33「つくつくとすさすさの一休みじゃね?」①
月読の生活するマンションの一室。
月読命と素盞嗚尊はテーブルを挟んで椅子に座っている。
かしゅっ、と心地よい音を立ててビールを開けた素盞嗚尊は美味そうに喉を鳴らす。
「かーっ、やっぱりこれだねぇ!」
「人の家のビールを勝手に飲まないでください。やりくりして買っているんですから」
「お酒が飲めるだけいいじゃん! 今の俺は麦茶だよ! アルコール禁止だからね!」
「あなたの家庭事情までしりませんよ」
「しくしくしくしく」
「やめなさい」
泣き真似をやめた素盞嗚尊はビールを飲み干すと、再び冷蔵庫に手を伸ばしてビールを二本取り出し、兄の前にも置いた。
「死の神を無事に捕まえた祝いってことでいいじゃないか」
「そうですね」
長い時間、月読命は「不死の神」を探していた。
「不死の神」の対極にいるのが「死の神」だ。
本人は知らないと言っているが、何か情報を得ることができるかもしれない。
何よりも、「不死の神」ほどではないが、警戒していた「死の神」を捕縛し、こちら側に引き込むことはできずとも敵対関係にはならない約束をさせたことはとても大きかった。
月読が他にも警戒している新たな神々は「門の神」「善行の神」そして「愛の神」だ。すでに門の神は夏樹によって消滅し、愛の神はなぜか夏樹たちにフレンドリーであり、青森でサマエルと親しくしているようだ。先日、さまたんチャンネルに愛の女神が出ていてびっくりした。
善行の神はちらほら目撃情報がある。
新たな神々の中で、最強であると言われているのが愛の神と善行の神だ。
しかし、その善行の神の言動は少々おかしい。
自らの行動を「悪行」といいながら、善行ばかりしているのだ。彼の手によって育てられた少年少女は多く、大人になり、家庭を持ち幸せに暮らしている。
善行の神は育てたことをも利用すると言っているが、した形跡はない。
先日も、育てた子供の結婚式で号泣していたと聞く。
「では私も……」
ビールに手を伸ばした月読命だったが、ぴたりと動きを止めた。
「兄ちゃん?」
「……残念ですがやめておきましょう。万が一、万が一ですよ、夏樹くんが午後も大暴れしたら駆けつけなければいけませんので、お酒は控えましょう。冷蔵庫から麦茶をとってください」
「いやぁ、さすがになっちゃんだって午前中にあんな大きなイベントをやったら、もう今日はないでしょう」
「わかりませんよ? すでに別の新たな神々と接触している可能性だってあります」
「さすがにそれは……あるかもしれないのが怖い!」
月読は向島市を中心にいくつか、新たな神々や敵意ある者に対しての網を張っている。
しかし、細々とした力しかもたない者まで探知する必要はないため、網目を大きくしていた。
月読の網に引っかかるのは、一定以上の力を持つ者だけ。
無論、その者が巧妙に力を隠せば、網も機能しないこともある。
だから心配は尽きない。
少し前までは、大きな問題はなかった。
だが、ここ一ヶ月ほど、向島市に吸い込まれるように神々、魔族、新たな神々がやってくるのだから気が気ではない。
「夏樹くんも戦いを望んではいませんので、できることなら彼に何か起きないように対処してあげたいのですが……みんな夏樹くんの方に行っちゃうんですよね」
「なっちゃんって目立つもんな」
「ですねぇ」
月読は素盞嗚尊が注いでくれた麦茶を、ぐいっ、と飲み干して、明日の朝まで何事もないことを祈った。




