49「意外とちゃんとしてね?」
「ようこそ水無月家においでくださりました。心から歓迎致します。由良夏樹様」
「お招きどうもありがとうございます」
水無月家の一室。
神棚が飾られた畳の部屋に、夏樹はいた。
上座には、三十歳後半と思われる柔和な微笑を浮かべる黒髪の女性がいる。
「わたくしは、水無月家の当主である水無月茅と申します。まずは、謝罪を。先日は、娘の都が大変失礼をしてしまったそうで心からお詫び申し上げます。都、謝罪を」
「申し訳ございませんでした!」
着物を身につけ、背筋を正した女性――水無月茅が頭を深く下げると、夏樹を囲うように座る水無月家の面々の中で、上座に近い場所に正座していた水無月都が勢いよく頭を下げて謝罪した。
彼女が内心どう思っているかはさておき、謝罪されたのであれば夏樹としても、忘れることにする。
「いえ、謝っていただけたら構いません。俺も少しやり過ぎてしまいましたし」
身体を両断したことを少しと言っていいのかはさておき、ちゃんと問題なく回復魔法をかけたし、今も見た限り問題なさそうだからよしとする。
余計なことを言って、立場を悪くするつもりはないので、あくまでも謝罪を受ける側として徹することにした。
「そう言っていただけると助かります。ただ、こちらとしても由良様のように強い力を持つ方を急に感知したことで混乱していたとご理解いただけるとありがたく思います」
「それは、はい。理解しているつもりです」
「ありがとうございます。都と同じ中学三年生と聞いていましたが、落ち着き、冷静に話を聞いてくださったことに感謝します」
「いえいえ、そんな」
夏樹としては少し拍子抜けだ。
可能性のひとつとして、一族総出で襲いかかってくることも考えていたのだが、そのような短慮はしないようだ。
老人たちも同じ部屋にいるものの、探るような目を向けていても余計なことは言ってこない。
「よろしいかな、当主殿。我々老人にも彼とお話をさせていただきたいのだが」
「由良様さえよろしければ」
「もちろん構いませんよ。どうしたの、おじいちゃん?」
「……おじいちゃん。まあ、おじいちゃんなのは違いないのだが。ごほん。若くして力を持つと天狗になることがある。私も若い頃、調子に乗っていた苦い過去がある。だが、君は違うようだ。ちゃんと力を持つ者としての自覚があるように見える」
「どうも」
「君が無害な人間であると確信したいために聞かせてほしい。もちろん、答えなくてもよい。――君が持つ力はなんなのだ?」
なんなのだ、と言われても、勇者の力ですと言えるはずもなく、言っても信じないだろう。異世界召喚されていたと聞けば面倒になるから言うなと青山のおじさんに釘を刺されているので言うつもりもない。
「なんなんでしょうね?」
「……すまない。それは質問に答えないという意味かな? それとも君自身がよくわかっていないということかな?」
「わからないって感じです。ある日、空から降ってきたので。こうすぽーんっと」
「そんなことあるわけないじゃない!」
老人たちは苦笑したが、我慢できなかった者がいた。都だ。
夏樹の力の一端をその身で味わっている彼女だから、適当に返事をしたのだとわかったのだろう。そして、それに怒りを覚えたようだ。
「――都。黙りなさい」
「しかし」
「同じことを二度言わせるな」
茅は一度は穏やかに、二度目は強い声音で注意を促した。
夏樹でさえ自分が叱られたように背筋を伸ばしてしまったのだから、都はもっと感じ取ることはあっただろう。口は閉じたものの、納得のいかないような目で夏樹を見ている。
「由良様、申し訳ございません。娘はあなたのように自制心がありませんゆえ、お許しを」
「いえ、こちらもふざけたわけではなかったのですが、そのように感じられたのであればすみません」
茅が謝罪し、夏樹も謝罪した。
再び老人が尋ねる。
「力は時として急に目覚めるものだ。それはよい。だが、その力を持って君は何をしようというのかな?」
「特に何も」
「……ほう」
「個人的には、霊能とかどうでもよくて、のんびり平和に普通に暮らしたいですね。霊能力者のことは少し知りましたけど、俺は陰ながら誰かのために働けるような性格ではないんです」
「なるほど」
「できるならそーっとしておいてくれれば助かるなーって」
夏樹と会話を重ねていた、最も年配と思われる老人は目尻を下げて頷いた。
「君には義務もなにもないのだから、尤もだ。我々としては、底の見えない君と敵対するつもりはない。君が一般人としてのんびり過ごしたいのであれば、尊重しよう」
「ありがとうございます」
「しかし、お互いに信頼を得るために、妥協をしてほしい」
「妥協ですか?」
意外と話がわかるなと思っていたが、水無月家としても無条件で夏樹を放置できないようだ。
気持ちはわかる。
何人か、部屋の外から夏樹のことを探っていたのだが、少し脅かしてやろうと魔力を放出してみたら意識を失った感覚が伝わってきている。老人もそのことに気がついているはずだ。
「君のそばに、監視者を置きたい」
「監視者?」
「あまり悪く考えないでほしい。短い間で構わないので、こちらが信用できるよう、君が信頼に足る人間かどうか判断させてほしいのだよ」
夏樹は返答に困った。
監視というのは面白くないが、我慢はできる。理解もできる。
だが、自分を監視するついでに、グレイや天使の存在が明るみになるのは困る。
「人を使って調べさせることもできるが、それでは本当の君がわからない。君も勝手に自分に良し悪しをつけられても嫌だろう?」
「参考までに、どなたが監視者に?」
「クラスメイトであることを考慮して、都が監視者となることができればと思っている」
ちらり、と水無月都の顔を見た。
あまり納得のいった顔をしていない。あくまでも老人たちの命令に従うだけ、という感じなのだろう。もしかしたら粗を探してやるくらいに考えている可能性もある。
(水無月都って、喧嘩腰だったし、襲いかかってきたし……近くにいたら疲れそう。あ、そうだ)
「すみません、チェンジで」
夏樹の言葉に、老人たちはもちろん、当主も都も、話に参加しない柊と澪も目を丸くした。
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