66「語尾を主張すればいいってもんじゃなくね?」①
「小梅ちゃん!? 急に夏樹みたいにイベントだなんて叫んでどうしちゃったの!?」
エプロン姿のサタンが慌てて玄関に走ってくる。
「い、い、イベントが向こうから来たんじゃ」
「……え? まさか、そんな」
魔王サタンでさえ、動揺を隠せなかった。
夏樹が二度寝して身体を休めている最中、まさかイベントが自ら訪ねてくるとは思わなかった。
「イベントが勝手にやってくるのは夢の中だけで勘弁してやれよぉ」
「と、とりあえず、話を聞くなり追い返すなりしなけりゃいけないんだ。玄関を開けて……先手必勝だ、いいな?」
「さすが魔王じゃのう! ならば、このスーパーミラクルハイパー小梅様パンチを」
「――――こちらに戦う意志はございません。わたくしはお話をするために参りました」
玄関のドアの向こう側から落ち着いた少女の声が響いた。
どうやら小梅とサタンが騒いだため、来訪者に声は筒抜けだったらしい。
「……とりあえず、顔だけで見てやるんじゃ」
小梅がそう言って玄関を開けた。
そこには、水色のワンピースの白いカーディガンを羽織った少女がいた。
年齢は、十六、十七くらいだろうか。どこか儚げに見えるのは、印象に残る白い長髪のせいだろう。
そんな少女の一歩後ろに控えるのは、黒いスーツに身を包んだ、左目に眼帯をした三十歳ほどの女性だった。
女性は少女を日差しから守るため、日傘を差していた。
「――ごきげんよう」
「……ご、ごきげんよう?」
小梅は震えた。
元お嬢様キャラだった過去を持つ小梅だからわかる。
(――此奴、生粋のお嬢様じゃ。きっとなんとかグループの令嬢とかそういうレベルのお嬢様じゃっ! 元お嬢様キャラとして負けるわけにはいかないんじゃ!)
勝手に対抗心を燃やす小梅は、短パンとTシャツにサンダルを履いた姿で仁王立ちした。
「それで、全身から全力でお嬢様アピールをしとるおどれはどこのどいつじゃ!?」
「お嬢様だなんて、お上手ですわね。わたくしは、百合園ありす。彼女は私の護衛をしてくださる、八咫多聞ですわ」
「――八咫多聞でございまたもんたもん」
「なんじゃかマモンのパチモンまで現れたんじゃが! おどれら個性強すぎじゃろう!」
少女――百合園ありすが楽しそうに微笑む。
女性――八咫多聞は個性が強めの語尾をしながら、表情を動かさなかった。
「先ほど途中まで申しましたが、わたくしは「帝国」に所属しておりましたが、「帝国」の方針を受け入れられず仲違いしていまい、現在はわたくしが「女帝《empress》」を名乗り特別な力を持つ人たちと一緒に行動しております」
「……新興組織が派閥争いとか失笑もんなんじゃが!」
「耳が痛いですわ。本日は、勇者である由良夏樹様をスカウトに参りました」
「たもんたもん」
「喋ることがないんなら黙っとれ! 無駄に主張するでない! 話に集中できんじゃろう!」
小梅の後ろから様子を伺うサタンは、きっと夏樹の二度寝は終わるんだろうな、と察した。




