ガーディナル家のティータイム4
「リガルド殿下、坊っちゃま。アトラス様が来られました」
ジェイディアスとリガルドに執事が声をかけた。
その後ろから青年も声をかける。
「あれ、もう揃ってたのか。出遅れたなあ」
「いらっしゃい、アトラス」
「アトラス、今日は私の勝ちだな」
ジェイディアスは微笑み、リガルドは勝ち誇った顔で青年を迎えた。
黒い髪に赤い瞳の青年はアトラス・テヘルーザ。この国の辺境を守るテヘルーザ辺境伯の嫡男であるアトラスもリガルドと同じくガーディナル家のティータイムの常連であった。
この国クエンティン王国は2国と土地を接している。その一方を守るのがアーティラクト・テヘルーザ辺境伯である。テヘルーザ辺境伯家は代々子供を学園には通わせず、公立騎士学校に通わせている。そして同じく入学してきたジェイディアスと友人となったのである。
「ジェイと打ち合ったので汗を流してきたんですよ。大体どうして殿下は俺と張り合うかな」
「打ち合いか、私も見たかったなぁ。やっぱり私も騎士学校に入学したかったよ」
「何言ってるんですか。そんな事許される訳ないでしょうが、全く」
2人に出会ってからのリガルドは度々騎士学校に行けば良かったと嘆く。そしてそれを軽くアトラスがいなすのが2人のお約束になっていた。
「大体うちはともかく、公爵家のジェイがこっちにくることがイレギュラーなんだから諦めて下さい」
「分かってるよ、でも君たちにもう少し早く会えてたら私の苦労がなかったかと思うと愚痴をつい、ね」
「それも俺のせいではなくジェイのせいなんで、そっちにどうぞ」
そう言ってアトラスは執事の出してくれたお茶をゆっくり味わった。
「なんと言うか、そこは申し訳ありません」
ジェイディアスは苦笑いしながら謝っていた。
「そもそも、同じ学校と言ったって合う合わないがあるだろう?君たちはどうやって仲良くなったんだい?」
リガルドの疑問にジェイディアスとアトラスはお互い目を合わせる。
「ジェイ、どうぞ」
「アトラス目線の方が良いと思うんだけど?」
「う〜ん、そう言ったって俺お前が入ってくるまで机に突っ伏してたよ?」
「うん、そうだったねぇ。教室に入ったらやっぱり注目浴びちゃってどうしようかと思ったんだけど、そんな中1人突っ伏してる人がいるなぁと思って安心したの覚えてるよ」
ジェイディアスが懐かしそうに思い出し笑いをする。
「いや、安心もどうかと思うけどな。強行軍でこっちに送り込まれたから疲れてたんだよ」
「強行軍?遠征でもしながら来たのかい?」
まさかそんなことないだろう?とリガルドはアトラスの話に疑問をはさむ。
「入学式の5日前まで領地で小競り合いの仲裁に走り回ってたんですよ。で、その後ひたすら単騎で王都を目指して走りました。ヘトヘトで着いて3時間ほど寝てからの入学式です。死ぬかと思いましたよ。いや、それより入学式が迫ってる俺に万事任せて自分は書類仕事に邁進した親父を殴りたくなりますよね…」
アトラスはその時のことを思い出したのか少し顔を歪ませた。
「それで?」
「まだ聞きます?そんなに面白いもんじゃないと思いますけど」
「いいじゃないか、今日の話題はそれにしよう!」
「いや、なんかもうちょっと身になる話にした方がいいと思いますよ?」
「親交を深めるのも大事だろ?」
「えー…」
「アトラス、僕も君があの時何を思ってたか知りたいなぁ」
ジェイディが少し楽しそうに援護射撃をする。
「お前ね…殿下に乗っかりやがって…、後で後悔するなよ?本当になんてことない出来事だったのはお前が1番よく分かってるだろうに」
「勿体ぶらずにさっさと話せ!」
「ほんとうに全くなんてことない話ですからね?後で期待しすぎたとか言わないでくださいよ?」
「分かったからさぁ吐け」
「いや、なんでそんな尋問みたいになってるんですか…」