66「急なラブコメじゃね?」②
佐渡祐介は、優しい両親とツンデレな義妹がいる少し裕福な家庭で育ったごく普通の少年だった。
少し個性を言えば、創作物に出てくる人外っ子が好きくらいだ。
ネットで同好の士を見つけ、日々盛り上がることが好きな、普通の大学生だった。
そんな兄に、義妹は「きもっ。つーか、創作の中のモンスターよりも、わわわわわたしのほうが」と気持ち悪がられてしまっているが、年頃の兄妹などそんなものだろう。
兄と妹として仲良く、休日はショッピングや映画に行くくらいには仲がよかった。
――そんな祐介の生活は、異世界召喚によって一変した。
最初は、正直、喜んだ。
大好きな人外娘がリアルでいる世界だ。
ハーレム作ってやるぜ、と意気込んだくらいだ。
しかし、祐介の初めては、かつて権力を持っていたことだけが自慢の貴族の女性によって奪われた。
次は、屈強な騎士にまるで強姦のように襲われた。
夏樹が、異世界人を不快に思ったように、祐介も不快に思った。
お世辞にも衛生面がいいとは思えず、また戦争中ということもあってか、まず男も女も臭い。体臭も口臭も、現代の日本人には我慢できないレベルだった。
そんな匂いを香水で誤魔化しているのだから、何度吐いたかわからない。
勇者の血を残すと種馬扱いされ、辛い日々を過ごした。
だが、まだ我慢できていた。
祐介にとって、最も辛かったのは人外っ子を殺さなければならないことだ。
世界に帰るためだから仕方がない。
そう割り切り戦っても、褒められたことはない。
むしろ、以前の勇者のほうがもっと強く、もっと効率よく殺していたと罵倒される始末。
精神的に病み、もう死にたいとさえ考えて、最後にはその通りに命を散らした。
地球に戻ってきてからも、異世界で体験したことが事実だったのか、夢だったのかわからず、人に対しても怖くなっていた。
そんな時、出会ったのが同じ世界に勇者として召喚された経験がある由良夏樹と、地球のファンタジーの住人である七森千手だった。
彼らの存在に、祐介がどれだけ救われたのか、きっと知らないだろう。
だから、サキュバスを紹介してもらう話を断ってでも、彼らのために力になろうと京都に来た。
来たのだが――。
「いやぁああああああああああああああああああああああ! 千手さんが僕を差し置いて虎ピーとラブコメったぁああああああああああああああああああああああああ!」
心を引き裂かれるような辛い現実が祐介を襲った。
「……この子、こわっ!」
「いつものことじゃ。祐介は少々辛い思いをしとるのじゃ。生暖かい目で見守ってやってほしいんじゃ。あとで仕置きしとくでのう」
大気が震えるほどの絶叫をする祐介に、東雲はドン引きだ。
まさかこれだけ人外娘が好きな人間がいるとは思っていもいなかったのだ。
「もう、我慢できない。僕に人外っ子とラブコメさせてくれない世界なんて滅んでしまえばいいんだ! 僕は、――ダークサイドに堕ちるぞぉおおおおおおおおおおお!」
「そんな理由で落ちられてもこまるんですけーどっ!」
「はうっ」
熊童子と戦った時の数倍の魔力を放出して物騒なことを言い始めた祐介の背後から、夏樹が軽く股間を蹴り上げた。
股間を押さえてうずくまる祐介。
不意打ちだったせいか、さほど力を入れていないのに「かひゅー、かひゅー」と変な呼吸をしている。
夏樹は大きくため息をつくと、千手と虎童子に視線を向けた。
「――あらまあ」
ふたりはまだ唇を重ねたまま硬直している。
お互いに何が起きたのか理解できていないのだろう。
虎童子はさておき、千手の口周りが血まみれなのは、きっと相当の衝撃を喰らったからだろう。
じぃっと、いつまでちゅーしているんだろうと、見守っていると、先に正気に戻った虎童子が千手から飛び退き、唇を腕で拭った。
そして、頬を染めると、
「あ、あたいの唇を奪ったんだから……責任取れよな」
恥ずかしそうにそう言った。
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
再び大地の勇者の叫びが裏京都に木霊するのだった。
玉藻さん「鬼と人との戦いを見守っとるのじゃが、ラブコメが繰り広げられて妾は動揺を隠せない件」
ちなみに、祐介くんはちゃんと幸せになります。
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