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蒼天の真竜  作者: 逢河 奏
第一章
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011☆そこに在る意味【真】

結構真面目な話ですが、シンとハンダのやり取りが楽しい話でもあります。シンは何でシランを選ぶのか。

そんなシン視点の十一話が始まりまーす。

「お前ってほんっとシラン好きだよなー」

「はあ?」


 いきなりハンダが話し出した。

 オレは現在報告義務を全う中だ。だから第六守衛地区長の家、つまりハンダの家に来ていた。

 大体の仕事が第八特区に仲介してもらった、と言うか与えられた仕事なので、オレには報告義務、というものがあるらしい。そしてもし戦闘があったならその相手、数、場所なんかについてを詳しく記した報告書を作らなくてはいけないんだそうだ。でもオレは読み書きがからっきし。それにどちらにしろ大抵地区長であるハンダがくれる仕事だから、ハンダに仕事がどうだったか、という内容を報告しなきゃいけない。だからハンダに言って、ハンダが必要だと思ったところをオレに確認しながら報告書を書く、という形を取っていた。

 と言うわけで現在オレは報告をしに、ハンダの家に邪魔しているのだ。因みに報告は済み、今はハンダがかきかきと忙しなく手を動かして報告書作成中だ。もう帰っていいと言われているのだが、何となく惰性でハンダの作業を眺めながら勝手に入れた茶を飲んでいた、のだが。


「いきなり何言い出すんだよハンダ」

「だってそうだろ?」

「そうだぞ。で、どうしたよ?」

「や、普通に返されても困るんだけどな」


 ハンダが頭を掻く。オレは首を傾げた。何が言いたいのやら。でもまあ沈黙に飽きたハンダの世間話的な軽い振りだったんだろうな、とも思い、何かいい話題はないかと記憶に検索をかけることにした。

 しかし気を取り直した、話すことを決めたハンダが会話を再開したので結局それは中断されることとなった。


「なんでシランなんだ?」

「んん? 何言いたいんだよ?」

「だってよ、シラン以外にもいただろ? 世話してくれそうなって言うか、優しそうなやつ」

「……? 確かに今はいっぱいいるけどな」

「あ? じゃあなんだ。お前、今まで他の人間に会ったことなかったとか言うのか?」

「そうだけど?」

「……」


 何故かハンダが絶句している。どうしたんだろ、と小首を傾げるがわからない。


「ハンダ?」

「……嘘だろ? え、生まれて初めて会った人間がシラン?」

「ああ」

「嘘だぁ」

「嘘吐いてどうすんだよ? とりあえずオレの覚えてる限りじゃシランが初めてだったぞ」

「マジか?」

「マジだ」


 信じられんとまさに顔に書いてあるかのような形相だった。もはや書類作成の手を止め、目を見開いたハンダが身を乗り出すように訊いてくる。


「じゃあ親の顔は?」

「さっぱりだ。つかそもそも人間じゃねえし」

「育ての親は?」

「言うならシランだ。誰かに育てられた覚えはねえよ」

「じゃ、じゃあどうやって生きて来たってんだ?」

「今更何言うんだよ? 狩りしてに決まってんだろ。野生児ってからかうのはあんただろが」

「…………」


 どうも衝撃的な事実だったらしい。シランから聞いてそうだったけど、知らなかったのか。そっちの方が意外だな。


「お前、いくつだ?」

「歳か? さあなぁ……外見だけで言えば十八とかその辺らしいけど、そんな習慣知らなかったからな。数えてなかったからはっきりとは知らない」


 まあアレなら知ってるのかもしれないけど……話したの一回だけだし、面倒だからなぁ。


「なあ、オレ何歳に見える?」

「外見でか?」

「あー、や、中身的に」


 ちょっと気になったので尋ねてみた。案外ハンダは真面目に考えてくれるようだ。ペンを置き、腕を組んで唸る。


「……お前ってとりあえず外見以上に見えることはないな」

「そうなのか?」

「んでたまに……もの凄く幼くも見える。ほんとガキな時あるよな」

「…………まあ、いいや。で?」

「俺に精神年齢なんてわかんねえよ。人の心なんて把握できるかってんだ」

「なんだよ、あんだけもったいつけて放棄かよ」

「……聞くのか?」


 何故かやたらと真剣な顔で問われた。ロウソクの灯がすきま風に揺られて、橙色の光が怪しくハンダの顔を照している。……なんだこの空気。そんなに重要な話か?


