69「ラブコメの終わりじゃね?」②
しかし、夏樹の攻撃は茨木童子に届かない。
それもそのはず、彼女は意識のない円を盾にしたのだ。
名も知らぬ人間ならば、夏樹は躊躇いなく斬っていただろう。
だが、他ならぬ安倍円だと話が変わる。
――夏樹は円に会うために京都に来たのだから。
「ふふっ。強力な剣を持っているようだけど、使えなければ宝の持ち腐れね。しかし、見ない顔よね。お名前は?」
「ギャラクシー河童勇者」
「――っ、お前がギャラクシー勇者か! 酒呑童子や九尾と組んで、私としののんの仲を引き裂こうとしている河童め!」
「――え?」
「……なんで、そんな知らなかったみたいな顔してるの?」
「いや、俺はあんたのことを殺しに来ただけで、別にしののんとの仲を裂こうってわけじゃ」
「なんであんたがしののんのことをしののんって言ってるの!? 誰の許可を得てしののん呼びしてるの!?」
「うわぁ、きも……ぐぺっ」
茨木童子とは会話が成立しない。
そう確信した夏樹は、茨木童子に殴り飛ばされて吹っ飛んだ。
茨木童子たちの拠点の屋敷の中に突っ込み、何枚も壁や扉を貫通し、武家屋敷には似つかないファンシーなお部屋の天蓋付きベッドに受け止められた。
「あ、鼻血出ちゃった」
近くにあったティッシュをもらい、ちーん、と鼻をかむ。
「いやぁ、それにしてもさすが鬼というべきかなんというか、俺の血でドーピング経験があるからって、強すぎぃ。あと会話してるのに会話できていないのが、異世界で俺に付き纏ったお姫様を思い出すから……なっちゃんポイント五千万だよ」
「……その基準がよくわかんないんだけど!」
「あ、聖剣さん、ども」
「ええ、あなたの唯一無二の相棒にしてパートナーの聖剣さんよ。崇めなさい」
「ははー」
「よろしい」
「んで、何割出せる?」
音もなく現れた聖剣さんに夏樹が尋ねると、彼女は少し考える。
「トールだかグランデだかわからない名前のやつと戦ったことで、夏樹の器が広がったから万全な状態での六割はいけるわね。あたしの力も少し使えるわ。だけど、まだちゃんとした名前を呼ばせてはあげない。それで死ぬなら、死んじゃいなさい」
「つーめーたーいー!」
「聖剣を使うには身体も魔力も、そして心も未成熟よ。ま、あっちの世界で心を殺して殺戮と破壊の限りを尽くしているよりはマシだけど」
「あんなことはしないって」
「そう願うわ。べ、別に今のあんたのほうが好きとか言ったわけじゃないから勘違いしないでよね!」
「唐突なツンデレ!? どったの!?」
桃色のツインテールを振り乱していきなりツンデレった聖剣さんに夏樹は戸惑う。
そんなことはお構いなしに、聖剣さんは続けた。
「あと、パンツ一枚の神も言っていたけど、海の勇者としての力は使ったらダメよ。せめて七割、いいえ、八割の力を取り戻すまで封じておきなさい」
「八割出せたら茨木童子とか瞬殺だけどね!」
「――いえ、おそらくだけど、八割でギリかもしれないわよ」
「マジで?」
「あんた見る目なくしたんじゃないの? 茨木童子って鬼はかなりの量の人間を食っているわ。理由は知らないし、興味もないけど、蓄えた力をまだ自分に還元していないわ。そうね――茨木童子がもう一匹いるくらいだと思いなさい」
「うげ」
(万全な状態での六割に、聖剣さんがちょっと力を貸してくれる状況下かぁ。単純な力ならトールさんの方が茨木童子よりも上だけど、ああいう狂った奴ってなにするかわからないから怖いんだよねえ)
「ま、いいや」
「戦うのね?」
「そりゃそうさ。しののんじゃ勝てないだろうし、小梅ちゃんでもおそらく難しい。それに、円ちゃんが囚われてるから、俺が助けないと」
ベッドから立ち上がり鼻血が止まったことを確認すると、夏樹は茨木童子を殺すために歩き始める。
「一発殴られたから、百回斬らないとね」
「あら、優しいこと。あたしなら千回斬るわ」
「それはめんどい」
「そうよねー」
そんな戯言を叩くと、聖剣さんが聖剣に姿を変える。
身体をうっすらと剣の形に変えていく中、「そういえば」と聖剣さんが親指を立てた。
「東雲円のことだけど――あたし的にアリよ!」
「ちょ、どういうこと!? もしかして銀子さん案件!? うわぁ! マジかぁ、影響うけちゃったかぁ! かつて心を閉ざして人間なんて信じないとか言っていた聖剣さんとは思えないお言葉になっちゃん泣きそう!」
聖剣に形を変えた相棒を握り、ちょっと悲しんだ夏樹だったが、次の瞬間意識を切り替えた。
「――よし。鬼退治するか」
聖剣さんの言いたかったことは……またいつか。
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