63「ストレス発散は大事じゃね?」①
「えっと、とりあえず、俺が異世界にいた頃とは状況も変わってきているので、できれば一度星子さんともお話をしていただきまして、その上で、ほ……じゃなかった海の神さんのお力を貸していただけるとなっちゃんとしても有象無象どもを鏖殺しやすくなるといいますか、はい」
「……鏖殺て。夏樹くん、中学生なのに物騒ですねぇ」
風の神が顔を引き攣らせている。
だが、これには夏樹も反論があった。
「俺だって好きで鏖殺しているわけじゃないですから! 鏖殺しなけりゃいいたいことも言えないのが悪いの!」
「……一応、夏樹くんが召喚された異世界に関しての情報は聞いていますけど、控えめに言ってもっと他の世界だったらよかったですね!」
「本当にね!」
「ま、もうそれはいいんだ。決着は付けたし、星子さんたちとも出会えたし、お師匠様から教えを受けて、今はお孫さんのいつるさんと出会いギャラクシー流に入門できたし」
「ごめんなさい、最後がよくわからないんですけど。あ、説明は別にいいです。聞いてもわからないと思いますから」
「……しょんぼり」
どうやら風の神はギャラクシー流を理解できない残念な神らしい。
夏樹は悲しげに肩を落とした。
「ところで、えっと、海の神さん」
「怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨」
「――ぴっ」
通訳してくれている風の神とばかり話すのもおかしいので、ホラーさんにも話を振ろうとしたが、なぜかホラーさんはホラーになっていた。
長い前髪を顔に垂らし、髪の隙間から覗く瞳は血走っている。
つい先ほどまでいた、人見知りの大人しい美人な女性から変貌を遂げていたのだ。
――正直、失禁するかと思った。
「あー、かつてないほと誰かと喋ったので疲れちゃったんですね」
「疲れたらこんなに怖くなるの!?」
「夏樹くん、現代っ子ならわかるでしょう? ストレスってヤバいんですよ」
「そりゃそうだけどさ!」
ストレスが溜まることはよくない。
現代社会では、ストレスとの戦いであることは子供の夏樹でも知っている。
だからと言って、人見知り系美女がホラーになるとは思わないだろ。
「残念ですが、今回はこのくらいにしておきましょう」
「うん。俺も、意思疎通ができるのならよかったよ」
「怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨」
「だから怖いよ!?」
ホラー要素が増してきたホラーさんに、「そうだ」と夏樹は言い忘れていたことを思い出した。
「海の神さん――水着、似合っているよ!」
親指を立てて彼女の水着を褒めた。
彼女の黒いビキニはほっそりとしながら出るところは出ている身体によく似合っていた。
「――――――――――怨っ!」
夏樹が突然に褒めたものだからホラーさんは身体を硬直させるも、肌を赤くして砂浜を走ると、波打ち際から海へ飛び込む。そして、水泳選手顔負けのクロールでビーチから海の向こうに行ってしまった。
口をあけて呆然と残された夏樹に、風の神が声をかけた。
「夏樹くん、女性の水着を褒めるなんて」
「あれ、まずかった?」
「最高です! よくできました!」
「どやぁ!」
――こうしてホラーさんこと海の神と夏樹のコミュニケーションは始まったのだった。




