28「解剖とか酷くね?」②
「なにが起きやがった!」
「勇者ぱーんち!」
宇宙人ナンシーが囚われていた部屋に、スタンガン片手に入ってきた三十歳前後の男の顔面を、とりあえず夏樹はぶん殴った。
「ごふぇっ」
ちょっと力を入れすぎたせいか、廊下の壁にぶつかり、ずるずると崩れ落ちる。
「うん。正当防衛ってことでお願いします。か弱い中学生が、スタンガン装備したおっさんに襲われたら命の危機を感じるでしょ」
廊下に出てスタンガンを踏み潰す。
「とりあえず、チャリに乗って彼女と逃げな……って、壊れちゃったんだよね。車の鍵を見つけても運転できないだろうし。宇宙船召喚できないの?」
「……大騒ぎを覚悟すればできるが」
「あー、最悪の事態が起きない限り呼ばない方がいいかもね。本当は、怯えている彼女さんを連れて行ってもらったほうがいいと思うんだけど……よし。わかった。とりあえず、全員潰してくるから、ここにいて」
「任せていいのだろうか?」
ジャックの感情こそ読めないが、彼が夏樹に負い目を感じていることくらいは声のトーンでわかった。
すでに婚約者を助けたのだから、逃げるだけでいいはずだ。
しかし、夏樹はそれをよしとしない。
友人の婚約者がもう少しで解剖されかけたのだ。許すことなどできはしない。
責任を取らせることはできないだろうし、首謀者たちをぶっ飛ばしても夏樹の気が晴れるだけでナンシーの恐怖が癒えることはないだろう。ならば、二度と宇宙人を見つけてもよからぬことを考えないように徹底的にやっておく必要がある。
「ああ、彼女のそばにいてあげてくれ。俺は、ジャックの分までここにいる奴らをぶっ飛ばしてくるよ」
夏樹は自然と人差し指を伸ばした。
ジャックも応じてくれた。
人差し指と人差し指が触れあった瞬間、夏樹とジャックは友達を超えた存在になった。
「頼む――親友よ」
「まかせろ、親友!」
部屋を飛び出し、走る。
力のない奴に用はない。夏樹が目指したのは、ここに唯一いる霊能力者だ。
地を這うように疾走しながら、警棒を持った男を昏倒させ、刺股を持った女性を気絶させた。一般人は残りふたり。
(こいつら、ジャックがナンシーを助けにくることを想定して捕らえようとしていやがったな。ジャックはこいつらを殺さないように、周囲に危害を与えないように我慢していたっていうのに……吐き気がする奴らだ)
宇宙人を発見し、捕らえたということは興奮するだろうし、名を売りたいと思うのもわからないわけではない。だが、ジャックができたようにナンシーも意思疎通ができたはずだ。できていながら、解剖をしようとする発想が不愉快だ。
夏樹個人からすると、友好的な宇宙人と邂逅していながら敵対するような行動をとるのは滑稽でしかない。
仮にも『河童・つちのこ研究会』を名乗るのであれば、宇宙人と交流して未知なる世界に足を踏み込もうとする浪漫があってもいいはずだ。
はっきり言って、地方都市の郊外で研究会を名乗っている程度の人間が、仮に宇宙人を解剖したところで何がわかるというのだ。
政府に売るとかしたほうがよほどマシだ。
「はーい! こんばんはー!」
「――っ、なんだ貴様は!」
気配と霊力を辿ってひとつの部屋にたどり着くと、厚い扉を蹴破り、夏樹は笑顔で挨拶した。
ジーンズにジャケットを羽織っている青年がひとり、スーツ姿の四十代の女性がひとり。
夏樹の登場に警戒を浮かべた青い顔をしている。力を何も感じないので、一般人だろう。魔力を放出して、『当てて』気絶させた。
失禁してその場に崩れ落ちたが、こちらの責任ではない。それに、宇宙人を相手にしたのだ、その程度で済んで感謝してもらいたい。
一般人と無駄な会話をするつもりはないので、夏樹の彼らに対する扱いは雑だった。
「で、あんたが霊能力者でオッケー? それとも宇宙人のグレイ族と敵対している別の種族だったら、胸熱展開なんですけど?」
夏樹の目の前には余裕ぶった顔をする二十代半ばの男性がいた。
無駄に金をかけていると中学生でもわかるスーツと革靴を履き、夜だというのにサングラスをかけた気取った男だった。
とても残念であるが、水無月都、水無月澪よりも霊力は小さい。特別な力があれば別だが、現時点で夏樹の男に対する感想は――雑魚、だった。
「院かと思えばガキがのこのこと……お前も霊力を持っているようだが、見ない顔だな。まだ力を自覚しきれていないガキが宇宙人に頼られて乗り込んできたようだが、本物の霊能力者の力を叩き込んでやる」
「あ、はい」
「だが、もしこちら側につくというのなら、少し小遣いくらいはくれてやろう」
「援助交際はちょっと、勘弁してほしいな」
「……クソガキが。大人を舐めたこと後悔させてやる」
男は苛立つと、夏樹の前でゆっくりサングラスを下ろした。
勇者VS霊能力者……となればいいですね。
ブックマーク登録、ご評価よろしくお願い致します!




