ガーディナル家は今日も尊い
よろしくお願いします。
「お帰りなさいませ。今日もいらっしゃっておりますよ」
「ただいま。今日来るとは聞いてなかったんだけどな。授業で汗もかいたし、着替えてむかうよ。いつも出迎えありがとうオーティン」
「そうなされませ。過分なお言葉にございます」
白髪混じりの執事は笑顔で屋敷に帰ってきた青年を出迎えている。
対してこの家の長子である ジェイディアス・ガーディナルも笑顔で応じながら、ひとまずは着替えようと考え、屋敷の中の自分の部屋へ向かおうとしていた。
「お兄様、おかえりなさい」
「ベッティ、帰ってきていたのか。ただいま」
「本当はアルナ達とケーキを食べに行く約束をしていたのだけれど、彼女の思い人が急きょ訪ねてこられることになって延期したの。お兄様も今日はお早いのね。そのまま帰ってきて良かったわ」
緩くまとめ上げた輝く金色の髪と透き通った海のような碧い瞳が美しいベルティエス・ガーディナルはそう言いながら、嬉しそうに兄にかけ寄り腕を組む。青年もそれを当然のように受けて左腕を少し持ち上げた。
「体も拭いていないから、汗臭くはないかな?授業でも動いたし、さっきまで少し打ち合っていたんだ」
「まぁ、全然そんなことないと思いますけど?」
少女はクンクンと組んでる腕に鼻を近づけて嗅ぎながら言う。
「それにお兄様なら汗臭くても、それさえもいい匂いになってしまうと思いますわ!」
「うん、そういうことはたとえ兄と言えども軽々しく言っちゃダメだよ。下手な男に言うと大問題が起こるからね?」
青年はメッと少女の額をコツンとたたく。
「お兄様以外にそんなこと思う男性いらっしゃいませんもの」
兄と呼ぶ青年の顔を覗きこみながら、ふふふと少女は微笑む。対して青年も薄い金色にも見える茶色の髪と翡翠の瞳という少女とは異なる色をしながらも、よく似た面影をもつ顔を微笑ませて少女を見つめる。後ろでは先程青年を出迎えた執事が嬉しそうに2人を見つめていた。
「姉様、何してるのさ」
階段を上がろうとしていた2人に2階の廊下を歩いていた少年が声をかける。
「あら、ティス。あなたも帰っていたの?」
そう返されムッとした顔になるが、その後すぐにかけられた声で少年の顔がすこし緩む。
「ティス、ただいま」
そう自分の名前を呼ぶ兄に、金髪に翡翠の少し年若い少年は姉には答えずに兄にむかっていささかぶっきらぼうに答える。
「…兄様、おかえりなさい。2人で何話してたのさ」
近づきながら再度問いかける弟に姉様と呼ばれた少女はふふんと胸を張る。
「お兄様は何をしててもかっこいいって伝えていたのよ」
「うん、ベッティ、誤解を招くからね?それにそんな話ではなかっただろう?」
「あら、そんな話でしたわ」
「…まぁ、なんかそんな話らしいよ、ティス」
結局妹には勝てないことが分かっている青年は、同意した。
「バカじゃないの」
ハッと呆れた顔をして、この家の次男で末っ子であるティスエイス・ガーディナルはそのまま歩きだす。
「ティス、どこにいくんだい?」
「挨拶は済んだんだから、自分の部屋へ帰る!」
「…相変わらず素直じゃないのねぇ、わざわざ挨拶しに出てきたんでしょ?そんな態度じゃそのうちお兄様に嫌われるわよ?」
「五月蝿いよ!姉様!」
「ティスを嫌うわけないじゃないか。何をしてても昔と変わらず可愛いなぁ」
「ッ!どうせ僕は兄様みたいに大人っぽくないよ!早く庭に行けば!?」
フンッとそっぽをむきながらも庭に待ち人がいる事を付け足しながら少し耳を赤くした少年は自室に向かう。そんなティスを素直じゃないなぁと思いながら温かく見送った2人は先程聞いた客人の元へ向かう準備のためにそれぞれの部屋へ向かっていく。
この家ではこんな兄妹のやりとりが日常的に行われていた。