ガーディナル家のティータイム1
すみません。恋愛までかなり長い道のりになると思います…。遠い…。
「殿下、お待たせしました」
「おかえり、ジェイディ。そんなに待ってないよ。こちらこそ早々にお邪魔しているよ」
殿下と呼ばれた青年はこの国の王太子であるリガルド・クエンティン。なぜか我が物顔でガーディナル公爵家の庭で優雅にお茶をしながら読書をして友人であるジェイディアスを待っていた。
隣に座りながらジェイディアスが問いかける。
「今日は何を読んでるんです?」
「最近流行りの小説だよ。妹達におすすめされたんだけど、騎士とお姫様の恋物語だそうだよ。息抜きにはちょうどいい」
「あ〜…、僕もベッティにおすすめはされたんですけどねぇ。最初の数ページで脱落しましたよ」
「おや、ジェイディは恋愛小説は読まないのかい?たまに読むと面白いよ。まぁ妹達の夢を壊してしまうから言わないけど、こんなことは起こらないからこそ楽しんで読んでいるよ」
苦笑いしながら小説を閉じた。
「殿下は大人ですねぇ。うちのティスはそれをそのままベッティに言って雷が落ちましたよ」
そう、あれは1週間ほど前。
最近流行りの小説でとても面白いのよ!とベルティエスが合同の勉強部屋と化しているダイニングルームの一角にいたジェイディアスとティスエイスに本を持ってきたのだ。少し読んだところでジェイディアスは早々に脱落した。
「ごめん、ベッティ。僕には合わなかったよ…。また違う系統で面白いものがあったら教えてくれると嬉しい」
「そうですか…残念ですわ。お兄様にも面白いと思ってもらえるかと思ったのですけれど…」
ベルティエスはシュンとはしたもののまた面白いものがあったらお知らせしますわ!とジェイディアスに笑顔で話して終わったと思ったところに、小説を少し読んでいたティスエイスが爆弾発言をしたのだ。
「こんなこと起こるわけないでしょ?姉様、こんな夢見てるの?大体、こんな可愛らしい守ってもらうだけの姫様なんている訳ないし、姉様だって真逆の性格じゃないか。王族や高位貴族の現実を知ってるくせによく読んでられるね」
ティスエイスはオブラートに包む事なく、それはもう率直な意見を述べた。その後はもちろん鬼の形相のベルティエスが降臨する事となった。何せ当代一の魔力量で、さらにここは遠慮することもない自分の実家。庭にはベルティエスのために建てられた避雷針。雷が落ちた。比喩ではなく本物の。久しぶりに公爵家の避雷針に直撃し、何事かと思った公爵が大慌てで走ってくることになったのだ。
ジェイディアスはその時のことを思い出して遠い目になりながら、先程の執事が出してくれた紅茶を飲む。
「あのティスエイスがそんなことを?」
「あのってどのです?うちのティスですよ?」
「無口、無表情で有名なティスエイス・ガーディナルだぞ?中等部2年の頃から生徒会をまとめ上げて、意に沿わない意見は笑顔でバッサリ切り捨てて、余計なことは喋らないティスエイスだぞ?」
「無口…?事あるごとにツンツンしながら僕とベッティにつっかかって、最後に可愛い事言って去って行くうちの可愛いティスですよ?」
「それは私の知るティスエイスとは別のティスだな」
驚きながらもふむ、とこちらも執事が新たに入れたあたたかいお茶を飲みながら答える。
「ティスぼっちゃまはジェイディ様とベッティ様が大好きでございますから」
間で執事が助け船を出す。
「そんな言葉で片付くのか?まぁ、家と外では違う面があるのは分かるが…違いが顕著だな。それに学園ではベルティエスもティスエイスもお互い全く会話しないぞ。公爵家に来るようになって驚いたくらいだ」
「うちでは可愛い妹と弟ですよ?」
「うちとは逆だな」
フッと笑う。
「ヨシュア殿下は、今もそのままですか?」
心配そうにジェイディアスが尋ねる。
「変わらないさ。アレは側妃も悪いからどうしようもない。父上もそこに関しては仕方ないと諦めているからな。これ以上何かするようであれば幽閉も考えているだろう」
「…そうですか…、臣下となって共に殿下を支えられればいいと思っていますが、残念ですね」
残っている紅茶を見ながら呟く。
リガルドはおやと思いながら、尋ねる。
「なんだ、公爵のように私を支えてくれるのかい?そのつもりは無いかと思っていたんだが、期待するよ?」
「合同授業でお会いするまではそんなつもりは無かったんですけどねぇ、僕にとっては城内は居心地のいいものではありませんから。でも殿下の人となりを知ってしまうと断るに断れなくなりました」
ジェイディアスは苦笑いだ。
「嬉しい事を聞けたな。あとはアトラスを落とすだけか。」
感情を表に出さないリガルドであるが、心なしか声が弾んでいた。それもそのはず、リガルドにとって近い将来の側近については最近まで頭の痛い問題だった。弟であるヨシュアには母親である側妃の決めた側近候補が2人いるが、リガルドは既に正妃であった母が故人であるので、王たる父が慣例としては決めるものであるが、本人に任せると公言しているため自分で探す必要があったのだ。基本的に通っている学園や小さい頃から交流のある高位貴族、爵位が多少低くても突出した才能があるものなどから選ばれるのだが、リガルドにはこれと感じる者がいなかった。そんな時に騎士学校との合同授業でジェイディアスとアトラスと出会ったのだった。