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蒼天の真竜  作者: 逢河 奏
第二章
14/43

013■招かれざる訪問客【真】

二章突入で本編スタートです!……似たようなことを何度か言った気がしますが気にせずに。観月家VS謎な三人組って感じです。まあ一名ずっと読書してますが。

と言うわけで二章第一話にして『蒼天の真竜』第十三話……どんどんややこしく墓穴を掘ってる気がするけどとにかくスタート!

「暇」

「「……」」

「ひぃまぁだー!」

「「……」」

「……ひでぇ」


 沈黙しか返って来ない。めちゃくちゃブルーな気持ちになった。


「……なんだ鬱陶しい」


 ようやくシランが本から顔を上げてくれたので、オレは一瞬にして笑顔になって食い付く。


「だからシラン、暇なんだよー」

「そうか」

「そうなんだよ」

「……」

「シラン〜」

「……非常に鬱陶しいな」


 眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せて心底面倒臭そうにシランは言った。いろいろ突き刺さるリアクションだな。


「仕事がなくなると直ぐにそれだ。いい加減家事以外の趣味を持て」

「えー」

「字を読むのも書くのも嫌ならいっそのこと絵でも描いてみたらどうだ」

「やだ」

「……」

「黙んないで! 悪かった、オレが悪かったからだんまりはやめて!」

「……はぁ」


 シランは厄介だな、と言いたげな目でオレを横目に見ていた。鬱陶しいのはかなり承知だ。でも暇。

 なんでこんなに暇かと言うと、ある意味ロウのせいだ。当人は隣の席でゆったり読書タイムだが。


 オレらの本職は戦闘員。外敵から特区を守るのがお仕事で、だから外壁の外なんて妙な場所に住んでいるのだ。

 オレは戦えます、という申請をしてそれが上を通れば晴れて給料の出る戦闘可能住民とかいうのになれるし、必要最低限の生活が保障されるようになる。オレもシランもロウも登録済みなので都市防衛が義務となる代わりに食糧やらを貰える。

 しかしもう一つ仕事があって、それが第八特区が受けた依頼の遂行だ。それは主に商人の護衛依頼である。そして食費が馬鹿にならないウチの主な収入源でもある。

 だが、ロウとオレが片っ端から仕事を受けてしまったからスムーズになったのは良かったが他の住民に仕事が行かなくなってしまったのだ。だから調整のため、強制的に一週間の休みを言い渡されてしまった。そんなルールないだろ! と抗議したけど、お前ら働き過ぎ、と言われて却下されてしまった。

 そうなるとやることが家事しかなくなるが、家事なんて無限にあるわけじゃないし、午前中には終わってしまい、非常に暇になってしまったのだ。


「まあある意味自業自得だな」

「なんで!」

「だってお前がロウに働くよう早くから言い始めて、しばらくしたら直ぐに別々に仕事を受け始めただろ」

「うわー、言うなー」


 確かに自業自得なのはわかるが……やっぱり言うなー。


「ううー、何かやることないかぁ」

「散歩でもしてきたらどうだ?」

「うーん、それは考えたけどさぁ」

「けど?」

「……なんか、やな感じすんだよな、今日」


 昼頃から何だか雲行きが怪しい……ってまあ空は相変わらずの灰色なのはそうなんだけど。何だか空気の流れみたいなのが変な感じする。


「……不吉なこと言うな」

「でもほんと不安で。だから家出たくない」

「でも暇だ?」

「うんっ」

「……勝手に喚いてろ」

「ひでぇよ」


 どんどん扱いが悪くなってきていじけ始めた頃、やーな気配を感じて顔をドアに向けた。ロウも同じように顔を上げたことを気配で知る。そんな妙な雰囲気に流石のシランも気付き、こっちを向いて多分嫌そうな顔をした。


