間話「サタンさんの出会いじゃね?」①
綾川誠司は、バーのカウンターでショットグラスに注がれたウイスキーを眺めていた。
オーダーをしてからかれこれ十五分ほど、彼はグラスに触れることなく見つめている。
他の客を相手にしている初老のマスターも、少し気になっているが、なにか訳ありのようだと察し、声をかけることはしない。
放置、というわけではない。
もっと思い詰めた顔をしていれば、すぐに声をかけただろう。
だが、長年客と付き合ってきたマスターは、まず一杯を飲んでから話かけようと見極めていた。
そんな時だった、からん、と扉が開くと同時に白いスーツの中年男性が店に入ってきた。
体格はよく、スーツがよく似合っている。
頭髪は薄いが、短く整えていること、その堂々とした振る舞い、なによりも日本人離れした風貌から、ハリウッド映画に出てくるような渋い俳優のようだ。
俗に言うイケオジだった。
イケオジ――魔王サタンは、誠司の隣に座る。
「よう、ベルっち。バーボンをショットで頼む」
「……かしこまりました」
マスターがショットグラスにウイスキーを注ぐと、そっとサタンの前に置く。
彼は軽く掲げると、一気に飲み干した。
「ふう。暖かい家庭で楽しくビールもいいが、こういう一人飲みも紳士の嗜みだな」
満足気に、指でもう一杯と注文すると、サタンはふと隣りの男性が暗い顔をしていることに気づいた。
「……どうした、若いの。なにか悩みか?」
普段なら隣に座っているだけの人間に声をかけることなどしないが、なぜかサタンは誠司が気になってしまい声をかけてしまった。
誠司は急に外国人に声をかけられたことに驚いたが、何か思うことがあるようで、ショットグラスを煽ると口を開いた。
「初対面の方にこんなことを言うのは……そのお恥ずかしいのですが」
「初対面だから言えることもあるんだぜ」
「……そうですね」
「すまんな、暗い顔をしているから気になっちまったんだ。気に障ったのなら悪い」
「いえ、そんなことは。……少し聞いてもらってもいいでしょうか?」
「もちろんだとも」
にこり、と笑うサタンに誠司は少し躊躇いながら打ち明けた。
「――家に帰りたくない……いいえ、娘が怖いんです」
どこか泣きそうな顔で、そんなことを言う誠司にサタンが頷く。
「……そういうこともあるよな。反抗期か?」
「反抗期……なんでしょうか。いえ、年齢的にはありえますが、もともと幼い頃から反抗的といいますか、我が強いといいますか……思い通りに物事を進められないと癇癪を起こす子でして」
「若い子の特権だ。それに付き合わされる親はたまったもんじゃないがな」
「そうですね……私だけじゃないですよね」
誠司は少し安心した顔をした。
「ベルっち、彼におかわりを。俺と同じやつを」
「かしこまりました」
「あ、すみません」
「いいっていいって」
新しいショットグラスに注がれたバーボンウイスキーが誠司の前に置かれる。
「じゃあ、大変なお父さんに乾杯だ」
「ははは、ありがとうございます」
サタンと誠司はグラスを掲げ、ウイスキーを一気に飲み干した。
春子さんの元夫・綾川誠司さんと魔王サタンの出会いです。
ちなみにバーのマスターは「ベルゼブブ」さんです。
ちょっと、今後のお話に関わってくる話です。(続きはまた)
次回は再び京都に。




