75「ありすさんの過去じゃね?」②
日本に、故郷である向島市に無事に戻ってくることができたありすだったが、喜んでいたのは初めの数日だけだった。
ありすは気づいてしまった。
自分の中に魔力があり、勇者としての力が残っているのだと。
ありすは己の失態を悟った。
異世界での日々を悪夢としていたため、日本に戻ってくることができればすべて元通りになると勝手に考えていた。
しかし、現実は違う。
間違いなく故郷に戻ってくることはできたが、一度手にした力を捨てることはできなかったのだ。
己の力にありすは焦った。
人の命を難なく奪える力が、現代日本に不必要であることを理解していたのだ。
万が一、誰かにバレようものなら、と考えてゾッとした。
どうなるのかわからなかったのだ。
予想も何もできないことはありすにとって恐怖であり、ストレスだった。
ならば、自分から前に進むしかないと決めて、動くことにした。
まず、この世界に「力」を持つ人間がいるのか調べることにした。
すぐに「力」を持つ人間がいることを突き止めた。
日本では霊能力者と言い、人知れず人間に害を与える存在と戦っているらしい。
霊能力者たちをまとめる「院」という組織はあるものの、日本の霊能力者をすべてまとめているわけではなく、京都、四国、沖縄などは独自の組織があるとわかった。
情報を集め、精査して、――関わらないことを決めた。
「力」を持っている人間が隠れているだけで存在していることに安堵した。
百合園家も、霊能関係と無関係ではないともわかり、力を隠しておくことにした。
調査の過程で、以前から護衛として一緒にいてくれていた八咫多聞が霊能力者であることを知ったことにはさすがのありすも驚いた。
以前から、「たもんたもん」と言動が怪しい多聞が霊能力者であると知り、「あ、やっぱり普通じゃなかった」と安心したのだ。
同時に、姉のような存在である多聞にだけは自身の起きたことを話した。
多聞のおかげで、ありすの心は支えられた。また、多聞の知り合いに、霊能関係の医者がいてカウンセリングも受けられることになった。守秘義務があるので、ありがたかった。多聞の紹介なら大丈夫であろうと、通ったのだ。
半年ほどで今までと変わらない生活を取り戻して、異世界を悪夢だと改めて割り切ることができた時、「新たな神々」から接触があった。
日常を再び失ったショックで、当時の会話の内容は鮮明に覚えているわけではない。
ただ、「新たな神々」は勇者や異世界帰還者をはじめ、能力を持つ人間を集めているようだ。特に、何かしらの組織に入っていない人間を好んで集めているらしい。
「新たな神々」はぐだぐだと自分たちのことを語ったが、ようは神々や魔族と戦い、自分たちが神話をつくるということだ。
「――勝手にやってくださいませ」
そう心底思った。
続けて、そんなありすに「帝国」が接触してきた。
なんらかの形で異世界に関わってしまった者、生まれながらに力を持っている者たちが助け合う互助会のような存在だと説明を受けた。
助け合いは問題ないが戦いたくないというありすに、「帝国」は戦わなくていいと言ってくれた。戦いに向いている者が戦うから、大丈夫と言ってくれた。
この時、ありすは油断してしまったのかも知れない。
自分と同じ境遇の者ならば、大丈夫だと思ってしまった。
だが、少しずつ、帝国が変わっていった。
最初は本当に互助会だった。
助け合い、話し合い、苦しみを分かち合った。
しかし、人数が増えると、自分たちを利用しようと企む「新たな神々」に対して怒りを抱くようになった。
何人かが交戦し、勝利もした。敗北もした。
だんだんと怯えて身を隠すのではなく、戦って堂々とする話になった。
ここまではよかった。
ここまでならば、よかった。
ありすの知らない内に、「帝国」が好戦的になった。
自分たちから新たな神々を見つけ、魔族や悪魔、妖怪などを排除していくようになった。
まるで自分たち以外はいらないとわんばかりだ。
そのことに疑問を持ったありすは、古参であることもあり「皇帝」に今の「帝国」にはついていけないと告げたが、聞き入れてもらえなかった。
良くも悪くも帝国は力で序列が決まっているところがある。
そういう意味では、ありすも上から数えた方が早かったが、「帝国」のあり方が変わってしまったのであれば、もしくは気づいていなかっただけで元からこんな組織であったのであれば、もう関わりたくないと抜けることにした。
同じ想いを持つ同志たちと共に。
しかし、「帝国」は戦力を手放したくなく、「新たな神々」は組織から離れたありすたちを取り込めると考えた。
ありすは限界だった。
もっと強い、味方が欲しかった。
――そんな時、由良夏樹が勇者であると知った。




