36「置いてかれた側にイベントじゃね?」①
「――ちょ、夏樹くんと小梅さん、普通に僕のこと置いてちゃったんだけど!」
「呪いをしている間に、私のことも置いて行ったじゃない! いい根性しているわね、夏樹! 小梅!」
千手を中心にかごめかごめしながら祝詞をあげていた間に、夏樹と小梅が帰ってしまったことに一登と花子はショックを受けた。
「僕、無理やり仲間に入れられたのに!」
「私だって、頼まれたから渋々やってあげただけなのに! 西洋の神なのに、東洋式で頑張ったのよ!?」
夏樹たちに置いて行かれた一登と花子はお怒りだが、虎童子は千手をベッドに運び添い寝を始め、七森康弘はその様子をスマホで激写していた。雄介祐介に至っては、至極真面目な顔をして千手のパソコンを操作し「ふむ、鬼っ子系のエッチなものが無いんだけど、これ本当に千手さんのパソコンかな?」と中身を漁っている。
一登と花子は顔を見合わせて大きくため息をついた。
「一応言っておくけど、僕って常識人だから」
「私だって、最近は常識枠よ!」
お互いが常識人であることを確認するように、言葉にして、頷き合った。
一登は内心では、花子は現在も常識枠では無い気がしたが、余計なことを言わないことにした。
余計な一言を言ったせいで散々な目にあった夏樹を見てきているので学習しているのだ。
「はぁ、とりあえず帰りましょう。さすがにもうないと思うけど、新たな神々や「帝国」なんかが襲撃してくる可能性もゼロじゃないから送っていくわ」
「ありがとうございます」
一登は火輪の剣と契約をした勇者であるが、その力は夏樹や祐介に比べると劣る。
火輪の剣は、異世界に存在した剣であるため、まだ地球の空気と魔力に馴染んでいない面があり、必要がない時は眠っている。時々元気になると部屋でゲームをするくらいになったが、それでもまだ不安定だ。しかし、一登が必要とすれば力を貸してくれるありがたい相棒だった。
仮に襲撃されても戦うことはできるが、花子が一緒にいてくれるだけで心強い。
一登には、花子の強さがわからない。強いことはわかるのだが、あまりにも強すぎてわからないのだ。負けず嫌いな夏樹が「多分勝てない」と言うのだから、相当なのだろう。
一登の経験上、夏樹の言い方では「間違いなく勝てない」という意味だろう。
異世界で夏樹の全力を見ている一登としては、まだ上がいるのかとゾッとする。
同時に、自分も夏樹に並べることは難しくても、背中を追いかけて強くなろうと決意を新たにした。
一登は花子と一緒に千手を拝むと、虎童子たちに挨拶をしてマンションを後にした。
花子から、いかに幼少期の小梅が可愛らしかったかという話を聞きながら、そろそろ家に着くという時、
「――止まりなさい、一登」
花子によって肩を掴まれ無理やり制止させられた。
「花子さん?」
一登は困惑した顔で花子を伺う。
だが、花子はいっさい一登に視線を向けなかった。
額に汗を浮かべ、全力で警戒をしている。
何が起きているのかわからず、不安になる一登の耳に靴音が聞こえた。
はっとなって顔を上げると、いつの間にか赤髪を短めに揃えたボーイッシュな幼い少女がいた。
「やっほー」




