50「イケメンって高級車に乗っているイメージじゃね?」
「さて、夏樹くん、杏さん、さすがにこのままさようならと見送るとまた何かに巻き込まれる可能性があるので送ります」
「やったー、月読先生のドイツ車だー!」
「え? 月読先生、ドイツ車乗っているんですか!?」
「……残念ながら、乗っていません。乗れるものなら乗りたいのですが、乗っていません。というか前にも車に関してのやりとりをしませんでしたっけ!?」
「覚えていないっす」
「……ここまで飛んできましたので、タクシーです。さあ、行きましょう」
すでに時間は夜七時を回っている。
間違いなく夏樹は母春子に叱られるだろう。
不思議だ。どんな相手と戦っても怯えることなんてなかったのに、恐怖で膝が笑ってしまう。
河童さんの肩を借りて夏樹は河川敷を上がっていく。
「では、タクシーを捕まえてきますね。しばらくお待ち……いえ、あの、河童さんたちは河川敷がお家ですからここで帰っていただけると助かるのですが」
「なっちゃん家に遊びに行きたいかっぱー!」
「杏ちゃんのペットになるかっぱー!」
「一度タクシーに乗ってみたかったらっぱー!」
「……さすがにタクシーに河童さんを乗せるのは難しいですので、今回は諦めていただけないでしょうか?」
「わかったかっぱー」
「また今度ねっぱー」
「あっぱー」
河童さんたちはしょんぼりすると手を振って河川敷に帰っていく。
「この胸に残る罪悪感は……いったい。悪いことなんて何もしていないのですが」
胸を押さえて複雑な顔をする月読に、夏樹と杏が「わかる」と頷く。
後ろ髪を引かれながら、河川敷を降りて道路に着く。タクシーを探そうとすると、車のクラクションが鳴り一台の軽自動車が止まった。
「よう、杏、由良夏樹、月読命ぉ? どんな組み合わせだよ」
「あ、ガープさんだ! こんばんは!」
「おう、こんばんは!」
「月読先生、月読先生、タクシーがきたよ! ガープタクシーだよ!」
「誰がタクシーだ! なんだ? タクシー待ちか? ったく、仕方がねえな、乗りな家まで送っていってやるよ」
「いいんですか?」
「いいも何も、困った時はお互い様だろ」
「助かります」
「さすがガープさん!」
「いやー、悪いな、ガープ」
「ガープさんって言えよ!」
そんなやりとりをしながら、夏樹たちはガープの軽自動車に乗り込んだ。
月読が助手席に、夏樹と杏は後部座席に座る。シートベルトをして出発した。
「んで、面白い組み合わせだな。さっき凄まじい力を感じ取ったんだが、また何か由良夏樹関連で大暴れしたのか?」
「ちょ待てよ! なんで俺案件になってるんだよぉ!」
「向島市で起こるドンパチの八割はお前関連だろ!」
「せめて六割だよ! つーか、俺が異世界から帰ってきたイベントの一部はガープたちも入っているからな!」
「ガープさんって呼べよ! 六割でも大したもんだ。それで、今度はどこのどいつを鏖殺したんだ?」
「違うよ! 二代目門の神が杏さんをナンパして過去にランデブーしようとしたからギャラクシー流のお仕置きをしただけだよ!」
「……今日び、中学生からランデブーって言葉が出てくることにガープさんびっくり」
「月読先生もびっくり」
「杏もびっくりかな!」
おや、と夏樹は首を傾げた。
「ランデブーって言わない?」
「言わねえよ、お前昭和生まれかよ!」
「平成だよ!」
「このゆとり世代が!」
「俺はどちらかと言ったらギャラクシー世代ですぅ!」
「なにそれ!?」
「つーか、世代で言ったらガープだって縄文時代じゃねえか!」
「そこまで昔じゃねえよ!」
「じゃあ、弥生時代?」
「……まあ、そのくらいか」
「ジジィ!」
「あ、お前、そういうこと言うと、俺よりも年寄りの月読が泣くぞ!」
「別に泣きませんよ」
「あ、ごめんなさい、月読先生。旧石器時代生まれだもんね」
「…………さすがにその時代にはいませんでしたよ。いたとしたら、始まりの神々と言いますか、概念たちくらいですね」
「あー、原初たちか」
夏樹は悩んだ。
おそらく月読とガープが指している存在は、海の神たちのことだろう。
まさか自分の中にいて、一緒にバーベキューやってウィジャボードもらいました、とは言い辛い。
「彼らとは私も数える程度しか会ったことはありませんが、行動理由は一切不明ですね。できれば新たな神々に拘らぬように、こちら側でいてほしいのですが」
「はっ、無駄だ。いくら俺が魔族でお前が神でも、始まりの自然をどうこうできるわけがねえんだよ」
「それは、そうでしょうね」
(あ、やべ。とっても会いましたとは言いづらくなってきた)
間違いなく言うタイミングを逃してしまった夏樹は、誤魔化すようにそっと窓の外を見た。




