29「親に秘密を知られるといろいろ面倒じゃね?」
柏原保が消えて、七森康弘がとんでもないことを言い出したので、七森千手が詰め寄った。
「俺の黒歴史ノートを捨てやがったとか、意味わからねえんだが!」
「千ちゃんも若かったからパパそっと見て見ぬふりして捨ててあげたんだよ?」
「証拠残らない様に燃やせよ!」
「安心しなさい。英智と百恵も痛々しい厨二病設定を描きまくったノートがあったが、パパがこっそり千ちゃんのだけは捨てておいたから。百恵に至っては、今も引きこもって痛々しい設定を考えながら、いつか王子様が迎えにきてくれると信じているから平気平気」
「……いや、平気じゃねえだろ。あの女は死ぬほど嫌いだが、あんた実の父親なんだからちょっとくらい気にしてやれよ!」
「我が娘ながら、やることなすことすべて久乃に似ているから、パパちょっと関わりたくないなぁ」
「……まあ、その辺はわかるけど、わかるけどな!」
七森英智と百恵は腹違いの兄と姉だ。
もっとも、千手は兄とも姉とも思っていない。
さらに言えば、英智はさておき、百恵とは徹底的に相性が悪い。
康弘も言ったが、彼の妻である久乃に百恵は性格が瓜二つなのだ。気に入らなければヒステリックになって暴れる性格がとにかく受け入れられない。
千手は長年の恨みを晴らすために、百恵の婚約者にいろいろ悪事を暴露して関係を終わらせてやったが、兄や父のように「停止」されることがよほど嫌だったのだろう。直接何かをされることはなく、現在引きこもり生活を送っているらしい。
「七森の連中はどうでもいいんだが、俺の秘密ノートが「帝国」の連中に渡っているとかないよね? 設定が似ているだけで、俺の過去にモリモリ考えた設定を参考にされてないよね!?」
「二度目だけど、さすがにパパにもわからない」
「千手様、康弘様を責めないでください」
七森康弘に仕える秘書森山田善次郎が割って入った。
彼は、スーツを着こなし、黒髪を七三分けにした、眼鏡をかけた男性だ。仕事できますオーラを漂わせているが、実際に仕事はかなりできる。
康弘と善次郎が一緒に行動しているからこそ、七森家の立場は強かった。院での地位も、水無月家への攻撃も、直接的なことは康弘が行ったが、下準備は善次郎が用意していた。
本家と分家を超えた幼い頃からの親友と聞いている。
「康弘様は、英智様も百恵様も痛々しい設定集は捨てるなどという親切はしませんでした」
「親切じゃねえよ?」
「いえ、親切なのです。久乃様は常々千手様の粗探しをしていましたので、もしあのノートが見つかれば、目の前で音読されていたでしょう」
「死ぬほど嫌だな!」
自分を愛人の子と蔑み虐げた女に、黒歴史を目の前で音読されるとか地獄以外のなにものでもない。
「でしょう? 正直、私が読んでも失笑ものでしたので」
「読むんじゃねえよ! あと、バカにしているのか!?」
「いえ、まさか! バカになど、ただ、帝国とか爵位とか安直といいますか、もう少し何か名前を足すなり捻るなりした方がよかったかなと思いまして」
「……バカにしてるじゃねえかよ! あと内容を覚えていなくていいから、忘れろ!」
戦いが終わったはずなのに、なぜか今の方が疲れている。
そんな千手の肩をマモンがねぎらう様に優しく叩いた。
「まもんまもん」
「悪いが俺は由良じゃねえから、まもんまもんだけじゃまもんまもんとしか伝わらねえんだよ!」




