15「異世界三度じゃね?」②
夏樹を出迎えたのは、玉座に座った肥えた豚だった。
禿げた頭の上に金の王冠を乗せ、フランクフルトよりも太い指にはこれでもかと金銀の指輪をはめていた。
太い首には輝く宝石がついたネックレスが巻かれている。
首の肉にチェーンが食い込んで苦しくないのか、と心配になった。
そんな肥えた豚の隣には、もう一頭豚がいた。
玉座が窮屈と思えるほどの巨漢。
隣に座る豚よりも装飾品を身につけていて、動くたびにじゃらじゃらとうるさい。
厚化粧を通り越して、顔というキャンパスに絵の具を塗りたくっているような感じだ。
「うわぁ」
(うわぁ)
夏樹と聖剣さんは、肥えた豚が二頭玉座に座っている光景に、怒りがすぽんと抜けてしまっていた。
「国王陛下! 王妃様! 異世界より召喚に応じた勇者を連れて参りました!」
宮廷魔法使い筆頭トマスの言葉は、まるで夏樹が合意のもとにこの世界にきたと言わんばかりだが、実際は誘拐同然だ。
いや、一番悪いのは勝手にこの世界に飛ばした門の神であるが、それでもこの世界の人間も大概だ。
「……ほう……そちが勇者か。可愛らしい顔をしているな。あとで我が寝所に来るがよい。可愛がってやろう」
「あらあら陛下ったら、わたくしが可愛がってあげたかったのですのに」
「すまぬすまぬ。だが、王として味見をせぬとな」
豚と豚が汚い笑い声をあげる。
「……陛下。まずは、勇者に召喚理由をお話しした方がよろしいと思うのですが」
「そうであったな。すまぬすまぬ、勇者よ。この世界にはかつて魔王がいた」
過去形だった。
「詳細は知らぬが、魔王と魔族の国は飢餓と病に苦しんでいたようでな。我が国に援助と同盟を求めてきたのだ。そこで、魔王を歓迎するフリをして毒殺した」
「……は?」
「魔王の幹部たちも、同様に殺した。無味無臭の毒であるため、魔王だか魔族だか知らぬがあっけなく死んでいったぞ。見せてやりたかったわ!」
ぶひひ、と豚の王は醜悪な笑みを浮かべた。
「魔族どもは奴隷にし、労働力とした。美しい容姿のものは貴族に分け与え、男は戦わせている。戦力が手に入り、我が国は近隣諸国を飲み込み大きくなっている」
しかし、と豚王は苛立ったように言葉を吐き捨てる。
「反乱軍が生まれてしまってな。しかも、魔族と人間が手を組んでいるという意味がわからぬ状況なのだ。我が国の兵は他国侵略に忙しい。そこで、勇者よ! 新たな魔王を名乗る不届きものを殺し、首を持ってくるのだ!」
(――あのさ、聖剣さん。もういいよね?)
(いいわ。やっておしまい!)
(へい! 喜んで!)
聖剣さんの許可が出たので夏樹は動いた。
この場にいた者すべてが、夏樹が消えたように見えただろう。
夏樹は肥えた豚のような王の背後に立っていた。
いや、豚というと豚に失礼な。
醜く肥えた欲望の肉塊の背後に立ち、剣を構える。
「――メリーさん流剣術一式。――私、今、あなたの後ろにいるの、斬り!」
玉座ごと肥えた王の首を横に斬り飛ばした。
その勢いで、隣に座る王妃の首も斬り飛ばした。