「本当に何か来るのか」

「みたい」


 シランの呟きにロウが返す。オレは椅子を下げると立ち上がり、ひょいと机を飛び越えてドアの前に立った。頭にあるのはハンダが教えた四字熟語。

 先手必勝。


「何の用だ!」


 オレは怒鳴りながら勢い良く戸を内から開いた。


 ドガッ。

「ぶっ」

 ──ばた。


「「「……」」」


 鈍い音とドア越しの手応え。場の空気が気まずそうに淀んで静まった。


「……ごめんなさい」


 とりあえず謝った。


■ ■ ■


「ってぇよ、何だよ、ちくしょう、うう……」

「わりい、大丈夫か? 泣くなよ?」

「泣いてねえ! つか泣かねえよ! 三十路過ぎた男が泣かされてたまるか!」

「リーダー、泣いた方がすっきりすることもありますぜ?」

「そうですよ、強がる必要はありませんよリーダー」

「馬鹿、変に優しくすんな! 真面目にやれ! 仕事だぞコラァ」


 何だか良くわからない状況になってしまった。しかしまさか顔面クリーンヒットとは。そこまでは狙ってなかったのに。不運な。

 訪問者は三人。出鼻を速攻で挫かれたのがリーダーで、それを慰める二人が部下A、Bってとこだろうか。部下二人は同じ濁った感じの緑色の服だったが、リーダーは似ているがちょっと違う、装飾のついた服を着ていた。

 しばらく揉めるような仲良しなような会話が続き、ようやく落ち着いたようだ。


「あー、なんかごめんな。で、何か用?」


 悪いことした気分だったので結局普通に用件を訊く。するとようやく気を取り直したリーダーが前に出て、仕切り直すように咳払いをした。一応言っておくとリーダーはオレより背が低かったので全く迫力がなかった。


「えー、我々は観月紫蘭殿に用があって参った」

「シランに?」


 振り返るとシランはもう座っていなかった。つか家の中に姿が見えない。リーダーも家を覗き込んで同じことを思ったらしい。


「紫蘭殿は?」

「何の用だ」

「うおっ!」


 いきなり隣から不機嫌な声がしてリーダーが飛び上がった。シランはさっき以上に面倒臭そうに顔をしかめてオレの隣で足を止めた。なに、裏戸から出てぐるっと回ってきたらしい。普通に出てくれば良いものを。


「お前らがあの不幸の手紙モドキの送り主の仲間か?」

「その表現は酷くないか!? しかもモドキって中途半端だな!」

「どうなんだ」

「ひぃっ」


 無駄に不機嫌オーラで目付きの悪いシランは確かに怖い。ちょっとリーダーは後ずさった。しかし部下二人がいることを思い出し、少し勇気付いたのか、もう一度咳払いをすると胸を張って言った。


「よ、用件はあの文書の通りだ! 来てもら「断る」お、う……」


 言葉が終わるのも待たずに否定されたせいか、リーダーの台詞は尻窄みに終わった。何だか落ち込みやすいらしい。


「リーダー! 根性ですぜ!」

「ファイトですっ」


 部下の声援に何とか再びシランに向き直すが、もはや始めの勢いは微塵もなく。


「あ、あの、俺らも仕事でして、ね? 話だけでも……」

「手紙は読んだ。答えは行かない。それで良いだろう?」

「はい、え、あー、でも話、もうちょっと……」

「断る」

「……ごめんなさい」


 心が折れたリーダーは部下に慰められていた。ずーんと沈んでいる。もう駄目だ、俺は駄目な男、役立たず……、とかいう呟きが聞こえてくるのが何とも居たたまれない気分にさせる。


