」
オレはそんな突っ込みに笑顔で答えた。
「ムリ!」