44「美味しい話ほど怪しいものはなくね?」②
「お前っ、今っ、ギャラクシーって言ったな! 由良夏樹の関係者か!」
血が流れる斬り落とされた腕を抑え、唾を飛ばして門の神が叫んだ。
今の彼からは、今までの余裕がまったくない。
「私は、いつる・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星です。由良夏樹くんは私の弟子です」
「名前が長いんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
河川敷を駆け上がってくる門の神の胸を、いつるは容赦無く刀で貫いた。
「――な」
「臓器と骨の隙間を刺しましたので動かないことをおすすめします。あなたが神であれば、この程度では死なないでしょうけど、痛いものは痛いと思います」
「…………この程度の攻撃で僕をどうにかできるものか!」
後退することで身体から刀を抜いた門の神が、いつるに攻撃を仕掛けようとして腕の再生を試みた。
しかし、彼は何やら驚いた顔をして、未だ血が止まらぬ腕を見た。
「……お前、何をした?」
「質問の意図がわかりません」
「僕の腕に何をしたぁあああああああああああああああああ!」
「ああ、そんなことですか。――斬りました」
「わかってる! 斬られたことくらいわかっている! なぜ、再生できないんだ!」
「ですから、斬りました。あなたの腕を、身体に流れる宇宙の流れごと斬りました。再生能力を持っていたとしても、その腕は治りません。なぜなら、それがギャラクシー流なのですから」
「意味の、わからない、ことを!」
いつるは門の神から杏に視線を向けて、優しい笑みを浮かべた。
「綾川杏でしたね。君は強い子ですが、少々あの神では荷が重いでしょう。私が戦うので、君は可愛らしい河童たちを連れて逃げなさい」
「で、でも」
「私のことなら心配いりません。ただ、ここでは力はそれなりにしか出すことができませんので、神殺しはできませんが、泣くほど痛めつけてあげましょう」
いつるは杏の返事を聞かずに、地面を蹴った。
音を立てずに門の神に肉薄すると、首を掴んで河川敷にある広場へ瞬く間に移動した。
そして、そのまま少し力を入れて門の神を地面に叩きつけた。
「――――――か」
門の神の肺から空気が漏れるよりも早く、二度、三度、四度、五度、持ち上げては地面に叩きつけた。
「意外と頑丈な身体ですね」
いつるが門の神を投げ捨てた。
転がった門の神は、呻く間もなく吐血を繰り返した。
おそらく、骨や内臓に損傷があるのだろう。
「今回は斬っていないので再生可能ですよ? 早く傷を癒やし、立ち上がりなさい。私は這いつくばった者を斬る趣味はありません」
「――ま」
「なにか?」
「――――さま」
「聞こえません。言いたいことがあるのならはっきり言いなさい」
「貴様ぁあああああああああああああああああああああ!」
血と唾液を撒き散らしながら、門の神が絶叫した。
「人間の分際で僕をコケにしやがって! だから戦いなんて嫌なんだ! 痛くて楽しくない! くそっくそっくそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「戦意喪失ですか……いいでしょう。では、首を差し出してくださ――い?」
「いつるさん! 下! 下っ!」
いつるが違和感を覚えるのと同時に、杏が叫んでいた。
視線を下に向けると、真下には大きな門があった。
何か嫌な予感がして飛びのこうとしたいつるだったが、足場が消えた。
「ふっ、はっ!」
門の神が嗤う。
「しま」
いくらいつるでも真下に現れた門に飲み込まれるとは思っていなかったようだ。
そのまま開いた門の中に吸い込まれ、門は閉じた。
「いつるさんっ!」
交流こそほぼないが、いつるが夏樹の友人であることを知っている杏は自分を助けたせいで彼女が門の神によって大変なことになってしまったと嘆く。
「あはははははははははははははっ! 僕を舐めるから、こういう目に遭うんだよ! この門は、僕が丹精込めて作り出した由良夏樹を閉じ込めておくための世界の入り口だ! そこから出ることなんて不可――」
門の神の高笑いは、門の爆発によってかき消された。




