87「事後処理じゃね?」①
ずんどこ、ずんどこ、太鼓の音が響く。
河原だ。
浅瀬の清流が広がる河原に、焚き火を囲んで河童達が太鼓を叩いて踊っている。
楽しそうな宴が続く。
なにかを祝っているような、何かを崇めているような、どこか儀式的な雰囲気だった。
――刹那、河童たちが立ち止まり、いっせいにこちらを見た。
「――君は河童かい?」
■
「――河童大神様!?」
「いや、なんでじゃ!?」
飛び起きた夏樹の頭を小梅がてしーんと、叩いた。
「あいたっ。あれ、ここは……なんか、おしゃんてぃお部屋?」
由良家の茶の間の倍以上あるリビング、ダイニングキッチン、高そうな絵と観賞植物が飾ってある。
「血を流してぶっ倒れたから心配しとったのに、なんで河童大神とか叫んで起きるんじゃ!?」
「小梅ちゃん、河童大神様から夢を経由してコンタクトがあったんだ」
「んな神はおらんわ、ぼけぇ!」
小梅のツッコミを受けながら、夏樹は自分がどこかの家のリビングのソファーベッドの上で寝ていたことを知る。
(……海の勇者の力をちょっと使ったから限界が来たのか。聖剣さんがサポートしてくれたからぶっ倒れただけで済んだけど、ちょっと無理があったんだなぁ。まだ異世界から帰還して二週間ちょいだし、力が身体に馴染んでないんだよね。うん、しゃーない)
せめてあと二年肉体が成長するか、魔力が馴染むかしていれば、茨木童子ももう少し余裕を持って倒せていたはずだ。
今の自分が未熟であると痛感するには十分だった。
「なっちゃん!」
「あ、円ちゃん」
夏樹が反省していると、安倍円が現れた。
彼の背後からは、安倍東雲、安倍きらら、安倍音叉に左腕を、虎童子に右腕を組まれ困った顔をする七森千手、そして血の涙を流す佐渡祐介、熊童子に仲間かなという目で見られて否定している熊崎伍太郎、そして酒呑童子が現れる。
広いリビングがあっという間に狭くなる。
「なっちゃん、無事やったんやね。晴明様が限界が来て倒れた言うたけど、血を流してたから、ボク心配で」
「なんかごめんね。疲労が限界を超えたみたいかな。ところで、せーめーさんとどーまんさんは?」
「晴明様は……お店開けるからお帰りになったん。道満様も、ボクは知らんかったけど、市役所職員らしくて、いろいろ理由つけて出てきたからって、慌てて戻っとったよ」
「どーまんさんのご職業にびっくり!」
「ほんまやね」
まさか蘆屋道満が市役所勤をしているとは思わなく、夏樹は驚いた。
他の面々もびっくりだったようで「こっちも驚いた」と笑っている。
夏樹としては、改めて礼を言いたかったので残念だ。
「俺はどのくらい寝てた? あと、ここは?」
「ここはボクの家や。といっても、東雲兄貴のマンションを借りてるんやけどね」
「……え? しののんマンションオーナーなの!?」
「はははは。曰く付き物件を格安で手に入れただけやよ」
なんでもない風に言うが、夏樹の中で東雲の立ち位置が変わった。
「実は、おっちゃんもこのマンションに引っ越すことにしたぜ。家賃を格安にしてくれるっていうからな! ワンルームから卒業だ! お酒専用の部屋つくっちゃうぜ!」
「酒呑童子のおっちゃんは相変わらずだなぁ」
「まあな。一応は、娘と息子を亡くしたから、しばらくはしょんぼりするさ」
「――おっちゃん」
「改めて、礼を言うぜ。なっちゃん。俺はやっぱり自分の手でガキは殺したくなかったんだ。そのせいで面倒ごとになっちまったことを申し訳なく思う」
酒呑童子は、一同に深々と謝罪した。
「俺は別にいいよ。ちゃんとけじめつけたし。……でも、ちょっとだけ、酒呑童子のおっちゃんごめんね」
「なっちゃんが謝る必要なんてねえさ」
茨木童子も金童子も殺す選択肢しかなかったが、それでも酒呑童子には子供だ。
少しだけ、申し訳なく思った。
「自分らも酒呑童子はんに謝ってもらう必要はないで」
「……ボクもや。茨木童子は許さんけど、それはそれや」
東雲も円も、酒呑童子個人には思うことはない、と割り切ることができたようだ。
そのことに少しだけ安心する。
「ありがとうな。代わりと言ったらなんだが、星熊童子、虎童子、熊童子が安倍家の連中と関わった証拠を提出させる」
「おおきに。代わりに、星熊童子はん、虎童子はん、熊童子はんとは敵対なしってことでええんやね?」
「そうしてくれると、ありがてえ。もともと茨木童子に逆らえなくてやっていただけだ。こいつらは俺似だから、すぐに人の生活に馴染むさ」
星熊童子たちに関しては、取引がなされたようだ。
この辺りに関して、夏樹がどうこういうつもりはない。
ただ、安倍音叉と虎童子が千手を巡って火花を散らしているのをみて、これからどうなるのか楽しみだと思う。
羨ましそうな顔をしている祐介のことは見ないことにした。
酒呑童子さんは特に何もしていませんが、星熊童子さん、虎童子さん、熊童子さんは司法取引的な感じです。
ただ、強硬派には鬼を恨む人もいろので、その辺りが難しいですが、しののんに丸投げすればオーケーどす!