「いいから言えよ」

「……詰まらんやつだなぁ」


 そのぼやきはいつものちょっと情けない感じの顔だったので少し安心して、ハンダの言葉を待つ。ハンダは顎を擦りながら少し思案するように上を見ながら言った。


「まあ、なんだ。お前は多分十五歳前後のガキだよ、きっと」

「……ビミョーな答えだな」

「うるせえ。お前が微妙なんだよ。ほら主夫は大人しく家で家事してろ」

「へーい」


 適当な返事をするとオレは素直に席を立った。椅子にかけて置いた上着を手に取ろうとした時、急に待ったがかかる。


「やっぱ茶をもう一杯淹れてから帰ってくれ」

「……さっさと帰れって言った癖に」


 と文句を言いながらもやっぱり素直に空のカップを受け取ってしまう。


「お前が淹れた方が美味いからな。……それともう一つ、いいか?」

「注文の多いハンダだなー。なんだよ?」


 カチャカチャと手は動かしながら応える。振り返らなかったから断言は出来ないけど、多分ハンダは神妙な顔で言った。


「だからシランなのか?」

「……なんだ、さっきの続きか?」

「まあ、そうだな」


 はー、と息を吐き出す。どうしてそんなにそこが気になんのかねーと思う。オレは手を一旦止めると、何となく上を見た。


「そうだなー。話したのも、与えてくれたのも、教えてくれたのも……シランが最初だったよ」


 声を出して自分の考えを話して、相手の考えを聞くってことを。相手に優しくする、手当てをする、自分に出来ることを相手にしてあげるってことを。そうして伝わった思いに応えるってことを。教えてくれたのはシランだ。

 はじめてだった。

 話し掛けてくれた。優しくしてくれた。オレを呼んでくれたのは。


「あの時出会ったのがシランだったから。優しかったシランだったから……」


 だから会いたいと思った。知りたいと思った。優しくなりたい、人になりたいと思った。


「まあ、もしもあの時会ったのがシランじゃなくても、やっぱり好きになったかもしんないけどな」

「……もしも、なんて言うな」


 そこでオレはようやく振り返った。ハンダはしんみりとした顔をしていたが、それを振り払うかのように頭を振ると、ニカッと笑って言った。


「シランとお前が出逢ったから今がある。それだけが真実だ。シランだったから今のお前になったんだ」

「……そうだな」

「だから俺はお前達が安穏と暮らせるよう、これからも勝手に見守って助けてくんだ。それが俺の役割。お前は何がしたい?」


 オレが何がしたいかだって? そんなんわかんない。わかんないけど……。


「シランを守りたい。オレはシランといたいから。ロウも、ハンダだって……守りたい」

「はは、俺も入んのか。そりゃありがたい」

「ちゃ、茶化すんじゃねえよ!」

「わかってるって。それがお前の願いで役割なんだろ? なら頑張れ。迷っても弱音吐いても構わねえ。余裕で受け止めてやるぞ?」

「……あ、ありがとう」


 なんだか気恥ずかしくて俯いてしまう。ハンダが立ち上がると、頭をぐいぐい乱暴に撫でてきた。


「だぁからガキなんだよ、お前は」


 うしし、と笑って髪をくしゃくしゃにしてくるハンダに抗議しながらも、思った。

 ほんとお節介焼きだな、あんたは。だから変なやつらに好かれんだよ。だから妙に安心しちまうんだよ。

 だから、いつもありがとう。


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