010☆狼少年の謎【狼】
ロウ君の謎に迫ってみましょーな回です。ぶっちゃけ中途半端な上に何もわからなかったような気がしてきましたが……あんまり気にしてはいけませんね。相変わらずの脱線したお話です。
ではシンの叫びから始まる第十話をどうぞー。
「つめ!」
「……?」
いきなりシンが叫んだ。堪えきれなくなったらしい。……何がだろう?
「ロウ、お前に訊きたいことがあるっ!」
「……前後してはいないか?」
発言が。
「気にすんなよ些細なことはー」
「……」
シランは放棄したらしい。ため息を一つすると、本を引っ張り出していつものように読み出した。シンもシランはどうでも良かったようで、咎めることはなく、ただただ意気揚々とロウを見て言った。
「さあ、今日こそ答えてもらうぞ~」
隠したつもりも、はぐらかしたこともないのに。で。
「何のことだ?」
「惚けるなー、お前の爪のことだ!」
「ロウとぼけてないぞ?」
と言っても妙なスイッチの入ってしまったシンには通じないらしい。
「ほら爪!」
とりあえず言われた自分の手を見てみる。……ふーむ。
「何訊きたい?」
「シン落ち着け」
「……二人で言わんでも」
言ったことは別々でも意味は何となく近かったからか、ちょっとシンの勢いが弱まった。シランはシンの調子が目に余るものだったから口を挟んだだけらしく、直ぐに目線は本に戻ってしまった。でも何かあればまた助けてくれるだろう、とちょっと安心しながら、ちょっと変なシンに目を戻す。
そしてシンもようやくまともに話す気になってくれたようだ。
「ロウの爪ってさ、刀普通に受け止めてたじゃん?」
「うん」
「しかも黒くてぶっとかったじゃん?」
「うん」
「じゃあさ」
「うん」
「どこに収納されてんの!」
穏やかな会話はいきなりの大声によりぶち壊された。まあ、いいんだけどな。
「どこって……」
指の、付け根に近い方の節目を指差す。
「この辺だけど」
「……出んの?」
「出るよ」
「……皮膚切れちゃうじゃん」
「うん」
「痛いじゃん」
「すぐ治るぞ」
「……大変だな」
「そうか?」
「どんな仕組みになってんだよ?」
「わかんない」
「……そうか」
「うん」
何だかシンが痛々しいそうな目でロウを見ていた。ロウとしては気にしたこともなかったのでそんなに驚くことなのか、と逆にびっくりだ。
「お前だって異常な治癒力があるだろうが」
「それはそれ、これはこれ!」
というシランとシンの会話が間にあったが二人の話はそれだけだったようで直ぐにシランは視線を戻し、シンもロウに向き直った。
「でも普通の爪もあるんだよな?」
「うん、あるぞ」
ちょっと硬めで尖った爪が小さく指先にある。でも狩りの時は役に立たない。でも木登りなんかの時は便利だ。
「なんかすげぇな」
「そうかぁ?」
「なんでそうなってるんだ?」
「ロウが狼だからだぞ」
「ちなみに足は?」
「なんだ、足は見てないのか?」
シランからの疑問が挟まった。本を読んでいる割りにちゃんと話聞いているんだな、と思った。
「じゃあシランはロウの足知ってんだ」
「まあ、風呂に入れば、そりゃあな」
「オレは結局着替えくらいだし、見てねえんだよぉ」
「そんなに気になるなら見せてもらえば良いだろう」
「そだな。ロウ良いか?」
「うん」
別に断るようなことでもないので素直に頷くと、クツを脱いだ。もうヘロヘロでクタクタだけど、随分前からずっと履いているもの。
「こっちは収納出来ないのか?」
「みたい」
足の指の方が獣に近いと思う。指先は丸まり、地面に立てるように爪も伸びていた。でもやっぱり太く硬い。ついでに足は小さかった。
「なんか、妙な感じだな」
シンの素直な感想に、ロウは笑って答える。
「毛がないからな。普通の狼とも違う」
毛で生え際が隠れないから本当に、爪がどう生えているか見えてしまう。しかも下手に人間味のある肌色の皮膚から異様な黒い爪が生えているから。歪で、何だか怖く見えると思う。
「でもロウ、狼だ」
何だか曲げちゃいけないと思う。覚えてないけど、でも狼だからロウだから。強く生きる象徴だから。
「だなっ。すげえなロウ。狼少年だ」
「ロウは嘘つかないぞっ!」
「へ?」
どうもシンは噺を知らずに言ったようだ。シランが密かに笑っているのが見えた。
でも、シンも嘘つかない。本当に感心してるだけ。怖がるわけでも気味悪がるわけでもない。シランも同じく。何でもないように流してしまった。
心が広いなぁ、と思った。
「満足?」
「うん、満足満足。ありがとな」
「ううん、いいよ」
クツを履き直した。実は爪で空けてしまった穴があることは……内緒だ。
「ついでにもひとつ良い?」
「いいぞー」
「尻尾ってどんな感じ? オレ尻尾生えたことないから良くわかんねえんだけど」
最初もそうだったがシンは尻尾についてはかなり寛容なようだ。何で爪は駄目なんだろ、と不思議に思う。
「そうだなぁ、例えると……顔みたいだ」
「かおぉ?」
「楽しいと自然と動くぞ。でもあんま使い途ないぞ」
「そういうもんか」
「うんっ」
「いや、顔は必要だろ」
「目はいるけど顔自体に用途はあるか?」
「……なるほど」
シランも納得させて質問攻めは終了らしい。ついでに補足すると、普段は丸めてズボンの中に納まっている。十数センチメートルの柔らかい尻尾なので苦もさほどない。
「いやー、解決したぁ、すっきりしたなあ」
よっぽど気になっていたようで、実に清々しい笑顔のシンだった。でもそんなに気になっていたなら……。
「なんで聞かなかったか?」
「ふえ?」
不意打ちだったのか間抜けな声を出してシンは振り返った。でも一応聞いてはいたようで考え始める。そんなに悩むような理由なのか? と思ったら違った。
「んー、何となく」
「ふーん」
「あ、でも」
「ん?」
「訊いていいのかな、と思って」
「そか」
「そだ」
最後にはにっこりと笑い合った。まあ良いか、と言葉なく言い合った。
「どっちもどっちだな」
不機嫌そうに聞こえる低い声がぼそりと感想を漏らした。
そう言えばシンは、鱗を生やして火も吹けて怪力らしい。それなら確かにロウの小さな尻尾と黒い爪の生えた手と足くらい、そんな驚くことでもないのかもしれない。
一番豪胆と言うか許容力があるのは、何も聞かずにそう在ることに特別疑問を抱かないで一緒に居てくれる、シランだな。
冷静な第三者の呟きにそんなことを思いながら、ロウは苦笑いを溢した。ちょっとだけ安堵を混ぜて。