48「ツンデレは心の栄養剤じゃね?」
「――さて、生徒を助けてくださったようで心から感謝します。私は月読命と申します。貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
月読の視線は、夏樹たちの会話を邪魔せず見守っていたいつるに向いた。
「いつる・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星」
「…………」
「いつる・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星」
「あ、いや、聞こえています。すみません、不意打ちみたいに長いお名前だったので、失礼しました」
「私もいずれあなたに挨拶をするつもりだった。詳細を今、話すのはできないけれど、敵ではないことを信じて欲しい」
「なるほど。しかし、この場で私を納得せてくれる情報が欲しいですね」
「――私は、由良夏樹の姉弟子」
「………………はい?」
「我が祖父、翔・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星の孫にして、弟子。ギャラクシー流の使い手」
「あー、つまり夏樹くん案件ですね」
「――そう」
「なら仕方がありません。生徒を守ってくれましたし、信じましょう」
「感謝します。あなたにギャラクシーの導きが在らんことを」
「……ど、どうも」
(月読先生が、めっちゃ頭痛いみたいな顔をしてこっちを見てくるけど、俺にも説明できないというかなんというかギャラクシー流の使い手で、星子さんを倒しに来て、師匠から俺のことを任されて……きっと月読先生は信じてくれないとなっちゃん思うなぁ)
正直、夏樹であってもいつるの存在は最初こそ受け入れがたかった。
彼女は異世界ではなく、別の星から来たというのだ。
ジャックとナンシーの存在を知らなかったら、「何寝言言ってるの?」と言っていただろう。
「明日、夕方に伺わせてもらっても構いませんか?」
「はい。時間を空けておきましょう」
「――では、また明日に。夏樹くん、杏さん、……ギャラクシー」
「ギャラクシーっ!」
「ぎゃ、ギャラクシー!」
いつるは月読にお辞儀をして夏樹と杏に挨拶をすると、消えた。
河童さんたちが「そんな挨拶ねーよ」と抗議していたが、聞こえないふりをした。
「さすがギャラクシー流。俺でも何が起きたのかわからなかった」
相変わらずいつるは底が見えない。
底があるのかと疑問を抱いてしまうことだってある。
それだけ、夏樹よりもいつるは格上なのだ。
「ね、ねえ、お兄ちゃん」
「うん?」
杏がもじもじと夏樹に声をかけた。
「さっき、杏のことを妹って」
「…………あー、そういえば、そんなこと言ったかも?」
「言ったもん!」
夏樹は自分が怒りに身を任せてポロっと口に出してしまったことを思い出す。
勢いで言ってしまったが、なんだか恥ずかしい。
「お、小野妹子と間違えただけだもん!」
「さすがにそれは……ないんじゃないかな」
「ウチに小野妹子いるんだもん!」
「そうなの!? いるのなら、杏、会いたいよ!?」
月読と河童さんが呆れた顔で「何を言っているのだ?」と夏樹に微妙な視線を向けた。
(くっ、なんだか恥ずかしい。星子さん、すみれさん、今こそ俺の力を授けてくれっ!)
夏樹は腕を組み、つんっ、とそっぽを向いた。
「べ、別にあんたのことを妹として関係をやり直してもいいかななんて思っていないんだからねっ、勘違いしないでよねっ!」
「あ、はい」
「そこは真顔で返さないでほしいだけどねっ!」
月読と河童さんが「うわー」と言う顔をしていたが、夏樹はツンデレが失敗したことで恥ずかしくてそれどころではなかった。




