13「絶望するんじゃね?」④
「絶望の神、門の神め……俺とアマイモン様の由良夏樹を別世界に飛ばすとかありえねえだろ! ここであいつが退場したらって、えぇえええええええええええええええええええええええ!? なんか戻ってきたぁああああああああああああああああああああああ!」
後方で成り行きを見守っていたガープが、ぜっくんたちに文句を言っていたが、その途中で異世界に飛ばされたはずの夏樹が戻ってきたことで、大絶叫した。
「嘘ぉおおおおおおおおおおおおおおおお! なんでぇえええええええええええええ!?」
驚いているのは絶叫を続けるガープだけではない。
アテーナーも目を丸くしており、アマイモンでさえ目を揉んで幻ではないかと確認している始末。
「――お兄ちゃん」
杏は、兄が笑っている姿を見て、悲しい顔をしていた。
思えば兄の笑顔を見なくなったのはいつからだろうか。
笑顔そのものは見たことがある。
一登たちと一緒にいるときの兄は笑顔だった。
そうではない。
自分に笑顔を向けてくれなくなったのはいつからだ、と考える。
「いやいやいやいやいやいやいや! なんでなんでなんでなんでなんで!?」
いつなどという問題ではない。
杏が思い出すことのできる自分に向けられた夏樹の笑顔は、幼少期の頃だ。
「嘘でしょぉ! そんなことあるぅ? 異世界ってそんな簡単に行き来できるのぉ?」
すべて杏自身が招いた結果だ。
(今さらあの男のせいなんていわないもん。だって、杏もわるいんだから!)
三原優斗に魅力を感じてしまった。
しかし、最初だけだ。
あとは兄の気を引きたくて、優斗を利用した。
それだけで終わればよかったが、彼の言葉は甘かった。
都合の良い心地よい言葉をかけられてしまい、心が弱かった杏は彼の言葉が正解だと思ってしまった。
そして引けなくなった。
家庭を壊し、兄から嫌われ、父は悲しんだ。
母親になってくれたはずの女性も泣かしてしまった。
その罪悪感から逃避すればするほど、頭の中にモヤがかかったような感覚になった。
ふわふわとして、自分の都合のいい言葉しか聞こえない。
自分のことをちやほやしてくれる人だけしか好きになれない。
そんな杏になってしまった。
しかし、今ならわかる。
間違っていた。
杏は、兄と戦わない。
戦う必要などない。
一登にも謝罪をしなければ。
「あいつチートすぎだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ガープさんちょっと静かにして!」
「あ、はい。すみません!」
ガープ、アマイモン、アテーナーに感謝している。
彼らが杏を正してくれた。
ぜっくんの影響下にあったようだが、そこからも守ってくれた。
ならすべきことはひとつ。
「ガープさん、アマイモンさん、アテーナー様、わたしね」
杏が言葉を言いかけた時、彼女の身体が硬直した。
「なんだ? おい!」
「杏?」
「どうした、杏よ!」
三人の声が聞こえているのに、返事ができない。
杏は虚空から剣を抜くと、自らの意思とは関係なく動く身体に驚く。
「しまった! まだ絶望の神の影響下にあったようだ!」
「あの野郎、もうなりふり構わなくなったな!」
そんな声を聞きながら、杏の身体は勝手に動く。
剣を握り、振るった。
「――杏」
剣を受け止めたのは、一登だった。
謝罪したい、ひとりだ。
唯一見捨てないで本気でぶつかってきてくれた人だ。
「――たすけて」