「……なあ、もう少しくらい話を聞いてやっても良いんじゃないか?」


 贖罪、というわけでもないが、ついついそんなことをシランに言っていた。しかしそれに対するシランの答えも実に素っ気ない。


「あいつらは俺にこの特区を出て行って欲しいんだ。お前はそれでも良いのか」

「うん、よし、可哀想だけど今回は諦めてもらおう」

「……お前は本当に単純だな」


 ちょっとシランに呆れられたけどこれは曲げられない。俺はシランと離れたくないし、シランだって街は出たくない。なら、うん、諦めてもらおう。


「しかしこいつらもしつこいな」

「へ?」

「五回は断りの手紙を出しているのに、とうとう人まで寄越すとは、どこまでご執心なんだ」


 苦虫でも噛んだような顔をしてシランが吐き捨てるように言った。ふと疑問に思った。


「なあ、差出人は誰なんだ?」

「日本政府だと名乗ってる。まあ本家はとっくのとうに解散しているから、騙りか看板として使っているのか、或いは……」

「何だよ日本政府って」

「まあ、この特区の中央区みたいな役割の組織だ。随分昔に匙を投げたから、今はこうして自治組織が発達して小さな国のような街が点在しているがな」

「私たちはそんな無責任な政府に代わり人々を守るために出来た新日本政府なんです」


 部下Bがいつの間にか近くにいた。にっこり笑顔で説明を続ける。


「基盤となったのは元日本政府ですが、今ではたくさんの人達が一緒になって暮らしを良くしよう、多くの人を守ろうって頑張っているんですよ?」

「だからあんたの協力が必要なんですぜ。来てくださいよダンナ」


 部下Aも追撃の言葉を言う。そしてリーダーが二人に背中を押されて再びシランの前に立つと。


「お、お願い、しますっ!」


 頭を思いっきり下げた。今にも土下座しそうな勢いだ。


「ほんと、本当に、ただ一緒に来て、俺達のボスの話、聞いてくれるだけで良いんだ! 頼むっ、一緒に来てください!」


 ここまで言われたら……シランはどうする? 横目にシランの様子を確認する前に、シランは口を開いていた。


「……断る」

「紫蘭殿!」

「シラン!」


 思わずつられてオレも声を上げてしまったが、シランのやけに静かで冷たい目にぶつかり、それ以上は言えなくなる。


「……行くだけなら、良い。しかし答えを変えるつもりはない。全くない。ただの迷惑にしかならないだろう。だから俺は、行かない」


 答えが決まってしまっているから断る。シランらしい答えと言えば答えだ。俺はこれ以上何も言えない。


「それに、俺はこの特区と契約する形で暮らす人間だ。簡単には移籍できないはずだ」


 とどめとばかりにシランが言い放つ。しかし、意外な反撃があった。


「特区とうちの間では話はついている。あとはあんた次第なんだ」


 リーダーが少しビビりながらも勇気を振り絞ってそれだけ言った。オレには良くわからない内容だったが、シランが動揺したのだけはわかった。


「……明日また来てくれ」

「シラン?」

「本当か! わかった、出直して来よう!」

「何かよくわからないけどやりましたねリーダー」

「良かったですなリーダー! ゆっくり休みましょうぜ!」


 三人は浮かれながらも素早く退却して行った。逃げるの、じゃなかった、帰るの速いなあいつら。

 でも……。


「シランどうした? 急に意見変えるなんてどうかしたのか?」

「……必要がある」

「は?」

「確認する必要がある。俺は出掛けてくるからお前は──」

「オレも行くよ!」


 何だか少しシランの様子がおかしいし、何を確認したいのかも気になる。


「ロウはどうする?」

「……あ。ロウは留守番してるぞ」


 ロウは未だに読書タイムだった。今のゴタゴタの最中もずっと読んでいたのだろうか? いや、間違いないなく読んでたな。シラン以上の読書家かもしれない。


「じゃあ出掛けてくるから家頼んだよ」

「任せるー」


 全く信用出来ない返事。だって本から全く顔を上げることをしないのだ。でもまあ大丈夫だろう。泥棒なんて滅多にないし、ロウに勝てるような人も早々いないから。

 それよりもすたすたと既に歩き始めているシランの方が心配だった。


「んじゃあ行ってくる!」

「いってらっしゃーい」


 だからオレは挨拶もそこそこに、シランのあまり大きくない背中を追って駆け出したのだった。


次回は、シランはリーダーの言葉を確かめるために稲城さん(何気に未登場)に会いに行きたいが待ち受けるのは変な地区長、副長たち。シランは無事に辿り着けるのか?って感じの話になります。うわ、初めて次回予告っぽいかも。

とにかく頑張るのでよろしくお願いします。あと、『ドラゴンと僕と彼女と』という短めの小説を移動してきたので良かったら読んでみてください。

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