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ガーディナル家のティータイム7



「それで?それで?」

「完全無欠の麗し王子はどこ行ったんです?一旦お茶でも飲んで落ち着いて下さい」

「まさか2人して落ちると思わないじゃないか。なぜ私は今までこの話を聞かなかったのか…」

 リガルドはそう言い悔しそうにしながらも、王族らしく優雅にお茶を飲んだ。

「ほんとうにまさか落ちるとは思わなかったんですよねぇ。ああいう時って動きがスローモーションに見えて、手を伸ばせば捕まえられるかもと思って思わず手を伸ばしちゃったりするんですよね。今でもびっくりしたアトラスの顔を思い出せるよ」

「思い出すな、思い出すな」

 手をヒラヒラさせてアトラスは笑うジェイディアスを見る。

「だから話したくなかったんだ、全く。まぁ、いいさ。続きにいきますよ」




 ジェイディアスとアトラスはそのまま落ちていくかに思えた。幸いにも切り立った崖とはいえ、下にもう一段飛び出した岩肌があったため、2人はそこで止まることが出来た。


「テヘルーザ!大丈夫か!?」

「ってぇ…、ガーディナル?お前こそ大丈夫か!?」

「僕は大丈夫、少しのかすり傷程度だ」

「悪いな、巻き込んでしまって。下まで落ちなくて良かったが…皆は大丈夫だろうか」

 そう言いながら、アトラスは上を見上げた。

「この雨がもう少しおさまれば声も聞こえるんじゃないかと思うんだけど…」

 そうして2人は耳をすますが、雨音が大きくはっきりした声が聞こえる訳でもなかった。2人はひとまず自分達の状態と装備の確認をすることにした。

「テヘルーザ、君はどこも怪我してない?」

「あぁ、体は頑丈だからな。同じくかすり傷ぐらいだよ」

「そっか、なら雨が止むまでここから動かずに様子を見て動いた方が良さそうだね」

「そうだな。上はリーノにまかせたと言って来たから大丈夫だと思う。装備にも特に途中で落としたものも無さそうだし、しばらく待機していよう」

「あぁ、リーノは辺境伯家の者だったんだね。いつも側に居たからそうなのかなとは思ってたんだけど。僕も後ろはトウェインに任せて来たから上は上で大丈夫だと思うよ。まぁ、主家の長男が落ちたなんて聞いたらトウェインもちょっと焦るかもだけど」

 くすくすと笑いながら軽い口調でジェイディアスは話す。

「いや、それはかなり焦るだろ…」

 そう言うアトラスにん?とジェイディアスは顔を向けた。

「よくあることだから大丈夫だよ」

「は?」

「公爵家の演習とかについて行くと、たまに遅れちゃったりするんだよね…最初はみんな探してくれてたんだけど今じゃもうほったらかしでさ、勝手に帰ってくるだろみたいな雰囲気になってて」

 みんな早くてさぁ、困っちゃうよねと笑うジェイディアスにアトラスはこいつ何言ってんの?という顔を向けた。

「ガーディナル、お前公爵家の演習とかについて行ってるのか?」

「あぁ、うん。僕は魔力がないからね、出来ることは何でもしようと思って。幸い、父も応援してくれたし、公爵家の私兵団は父至上主義の騎士達が多いから稽古をつけてもらったりしながら一緒に訓練させてもらってたんだ」

「いや、ちょっと待て。色々おかしいだろーが」

「ん?」

「ん?じゃねぇ。まず公爵家の私兵団といえば2辺境伯家の私兵団とも肩を並べる私兵団だろ。お前そこの私兵団の訓練についてってるのか?」

「そうだよ?おかしいの?」

「私兵団なんて魔力持ちが主だろ。しかも街の市兵団と違って魔力なしのが少ないだろ?魔力なしで入れるなんて剣技が優れているか、知略にたけているかだろ。そんな訓練にお前ついてけてるのか?」

「ん〜、討伐とか演習にはついて行かせてもらってるよ?訓練についていけてるかは分からないけど…」

「…それはついていけてるから行けるんだろーが!」

 そう言ってアトラスはジェイディアスの肩を揺さぶった。

「大体、演習についていけるほど経験があるならお前も他の奴らをちゃんと引っ張れよ!それが責務だろーが!」

「え?怒るのそこなの?」

「他にどこを怒るんだ!?」

「魔力なしのくせに演習についていくなんて足を引っ張る、とか?」

 魔力なしと散々言われ続けてきたジェイディアスはうかがうようにアトラスをみる。

「んなもん、強けりゃあっても無くてもどっちでもいいだろ」

 何の気負いもなくそう答えるアトラスに、ジェイディアスは驚いて目をみはる。

「なんだよ?」

「そんな事言われたの初めてだよ。テヘルーザ、君は辺境伯家の跡取りでしょう?魔力はあって当然のものじゃない?それを無くてもいいなんて他の貴族に聞かれたら大事になるよ?」

「お前なぁ、うちは辺境伯家だぞ。元から他家との関わりが殆ど無いと言われる独立単体貴族家だ。誰に何を言われても、陛下から何か言われない限り問題ない。大体、辺境伯領じゃ魔力が無くても討伐に出てくれてるやつも多い、人手が足りないからな。そりゃ魔力はそれだけで一騎当千の力にもなり得るからあった方がいいとは思うぞ。そうは言っても最終的には弱けりゃ負けるし、強けりゃ生き残れる。お前今までどんな言われ方してきたんだよ…」

 そう肩を落としたかと思えばいや、まぁ公爵家長男だしそう言われるか…と、う〜んと唸って考えるアトラスを嬉しそうにジェイディアスは見ていた。


「あ、辺境伯領では生き残ったもの勝ちだから、何かあればうちにこい」


 そう言っていいことを思いついたと破顔するアトラスにジェイディアスは目をパチパチさせる。

「それは逃げ道を用意してくれてるの?」

「お前なぁ、俺は辺境伯家の後継なんだけど。有能な人材がいたら辺境伯領に引き抜くためにこうして騎士学校に通ってるんだよ。スカウトに決まってるだろ。そうやって辺境伯の私兵団は成り立ってるの」

 その言葉を理解したジェイディアスは花が開くように笑顔を綻ばせて笑った。

「ありがとう」

「結構、本気だぞ」

「なおさら嬉しいなあ」

「あ、雨あがってきたな」

「そうだね、上からも声、聞こえてるね?」

 空を見上げたアトラスと同じように空を見上げたジェイディアスにはトウェインの呼びかける声が聞こえた。

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