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ガーディナル家のティータイム8


「えー、それのどこが黒歴史なのさ?」

 話を聞き終わったリガルドは不満そうな声をだした。

「俺がみんなを引っ張らなければという自信過剰な自分を思い出すからですよ」

「あー、そう言われれば今よりも率先して前に出てたような気がするかな?」

 ジェイディアスが当時のアトラスを思い出しながら相槌をうつ。

「入学した頃は、辺境伯家の後継で実地経験もある俺がちゃんとしないとって思ってたんだよ」

少し苦笑いをしながらアトラスは当時を振り返る。

「でも、蓋を開けてみればどこかの誰かさんは実地経験もあって、剣の実力もあるのに後ろでポヤポヤしやがるしで。そう思ったらなんだか肩の力が抜けました」

 それからは適度に力も抜くことも覚えて、ずいぶん楽になりました、そう言ってアトラスもゆっくりお茶を飲んだ。

「えーと…なんかごめん?で合ってる?」

 苦笑いでジェイディアスが答える。

「いや、どちらかというと俺がジェイにありがとうだな」

 それに、とアトラスは続ける。

「あのままいってたら、うちの学年はあまりいい学年にはならなかった気がするんだよ」

「ふーん、それはまたどうしてなのかな?」

 リガルドがまたもや興味深そうに聞いた。

「あのままだったら、俺とリーノ、ジェイとトウェインの4人の後を着いていくだけの学年で終わったと思うんですよね。俺が引っ張りすぎて、後始末はジェイが務めてで。それは多分、自分で考える兵士じゃ無くなったと思うんです」

「あぁ、トウェインも言っていたね。僕たちが落ちた後大変だったと。それからはクラスメイト達の行動も変わったかな?自分達で考えて動くようになったと思う」

「それは引っ張る頭と守る後ろが居なくなったからかい?」

「そうです。多分俺はあれもこれもと道標をつけ過ぎてたんですよ。小さい頃から後継として親父にあれこれと教えてもらって、辺境伯の兵士団では一から教えてもらって。騎士学校は共に学ぶために入るものなのに。しばらく経って思いました。俺も甘やかされてたんだなと」

 ほら、色々黒歴史でしょう?と2人に向かって肩をすくめる。

「それで、16歳のアトラスは学んだんだな。肩の力を抜いて適度にサボることを」

 リガルドが笑って言った。

「そうですよ。友人達の成長を妨げる訳にはいきませんからね。おかげで随分と楽しい騎士学校生活を送れています」

「やっぱり、私も騎士学校に行きたかった…」

「だからイレギュラーです」

 ちぇっと王太子らしくない言葉を吐きながら、そういえばとリガルドが話を戻す。

「君たちの学年は評価が高いよね。騎士団長が楽しみにしていたよ」

「そりゃそうですよ。アレ以来みんな自分に出来る事をやろうと必死ですし、何かあればすぐに公爵家や辺境伯家の私兵団の練習に混ぜろと言い出すしでウザいです」

 そう言いつつも友人達の長期休みの訓練参加を実家に掛け合っているアトラスの顔は笑っていた。

 実際、ジェイディアスとアトラスの学年の評価はかなり高かった。公立騎士学校は卒業後、街の市兵団に入るか、アトラスやジェイディアス達のような貴族家の私兵団に入るか、飛び抜けて優秀なものは学校長推薦の元、王家の騎士団に入るかの選択肢がある。現在、2年生である彼らの学年からは何人もの学校長推薦が出るのではないかと言われていた。それにジェイディアスとアトラスがリガルドと懇意にしている事も知っているので、何故かすでにリガルドに対する忠誠心も持っていた。下手したらほとんどのクラスメイトが騎士団に入るつもりではないだろうかと思われていた。クラスメイトの1人が代表で、学校長に何人までなら推薦出来るのか確認に行ったところ人数制限はないが、正規の騎士と1対1で戦って勝てるほどの力は必要との答えをもらって俄然やる気を出しているのである。

「かわりに父と我が家の副団長が泣いてるけどね」

「あー、俺も文句言われた。親父と副団長に何のために騎士学校に行かせたと思ってるんだって」

 それでもガーディナル公爵もテヘルーザ辺境伯も国家の力が強くなるなら仕方がないと諦めてはいるが。

「しかも、後継までも取られるなんてと肩を落としていましたよ」

「ん?」

「決めたの?」

「うん、親父にも話して同意をもぎ取ってきた」

「待って、アトラス、君もしかして側近の話…」

「後継を外れたんだから責任取って下さいね、我が君?」

 俺、あなたに捨てられると生活出来なくなるんでとヒモ男のような宣言をする。

「それはもちろん!私はお願いした身だからね、期待にはこたえるまでだ。でも本気でいいのかい?辺境伯家の後継はどうするんだい?」

「2番目のメイルードも3番目もいますからね。それに最終的に妹のシエナになる可能性だってありますし。元々何かあった時のために我が家の子供は全員後継教育を受けて育つんです。辺境ですから。なのでまぁ、何とかなるでしょう、多分。あ、あと親父が殿下のそばに行くならと持ってる爵位を一つくれることになりました。なので身分的にも大丈夫だと思います」

「さすがアトラスだね。全部決めてきたんだ」

「自分の将来だからな。ちゃんと自分で納得したら色々決めて身一つで殿下の元に向かうさ」

「ほんとに嫁入りみたいだね」

「お前は?」

「僕も父が爵位を1つくれるって。なので、よろしくお願いしますね、我が君」

 側近にと願っていた2人から願っていた答えをもらったリガルドは嬉しさを隠しきれないでいた。

「あぁ、君たちの期待に恥じないように頑張るよ」


 そんな風に3人が笑顔で将来を話し合っているのを城から帰ってきていたガーディナル侯爵が涙目で、うちの子達尊い…と聞いていた事を当事者達は気づいていなかった。ちなみにベルティエスとティスエイスは兄様なら当然だよね?という顔で2人してうなづき合っていた。


 この日、ガーディナル公爵家の中庭で、側近を探し求めていた1人の王太子と、側近にと望まれた2人の少年のこれからの未来が新しく始まったのである。


 これはそんな少年達のなんてことない日常と、色々あるこれからの日常のお話。


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