28「これ以上ない助っ人じゃね?」③
守谷盛夫が言い放った「傀儡術」にマモンたちは警戒を見せなかった。
その理由は、単純だ。
何かを傀儡にするよりも早く叩き潰せばいい。
それだけのことだ。
「――マモンパンチっ! で、まもんまもん!」
殺さないように加減したマモンの腰の入った拳が盛夫の鳩尾に突き刺さった。
「――が、は」
傀儡術は言葉通りに、何かを、もしくは誰かを傀儡にする術なのだろう。
だが、若干のタイムラグが発生するものであることは容易に想像できる。千手の魔眼であっても、手足を動かすよりも少しだけ遅いのだ。
盛夫が勇者なのか、勇者ではないのか不明だが、魔族であるマモンの身体能力を上回ってはいないようだ。
「て、めぇ」
腹部を押さえて後ずさる盛夫だが、その瞳には明確な敵意を燃やしていた。
マモンの一撃を受けて、心が折れていないことは感心した。
「……一発入れたくらいで余裕ぶってんじゃ」
「ラブリー千ちゃんとプリティーとらぴーのらぶらぶパンチ!」
「げっ、ほ」
言葉の途中で、七森康弘の拳が盛夫の鳩尾に刺さった。
立て続けに鳩尾に二度も拳を受けて、盛夫の意識が飛びかけた。
膝が震え、今にも倒れてしまいそうだ。
傀儡など使う暇を与えなかった。
「君がどこのどなただか知りませんが、七森家と敵対するということはこういうことであるとその身で覚えておくといいでしょう」
森山田善次郎が盛夫の背後からネクタイで首を絞める。
「あ、がっ」
「一般人なら殺しはしませんが、どうやら君は違うようですし……血の匂いもしますので、後腐れなく死んでもらいましょう」
容赦無く首を絞めていく善次郎のネクタイを外そうと盛夫がもがく。
「何やってんだよ! あんた!」
斑目ぱおんが慌てるが、康弘が立ち塞がった。
「こんな少年が白昼堂々と襲撃をするとは嘆かわしい。悪党としては三下だが、安心しなさい。今日の敗北を糧に、もっと強く、悪くなるといい」
「――く」
剣を構えたぱおんに対し、康弘が懐に飛び込む。
剣が振り下ろされるよりも早く、康弘の蹴りがぱおんの膝を蹴り、体勢が崩れる。
身体を傾かせたぱおんの顎に、掌底が綺麗に決まった。
ぱおんは衝撃を受け、ひっくり返るように倒れてしまった。
「――まもんまもん。さて、俺は強欲な魔族であるが寛大な魔族でもある。この場で降伏し、さまたん万歳というのであれば、まもんまもんな慈悲深さで捕縛で許すでまもんまもん」
マモンが保に向かい静かな、しかし、有無を言わさぬ声を出す。
だが、保から余裕は消えなかった。
「まさか七つの大罪の魔族にお目にかかれるとは光栄です。私は、魔眼の勇者、柏原保と申します。あなた方と交友を深めたいのですが、残念です。――停まりなさい」
「――まも」
保の短い命令に、マモンが硬直する。
「なんの、これしきまもんまもん」
「お見事です。魔族を相手にしたのでそれなりに力を込めたのですが、やはり人間とは基本的なスペックが違う様ですね。ですが、我々が逃げるには十分過ぎます」
保はゆっくりと、倒れているぱおんを起こし、ネクタイによって首を絞められて気絶寸前になっていた盛夫を助けた。
康弘も森山田も、マモン同様に身体を硬直させていた。
そして、虎童子も。
「七森千手――あなたにも停まるようなのに命じたはずなのですが、効きませんでしたね。どうやら我々の力は似ているため、抵抗できるようです」
「だったらなんだ?」
「意気込まずとも、ご安心ください。我々も痛手を負いましたので、今日はここで引きましょう。ぱおんと盛夫は少々実力を慢心していたので、良い経験になりました。どうもありがとうございます。私たちはこの戦いでまたひとつ強くなった」
「いちいち、鬱陶しいやつだ。逃げるならさっさと逃げろ、見逃してやる」
「それはどうもありがとうございます、と言っておきましょう。私も、そちらの鬼を見逃しましょう」
保は盛夫を担ぎ、ぱおんを小脇に抱える。
「――では、またお会いしましょう。我々帝国はいつでもあなたを歓迎します。ですが、今度は、ふたりきりで、邪魔されずに話をしたいですね」
「俺はごめんだね」
「ふふふ」
保は薄く笑いながら、消えた。
次の瞬間、マモンたちの硬直が解けた。
「――まもんまもん。あの男、なかなかのまもんまもんの使い手と見たでまもんまもん」
「仲間がやられていながら冷静さを失わないところも面白いな」
「残念ですね、千手様に敵対しなければぜひスカウトしたかったところです」
硬直させられたことなど気にしていないマモンたち。
その気になれば、いつでも硬直は強制解除できたのだ。
しかし、それをしなかったのは、相手を引かせるため。
まだ戦うというのなら、本気で殺さなければならない。
手を抜くことなどできない実力を、間違いなく保は持っていた。
「やれやれ、千ちゃん。厄介なのに目をつけられたな。それにしても帝国か。愉快な組織名だ。まるで千ちゃんが中学生の頃、もりもりノートに書きまくっていた設定のようじゃないか」
「ちょ、ま」
「そういえば、あのノートは間違えて捨ててしまったんだが、取っておけばよかったな」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおい! まさかとは思うけど、ノートが拾われているってことはねえよな!?」
「さすがに、それはパパにもわかんない!」
「うぜぇええええええええええええええ! ていうか、拾われていたらいろいろやばいんですけど! 息子の黒歴史を簡単に捨てないでくれますぅ!?」




